・ゆるふわ女子は虫に強い
湊は虫が苦手だ。大抵の女子は苦手なのではないだろうか。蟻や蜘蛛、ミミズ、蝶、テントウムシあたりは大丈夫だが触れない。見慣れない虫は無理。そんな感じである。
「倉橋さん……なんでそんな簡単に触れるの……」
「え?」
湊が心の中で「ゆるふわ女子」に分類している倉橋が、いとも簡単に虫に触れている。掃除中に現れた見知らぬ虫に怯えていたら、倉橋が助けてくれたのである。
「可愛いじゃん」
「どこが!!?」
みょんと伸びた触覚、毛が生えた足、不気味な目、謎の動き。どこに可愛い要素があるのか教えてほしい。いや、やっぱりよかった。
「うーんそんなに怯えなくっていいのに。この子たちだって生きてるんだし」
「そ、そうなんだけどさあ……やっぱり黒い物体みたいなのは怖いよ。飛ぶし速いしすぐ消えるし」
「あー、ゴキブ」
「ダメ!!」
倉橋の言葉を遮り湊が叫ぶ。急に大声を出した湊に倉橋の肩が跳ねた。
「その名前はダメ!もう名前を言っただけで想像できちゃう!」
「ご、ごめん。そこまでとは思わなくて」
「きっと他の誰かも賛同してくれるよ、それに関しては」
「私は退治できるけどなあ」
「なん、ですと……」
見た目は可愛らしいのに、あの物体を退治できる。その事実に湊は驚愕するしかなかった。そんなギャップに世の男性陣はどきっとしたり……するのか?何にしろ、湊は倉橋に対する目が少し変わったのだった。
・女子特有の可愛い
「このたぬき、可愛いよね」
漫画を見ていた湊から、突然話を振られる。どれどれと覗きこむと、可愛いとはお世辞にも言えないたぬきがたくさんいた。
「……可愛い、これ?」
「とてもテンション高く可愛い〜!とは言えないけど、なんていうの、シュールっていうか、ブサ可愛いっていうか」
「ふうん」
男子には分からない可愛さ、というやつか。カルマには全く分からない。面白いとは思うが、可愛いとはとても思えない。
「グッズあるみたいだから買おうかな」
「何買うの?」
「無難にシールかぬいぐるみかな。それかストラップ」
「そんなに出てるの、このたぬき?」
たしかに動物はグッズにしやすいかもしれないが、そんなに早く出るものなのかと、カルマは目を見開いた。
「いや、出てないものも多いけど。今月発売が多いから買えるなって」
「……買ってあげようか」
カルマにはその可愛さが全く分からないし、分かろうとも思わないが、これを利用して湊の好感度を上げるのもいい。下心満載で言ってみる。当然湊が申し訳なさそうに眉を八の字にした。
「え、いいよ。金持ちってわけでもないんだし、カルマに買ってもらうわけには……」
「大丈夫、この間カツアゲした金が」
「そんなお金で買ってもらっても嬉しくない」
いきなり声のトーンが低くなり、軽蔑するような目を向けられた。いろんな意味で当たり前なのだが、カルマはショックだった。そもそもカツアゲしたなどと口を滑らすのではなかった。
「ちょ、湊!待って!!」
「カルマ君、黒瀬さんに好かれたいならとりあえずカツアゲだとかやめた方がいいよ」
渚が冷静に言ったが、カルマは気付いていないようだった。
・教師は別に聖職ではない
湊は固まった。殺せんせーの机に、グラビアやエロ本が堂々と置いてあるからだ。べたべたな文句とともに、胸の大きい女性がいやらしいポーズを取っているのが目に入りたくなくても入ってくる。
「……マジ教師としてどうなんだこれ」
烏間先生、説教してくれ。
つい手に取ってまじまじと見てしまう。やはり男は胸が好きなのだな。そうなんだな。湊はケッ、と唾でも飛ばしておきたくなった。
しかし、グラビアやエロ本を女子中学生が手に取って見ているという場面など誰かに見られたら厄介だ。それこそ持ち主やカルマ、岡島や中村あたりに見られたら最悪だ。実はエロ本に興味があると吹聴されるに決まっている。元の位置にそっと置いた。
「にゅやっ!?黒瀬さん!!?」
戻ってきた殺せんせーが、黒瀬と机の上にある成人向けの雑誌を見て固まる。湊は氷柱のように鋭く冷たい目を殺せんせーに向けた。
「こ、これはですね、黒瀬さん」
「いまさら言い訳しなくていいですよ殺せんせー」
「させてもくれないんですか!?」
「殺せんせーが巨乳好きってことはもう周知の事実ですから」
はははは。ちっとも笑っていない暗い目、口から漏れる乾いた笑い。怒っているのかそれとも軽蔑しているのかすら分からない。
「そんなに好きなら薄い本でも買えばいいんじゃないですか?」
「薄い、本ですか。隠語ですね」
「ええまあ」
職員室で同人誌などと軽く言えるほどの勇気はない。
「でも先生好みのものが見つかるとは……」
「腐るほどあると思いますし、探せばありますよ」
「も、もしかして黒瀬さんも……」
「見たことありませんからね?テンプレみたいなものは大体分かるよ?くらいですからね?」
殺せんせーがそわそわし出したため、慌てて修正する。そんな勘違いを植え付けてはいけない。しかも殺せんせーである。どんなことに使われるか分かったものではない。
「そんな必死になるということは……いえ、カルマ君には内緒にしておきますから先生には」
「ねえっつってんだろエロダコこのエロ本とグラビア燃やすぞ!!」
「いやーやめて!!やめてください黒瀬さん!!!」
小ネタ詰めてみました。カルマ君と甘くしたいなあと思ったのに全然ダメでした。ちなみにたぬきは野崎くんです。いつ書いたかばれるという……。倉橋ちゃんは虫ネタやらないとな、と思いまして。