「なあ、夏休み始まったら皆で海行かへん?スイカ割りしようや!」
「お、ええやん。ちょうど家に貰いもんのスイカがごろごろ転がっとるさかい、スイカは俺が持って来るわ」
「さっすが白石!」
「あのー、すんません」
「財前どないしたん?」
「それ、なまえも連れて行ったってええっすか?」

きみ

もうじき夏休みやんっちゅう時に謙也さんがそないな提案をしはった、それが今から大体一週間くらい前。ほんで昨日終業式を行い、今日から待ちに待った(先輩らに至ってははしゃぎ過ぎでうっとい)夏休みや。予報やと雨マークやってんけど、外はこの通り日本晴れの上天気。まず午前練が終わると一旦それぞれの家で昼飯を食うて、それから指定された場所に集合。俺はきゃっきゃきゃっきゃと上機嫌のなまえの手を引いて待ち合わせ場所へ向かった。

「こんにちは、なまえちゃん」
「くらら!」
「俺もおるで」
「けんにゃ!」

集まったメンバーはジブリマニアと金ちゃん、それから師範以外。金ちゃんはワイも行きたい云うとったし後から走って来るんちゃう?っちゅうのが俺らの見解で(場所知らんくても野性の勘でなんとかなるやろ)千歳先輩は例によって練習に来たかと思えば途中で姿を晦ましよったから、来るんかどうかも分からへん。ちなみに師範はまた修行。到着は俺らが最後やったみたいで、部長が無駄に無駄のない完璧な点呼を取り(この一文は白石によって推敲されました)、予定しとったバスに乗り込む。乗客は俺ら以外まだ誰もいてへん。

「ひかる、これなあに?」
「バスやで、バス」
「ばちゅ?」

初めて乗るバスになまえは興味津々もええとこ。椅子の上でぼふんぼふん尻ジャンプをしようとするのを窘め、数分後の出発を待つ。

「綺麗な目しとるな、なまえちゃん。珍しい色っちゅうか」

副部長の一言に小さく跳ねる心臓。地味やけど洞察力の鋭い小石川副部長に見抜かれてまうんやないかと、俺は焦燥感を抱かずにはいられんくて。ポーカーフェイス装ってんけど、内心どっきどきやわ。頼むからもう何も云わんといてくださいよ副部長。そないな心の声が届いたんか、もう何もつっこんだりはされへんかった。安堵から肩で息をすると、俺はなまえの頭を優しく撫でる。その濃藍の艶髪に、果てしない宇宙を見たような気がしたった。


バスに揺られて約20分。時期的には多少早いからか人も疎らな海水浴場に到着した俺たちは、適当な場所にブルーシートを敷いて荷物を下ろす。今いてるのは同い年くらいの奴らとか、キャバ嬢っぽい派手な姉さん方とか。清純派を推進する俺としてはあんま魅力を感じひんけど。

「きれーい!」これまた初めての海に目を輝かせ、一人でどっか行ってまいそうな絶賛興奮中のなまえの手をしっかり握りしめる。ほならまずスイカ割りやで!とやたら張り切っとる謙也さんが部長の荷物から貰いもんやっちゅうスイカと目隠しと、それから棍棒を取り出すと、遊びたくてうずうずしとったなまえもようやっと大人しくなった。それにしてもほんま用意周到やな、部長。

「おにいちゃん、これなあに?」

スイカを指差し、なまえは訊ねる。ただし聞かれたんは俺やのうて、たまたま隣にいてはったユウジ先輩。ああ、そういやユウジ先輩って。俺が思い出したのと先輩が“な、なんやねん!”と声を荒げたのはほぼ同時やった。なんやねんって寧ろこっちがなんやねんやし。子供嫌いなんはしゃーないにしてもそらちょっとな。するとなまえの口は、忽ちのうちに富士山になってまう。あーあかん、これ泣くわ。

「なに大人げないことしとんじゃ一氏ィ!」
「こ、小春ぅ……」

「なまえは悪ないねんから泣かんでええんやで」
「せやで、なまえちゃん。悪いのはこの怖い兄ちゃんやねんから」

小春先輩に一喝され、あっちゅう間に小さなるユウジ先輩。俺や謙也さんがすぐさまフォローに回り、その甲斐あってどうにかこうにか泣かれずに済んだった。ほんで気を取り直して。スイカっちゅうのはな、甘くて美味しいもんなんやで。ユウジ先輩に代わって説明したると、たべるー!と喜色満面の笑みを浮かべるなまえ。ほな、割るのはじゃんけんで負けた奴な。部長の掛け声に合わせて右手を出す。
じゃんけん、ぽん。
「お、俺か!」負けたのは謙也さんやった。こない人数いてるのに一発で負けるとか、どんだけじゃんけん弱いねんこの人。どんまいっすわと同情しつつ、散り散りになった俺らは謙也さんの準備が整うのを待つ。

「けんにゃ、おめめぐるぐるしてるね」
「せやな」

部長に棍棒を渡され、ええでーと謙也さんが開始の合図を出せば。初めこそ右だ左だ誘導しとった俺らやってんけど、如何せん悪ノリが得意なもんで途中からは右右右、ひたすら右だけ。

「ちょ、ほんまに右でええんか?」
「問題ないっすよ、ねえ部長」
「おん。あ、もうちょい右やで謙也」
「けんにゃ、みーぎっ!」

徐々に徐々に、スイカや俺らから離れていく謙也さん。それを吹き出さんように腹に力を入れ、指示を送り続けるユウジ先輩や部長。何も分かってへんまま、周囲に合わせ「右」を連呼しまくるなまえ。見てみい、棍棒持って挙動不審になっとる姿なんて爆笑もんやで。しかも部長、ばれへんようにもう一本棒持って来てはったみたいやし。「したら割って食べよか」謙也さんと大分距離ができたところで、サクッと割っていただきます。ある程度種を取り除いてなまえに渡すと、なまえは大きな口を開けてかぶりついた。おいちい!その歓声で状況を把握したんか、遠方で目隠しを外した謙也さんは俺らを見るなりものっそいスピードで戻って来はる。まあ、浪速のスピードスターとかなんとか自称するだけはあるな。

「なんとなくこうなるんやないかって予想しとったけど!お前らのことだから絶対なんか仕掛ける思っとったけど!」
「別にええですやん、あ、これ謙也さんのスイカっすわ」
「おん、おおきに……ってちょいちょいちょい!」
「あはは、ちょいちょいちょーい!けんにゃおかしいね!」
「いつものことなんやで、なまえちゃん」
「白石ぃぃぃぃ!」

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