fate. | ナノ






小さくて細いけど前よりもがっしりとした体を力任せに抱き締める。


「お、おい! 離せって」
「な、なんでこんなところにいるの!? 迷子!?」
「はあ!? んなわけねえだろ!」



ゴン君いないし、世界規模での迷子かと思った。
よかった。一人でこんなところ歩いてたら心配するじゃないか。
まあ、私も一人で歩いてたんだけど。




すると、キルアが私の肩を押して無理やり剥がした。
離れた体温を悲しく思いながら素直に離れる。




「オレも探し物あるから歩きながら話すわ」



歩き出したキルアの横に並ぶ。



キルアが話すのを相槌を打ちながら聞く。




ゴン君のお父さんを探していること。
お父さんを探す手がかりが、あるゲームをプレイすることで見つかるかもしれないということ。
そのゲームがオークションに出されること。
落札するためには大金が必要なこと。
そのお金を集めるためのひとつの方法ここで掘り出し物のお宝を探してるっていうこと。




「そのゲームっていくらなの?」




私の手持ちで五万くらいならあるから協力してあげてもいいけど。
てか、ゲームってそんなに高いものなの?
ゲーム機とカセット入れてまあ高くても10万以内には収まるだろうけど。



「オークションだからどれくらい跳ね上がるかわかんねえけど、最低落札希望価格は89億」
「89億!?」



思わず目眩がする。
89億のゲームなんて一体どんなゲームなんだ。
そしてゴン君のお父さん大分鬼畜だね。
まだ12歳の子供にそんな大金稼げるわけないないのに。
しかも、最低落札希望価格だから89億よりも高くなるってことだ。
……信じられない。
私の所持金なんてはした金過ぎて渡せないよ。






「そ、だから苦労してるんだよなあ」



飄々といったキルア。
全然困ってるようには見えない。
むしろ楽しんでるような。

やっぱり友達と一緒に行動するのは楽しいのかな。


微笑ましいけどちょっぴりさみしいな。






「てかよ、なまえこそなんでこんなとこにいるんだ?」
「私はね、観光だよ」
「一人でか?」
「イルと一緒なんだよね」
「やっぱりな……てか、近くにいねえよな」




げ、といった感じで周りを見渡すキルア。
そんなにイルに会いたくないのかな。
結構性格変わってきたと思うんだけど。



「大丈夫大丈夫。いないよ」
「……まあ気配は感じねえけど」
「心配性だねえ」
「当たり前だろ! あの兄貴だぜ!? 絶でもしてこっちの様子見てたらどうすんだよ」
「ぜつ?」
「あ? ああ、そうかなまえは知らねえもんな」
「なんなのそれ」
「言ってもわからねえし! 気にすんな」




お宝探しに行こうぜ! と私の手を引っ張る。
気になるけど、まあ手を繋いでくれるからなかったことにしてあげようか。
キルアに繋がれた手を見てにやける。




「何探してるの?」
「お宝!」
「そんな探し方でわかるの?」



すたすたと歩きながら品物を流し目で確認していく。
そんな一瞬見るだけでわからないでしょ!



「おう! 俺ならな!」
「どんな能力!?」
「目を凝らして見れば見えるんだよ」



得意そうに笑うキルア。
本当にどんな能力だ。
お宝かそうじゃないか目を凝らして見るだけで分かるなんて。
しかも一瞬見るだけなのに、目を凝らすって矛盾してない?
ありえない。







……ん? けどこれ初めてじゃないかも。
ありえない能力なんてイルも使えるじゃん。





「ねん?」



そう呟くとキルアの足が止まった。




「し、知ってんのか?」
「うん。イルが何回か使ってた」




私の怪我を治してくれたりとか、うさぎのぬいぐるみをイルっぽくしたりとか。
ほんと便利な能力だよ。




「なっ、何されたんだよ!」
「え? いや別に悪いようにはされてないよ?」
「ほんとかよ」




怪しむような目で私を見てくるキルア。
なんでイルのことになるとそんなに疑心暗鬼になるんだ。
心配しなくてもイルは昔とは変わったのに。




「大丈夫だって!」
「お前はイル兄を甘く見すぎだ!」
「そんなことないって」
「そんなことあるっつーの!!」
「……うーん、そうかなあ」
「そうだよ!」





キルアはこの件に対して折れてくれそうはないので、仕方なくお姉さんの私が折れてあげる。
話を変えて、キルアのお宝探しを話題に出す。
キルアも時間がないからか、渋々イルの話をやめてくれた。



しばらく歩くとひとつの店で止まった。





「お、これいいじゃん」



アンティークの人形を手に取ったキルア。




「おおっ、なんだかそれっぽい」
「結構オーラ出てる」
「オーラ?」
「念を使うのに大事なエネルギーだよ」




お前念知ってんのにオーラのこと知らねえのかよ。と呆れたようにキルアに言われる。
だって、そんな真剣に勉強したわけじゃないし。
イルも詳しく教えてくれないし。



「これ入札しとくか」
「あ、けどゼパイルっていう人が先に書いてるね」
「おーまあ2.5倍に書き換えとくか」



さらさらとキルアが札に書いて立ち上がる。
次行こうぜという合図に立ち上がる。
また市を歩いて掘り出し物を探す。



今度は手を繋がずに。
あーあ、そういえば私が念を知ってるって言った時に離されたんだった。







「キルアー」
「なんだよ」
「お姉ちゃんと手繋ごーよ」



ほんの少しからかうように言うとリンゴのように顔を真っ赤にしたキルア。
ほんと可愛いなあ。


できるならずっと私の店に住んで欲しいくらいだよ。






「なっ、オレはお前のこと姉ちゃんとか……! 手とか……!」



色々否定したいんだろうけど言葉になってないキルア。
頭がいっぱいいっぱいなんだろうな。


もう、普段スカしてるくせに。
まだまだ子供だね。
にやけるのを我慢してると手を握られた。





「時間ねえんだからはぐれんなよ!」



大股で歩くふわふわの後頭部を見て思わず叫びそうになった。



(なんて可愛い天使なんだ!!!!)
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