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「#エロ」のBL小説を読む
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- ナノ -

short short


2013/02/15 11:32

「違います」
俯いたまま震える唇が否定の言葉を吐き出す。
「違いますよ」
繰り返すそれはうわ言のようだった。レギュラスは虚ろな響きで幾度も言葉を繰り返す。自身に言い聞かせるように。それが真実なのだと噛みしめるように。
「あの人は僕らを省みない。あの人は僕らと同じ世界を見られない。あの人は愚かで救い様の無い人だ」
自分の居場所を自分で潰した。家も両親も兄弟さえも、あの人は自ら手放したのだ。それがどれ程愚かで馬鹿げた行為か未だ気付かずのうのうと生きている。
「異質なのはあの人の方だ。適応出来なかったのはあの人の方だ。おかしいのは僕らじゃない、あの人だ」
弾かれたのは兄の方だ、僕らは捨てられたんじゃない、捨てたのだ。捨てられたのは兄の方だと吐き出すレギュラスの表情は苦痛に歪んでいた。痛みを堪えるように唇を噛み締めて、灰色の瞳は翳って暗い。
「あの人は愚かだ」
何もわかっていない。わかろうともしない。だから弾かれたのだ。名前を消されたのだ。捨てたのは僕らで、捨てられたのは僕じゃない。そうつぶやく声がどれ程悲痛に響いているか気付いていないのはレギュラスだけで、だからこそその言葉は一層哀れに聴こえた。


(レギュラス/捨てられたのは僕じゃない)

2013/02/09 11:12


「ぐっ…」
息の合間に喉を押し潰したような声が漏れる。掻きむしった胸元のシャツは皺だらけでワインレッドのネクタイは最早首にぶら下がっているだけだった。脱ぎ捨てたジャケットはくしゃくしゃのまま床に落ち、汗で濡れて張り付いた前髪を払うと形の良い額が覗く。
かつて髪と同色だった瞳にはその面影も無く、色素を失い血の赤が透けて暗闇の中でぎらぎらと輝いている。元々青白かった肌は今では紙のように白く、人というより人形のような質感だった。
魂を引き裂く行為は徐々にリドルの身体を蝕んだ。箱がひとつ増える度にひとつ何かを失ってゆく。それはリドルの整った鼻筋であったり美しい輪郭であったり黒曜石の瞳であったり、つまりは彼の人間らしさであった。
幾らだって差し出す。何だって投げ出す。それが命以外なら。不死と引き換えにするのに惜しむものなど無い。名前を捨てた時に過去の全てを捨てると決めたのだ。トム・リドルなんて何処にもいない。始めからそんなものはいらなかったのだ。だからこれでいい。これがいい。魂なんて幾らでも引き裂ける。肉体的な苦痛など精神的な苦痛に比べれば耐えることは容易い。死から遠ざかることができるなら、他のものは何もいらない。


(リドル/千々に千切れる)

分霊箱を作った時のリドルの妄想。苦しむ姿はきっと最高に色っぽい

2013/02/08 03:04

 
ぱたぱたと乾いた音が地面を叩く。
吐き出す吐息に混じる鮮血があまりに濃く鮮やかで、紙のように白い肌に滲む赤は美しく、私はその色の生々しさに慄いた。
「半兵衛…さん」
伏せた目元を縁取る睫毛は長く白い。合間から見える瞳は竜胆のような紫。まっしろで光が当たった場所から溶けだすようにきらきらと白銀に輝く透明な髪は、神聖な程美しくて。
「嫌です」
言葉は口をついてこぼれた。震えた唇から出た言葉にしてはやけにハッキリとした声だった。
「しなないで」
こぼれ落ちる命。どうして、どうして止められないの。ただ生きて欲しいだけなのに、少しでも永らえていて欲しいだけなのに、この人はそれを毛筋程も望まないのだ。 私では止められない。私ではこの人の生きる理由になれない。繋ぎ止められない。
「僕ののぞみは、ただひとつだ」
熱に浮かされた瞳で喘ぐように、半兵衛は答えた。この人の望むもの。それは嫌と言うほど知っていた。わかった上でそばにいた。なのにどうして、こんなに惜しい。
「それは君も知っているだろう」
この人が惜しまないからだ。自分の命を少しも惜しまず、余すところなく全て捧げてしまうから。だから私は往生際悪く縋って抗って留めたくなってしまうのだ。


