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short short


2013/01/22 13:46

重苦しい感情は胸を圧迫し腹へ溜まる。鉛のように。それを吐き出したくてたまらないのに、幾ら口を開いて嘔吐いても、ひとかけらも出てこない。吐き出されるのは別の感情で、取り繕うまでもなく、言葉は勝手に優しげな響きとともに滑り出す。相手は笑う。嬉しそうに。違う、違う。僕はこんなの望んでいない。僕は全てを壊してしまいたい。僕は何もかもが憎かった。何もかも壊してなくしてしまいたかった。けれどそれは無理だと知っていた。トム・リドルには無理だった。トム・リドルは半純血だ。マグルでも無いが、純血でも無い。半端な存在。こんなに全てが揃っているのに、ただ血だけが僕を裏切る。僕は完璧になりたかった。僕は完璧でなければならなかった。僕は完璧になれなかった。
だから捨てた。名前も顔も過去も全て。完璧になれないのなら、全て捨てて作り変えてしまえばいい。さようなら、トム・リドル。君は僕だった。僕は君が嫌いだった。完璧になれないトム・リドルなんて、他の誰が求めても、僕には必要無かったんだ。
僕は僕自身さえ脱ぎ捨てて、完璧な私になると決めたんだ。

(リドル/完璧しか欲しくない)

5分クオリティ。勢いだけで何が言いたいのかよくわからない話。

2013/01/10 18:26

帰宅して靴を乱雑に脱いだ勢いのまま自室に駆け込む。眠気と疲労が全身を包み、足はやけに重い。肩に食い込む荷物は適当に放り出して、お気に入りの椅子に倒れ込むように座ると、もう一歩も動けなかった。ひやりと冷たい机に突っ伏して、緩く長く息を吐くと、部屋は再び静まり返った。そのまましばらくじっとしていると、控え目なノックと共に背後のドアが空いた。
「お疲れ様です」
穏やかな声と共に、近くでかちゃんと小さく食器が触れ合う音がした。そっと顔を上げてみると、すぐ傍に置かれた白磁のティーカップが目に入った。
「良かったら、どうぞ。ただのホットミルクですが、あたたまりますよ」
声がする方を見るとそこに立っていたのはやはりレギュラスで、いつもよりラフな格好をして目元を緩ませて微笑んでいた。真っ暗だった部屋はレギュラスの点けた間接照明のおかげで眩しくない程度に明るく、何だか不思議と安心した。
「ね、はちみつ入れてもいい?ちょっと多めに」
ティーカップの隣に置かれた小さなポットを見てそう尋ねると、レギュラスはしょうがないな、という顔で笑って頷いた。
「いいですよ。ちゃんと歯磨きはしてくださいね」
「もちろん」
とろりと黄金色のはちみつが白いミルクに溶けてゆく。銀色のティースプーンでくるくるかき混ぜると、辺りにミルクとはちみつの甘い香りが広がった。
カップを持ち上げるとそれは思ったより熱く、熱は冷え切った指先にじんと沁みた。ゆっくりと一口飲んでから、溜まっていた疲れを吐き出すようにほっと息を吐いた。
「おいしい」
「良かった。少し、落ち着きましたか?」
「うん。ありがとう、レギュ。それにしても珍しいね、ホットミルクなんて」
「紅茶だと、良く眠れなくなってしまうでしょう?」
ただでさえ、最近は夜更かし気味なんですからと小言めいた事を言うレギュラスに苦笑を返して、私は残りのミルクを飲み干した。
「お風呂も湯を張ってあります。入浴剤はラベンダーにしておきましたからね。落ち着いたらゆっくり浸かって、今夜は良く眠ってください」
その手際の良さに、すっかり主夫だな と思ったけれどそれは口にしない。
レギュラスは気が利く。育ちの良いお坊ちゃんのはずなのにこうした細々としたところまで目がいくし、相手の喜ぶ事を察するのが上手い。それは彼が幼い頃から周囲を注意深く観察して、相手の理想の姿になろうと無意識に自分を律していたせいなのかもしれない。
「ありがとう、レギュラス」
レギュラスはあまり自分のことを話さない。だから私も無理には聞かない。今はただ、こうして一緒にいられるだけでいい。
「どういたしまして」
ゆっくりと、近付いていけたらいい。


(レギュラス/ミルク色の休息)