(半兵衛/BSR/色鮮やかに朽ちてゆく)

半兵衛さん夢が書きたくてたまらないけど100%悲恋にしかならない…

2013/02/04 15:04

魚になりたい、と言ったことがある。
湖で泳いだ時の記憶が僕の脳内に強烈に焼き付いていて、息が詰まると決まってそれを思い出す。
湖の中はとても静かで、地上から差し込む光がベールのように揺らめいて青い世界を照らしていた。両手で透明な水を掻くと、ぐん と身体は簡単に前へ進む。重力も身体の重さも水の中では瑣末なことだった。上下左右何処までも、望む場所まで泳げる世界。そこで僕は呼吸が続く限りは自由だった。なめらかに肌を滑る水の感覚が心地良くて、そのまま冷たい水にとけてしまいたいとすら思った。
深く深く潜った先で、目の前を横切る美しい一匹の魚。身動ぎする度七色に輝く鱗。しなやかな尾びれ。咄嗟に手を延ばしたけれど、容易く指の合間をするりと抜けて遠ざかる。それは幼い僕の目にとても自由な存在として映って、魚のように泳げたらと、子どもながらにそう思った。

(レギュラス/さかなのうろこ)

書こうと思っていた短編の一部

2013/01/28 21:19

店内にはファーストフード店特有の油の匂いがぬるく漂い、周囲の統一感の無い話し声は耳についてうるさい。
「そんで、言ったんスよ。いくら何でも無理だって。そしたら真田副部長、何て言ったと思います?」
赤也が余所見をしている隙に赤也のトレーに広げられたポテトに手を伸ばす。先ほどから容赦なくひょいひょいつまんでいるのだが、一行に気付く気配を見せない。そんなんで良いのかテニス部。
「どーせいつものたるんどる!とかだろ?」
ふと視線をずらすと、赤也越しにこちらを見る仁王と目があった。驚いてぱちりと瞬くと、仁王は頬杖をついたままニヤニヤと笑った。やめてくれ、ばれたらどうするんだ。こっち見んな。
「そうなんですよ!何でもかんでも喝を入れればいいってもんじゃあないでしょうに!」
ブンちゃんはこちらを見ていないが、どうやら私が赤也のポテトをつまみ食いしていることには気がついているようで、ますます赤也の危機感の無さというか暢気さに呆れる。そしてブンちゃんの食べる量にも呆れる。こんなに食べてるくせに、帰ってからまた夕飯食べるんだってさ。本当意味がわからない。
「で…って、あー!!先輩!何食ってるんスか!!」
赤也は大きな声を上げると、私を指さした。ようやく気付いたか。遅すぎる。既にポテトの半分は私の胃袋の中だ。ふはは、馬鹿め。まあそこがかわいいんだけどね。あと、人を指さしちゃいけません。
「赤也、これおいしいよ」
「知ってます!俺だって食ってますから!っていうかこれ、俺のっスから!!」
赤也の後ろでは仁王とブンちゃんが腹を抱えて笑っている。うるさい奴らめ。
「あーごめん、ごちそうさま?」
「違います。いや、違いませんけど、違います!」
「どっちだよ」
すかさず入るブンちゃんの的確なツッコミに、仁王の肩が揺れる。
「赤也、気付かんお前が悪い」
「なっ!仁王先輩気付いてたんなら教えてくださいよ!」
「気付いて無いのはお前だけだろ」
「丸井先輩まで!」
ジーザス!とばかりに頭を抱え叫ぶ赤也の声があまりにうるさいものだから、ブンちゃんが容赦無く脛を蹴った。再び上がる悲鳴に仁王が笑う。ブンちゃんも笑う。誰も見ていないので、私はまあいいかと手を伸ばしポテトをぱくり。うん、塩加減が絶妙だ。

(テニス/立海/ポテトもぐもぐ)

グダグダしゃべるだけの特に内容の無い話
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