仕事帰りのチャコちゃんへ。

2013/01/03 04:57

リドルは誰も好きにならない。リドルは誰も愛さない。唯一彼が好んで傍に置くのは人ではなく蛇だけだ。ならば私は、蛇になりたい。
「それで蛇になったのかい?」
ゆるりと嗤うリドルは相変わらず青白い顔をしていて、笑った顔が、蛇みたいだと思った。
「そうよ」
ようやく成功した動物もどき(アニメーガス)。それは思ったより体力を消耗するものだった。慣れればこの疲労感も無くなるのだろうか。
「くだらない。実にくだらない動機だ」
リドルは吐き捨てるように言葉を返す。口元に浮かぶそれは嘲笑だった。
「いくら姿を変えてみても君が人間である事実は変わらない。アニメーガスはあくまで動物“もどき”だ。どれ程姿を似せた所で君は人間以外にはなれない」
「知ってるわ」
「なのに君は満足そうだね。どうして?」
多少は興味を引いたのだろうか。侮蔑の中に僅かな好奇心を覗かせてそう尋ねるリドルをじっと見返して、私はゆっくり言葉を返す。
「貴方気付いていないのね。蛇になった私を見る時の貴方の瞳がどんな色をしているのか」
暗い色の瞳の奥で 赤い光が明滅していた。押し殺した興奮と、口元に浮かぶ笑み。この人はそれに気付いていない。
「憐れだ」
リドルは気分を害したようだった。形の良い眉を跳ね上げて短くそう言い切ったリドルは、もう何も話さなかった。

生まれ変わりがもしあるのなら、私は次こそ、蛇になりたい。
そうしたらこの歪んだ人の好意のひとかけらくらいは、手に入れられそうな気がするから。人間である以上、どう足掻いても手に入らないものを。せめてそのくらいの夢は見させて欲しい。

「私は蛇になりたいの」
そうしたら貴方は愛してくれるかしら。

(リドル/来世に蛇の夢を見る)

2012/12/08 12:19

息が詰まって吐きそうだ。
ここには人が溢れている。人の念も溢れている。ぐちゃぐちゃなそれを皆隠してはいるけれど、僕のように完璧に隠せてはいない。感情が渦巻いた中にいるのは僕にとって途轍もない苦痛だった。

仮面を被っているのは、何も僕だけじゃあない。けれどそのどれもが不完全で歪で中途半端なものだった。被る仮面は完璧で無くてはならない。完璧だからこそ意味がある。仮面を被っている事が他人からわかるのならば仮面なんて被る意味が無いのだ。仮面は素顔と見分けがつかぬ程精巧で自然なものでなければならない。薄皮一枚の薄っぺらな仮面。限りなく素顔に近く、けれど決して素顔にはなり得ないもの。
この仮面を脱ぎ捨てた時、果たして何人の者がそれが僕だと気付くのだろう。
トム・リドルは架空の存在だ。創り上げられた虚構の存在。誰もが羨み誰もが憧れ誰もが心の奥底で嫉妬する、完璧な優等生。本当はそんな生徒は何処にもいないのに、いなくなるまで誰も気付かない。考えもしない。僕の中に理想を見ているだけで そこに仮面を脱ぎ捨てた本当の僕がいることを思いもしないから。


(リドル/仮面)

2012/12/08 11:02

「遅かったね」
暗闇に光る真紅の双眸。
普段より遥かに高い位置にあるそれは、リドルが人の姿を取っている事を意味する。
「ど…したの?リドル。真っ暗だよ?明かりを付けなきゃ…」
「今まで誰といたんだい?」
「…リドル?」
様子が おかしい。
瞳の奥で昏い色が揺らめく。ゆっくりと近づいて来るリドルから逃げる事も目を逸らす事も出来ずに立ち尽くす。
手首を捕らえた細い腕の力は強く、真っ直ぐに見つめてくる紅い瞳が呪縛のようで振り払えない。強引に引き寄せて腰を抱いて リドルの顔を仰ぎ見た その一瞬の隙を逃さず噛み付くように口付けて、深く深く 沈んでゆく。繰り返し重ねられる口付けの合間に 吐息混じりの声で、一言。
「僕以外のことなんて知るな」


(リドル/僕以外のことなんて知るな)(黒猫と秘密の恋を)

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