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・素直に受け止められない賛辞


浅野學峯。この椚ヶ丘中学校の理事長。生徒からは上品だスマートだ、という評判を湊はよく耳にしていた。湊も入った当時はそう思っていたが、息子の浅野学秀と同じようにいつしか「うさんくさい」と考えるようになった。とはいえ、息子にそのまま伝えたことは脳内の記憶から消え失せている。

何にしろ湊は通りすがった際に挨拶を交わすくらいで、特に関わることはないだろうな、と思っていた。

「黒瀬さん」

二年生の夏頃、湊は読書感想文と感想画で特別賞を受賞したことがあった。電話で報告されて翌日の昼休み、「うさんくさい」と思い始めた理事長に廊下で呼び止められた。

「理事長先生。こんにちは」

「こんにちは」

にこり、優雅に微笑んだ理事長にやはり違和感を覚えずにはいられない。何の感情もこもっていなさそうな目に、見透かされたような気持ちになる。

「感想文と感想画の特別賞受賞、おめでとう」

「あ、ありがとうございます…」

椚ヶ丘中には生徒が何かしらの賞を取ってくる。そのうちの一人にしかすぎないはずの自分へ祝いの言葉を述べるなんてすごいなあ、と感心していた。が、よく振り返ってみるとも今まで文なり絵なりで何回かしていた。理事長直々に祝われた覚えはない。

「文も絵もなんて、君はすごいね」

「いえ…私は別に…」

主張しまくりの文を紙に並べて書き、自分の趣味全開で描いているだけ。それがたまたま審査員が気に入ったのだ。現に応募しても入らなかったときだってあった。

湊はぎこちない笑みを顔に貼り付け手を振って否定する。

「うーん、確かに数学と理科が少し怪しいかな。君も十分優秀だから、E組に落ちないよう頑張って」

「は、はい」

理事長は湊の肩に手を置き、柔らかく叱咤激励した。緊張している湊は体が震える。そのまま去ってしまう理事長の背を見つめて呟いた。

「やっぱり理数がやばいから、警告ってことかなあ…はあ」




・仕事人にはなれないと思いましたまる


もともと湊は体力がない。通常の体育だけで憂鬱だというのに、暗殺のためのナイフ技術などサボりたくなる。今日はまだ射撃訓練なので何とかやっている。

「うーん…」

湊は当たる確率は悪くないものの精密さはない。基本どうでもいいことは適当で、許せないラインがあるものに対しては細かいという性格のせいかもしれない。

それに比べ、隣で撃つ千葉と速水はまるで機械のように正確に的を撃ち抜いている。どうしてそこまで上手くいくのかなあ。っていうか、千葉君にいたってはあれなんで見えてんの?意味が分からん…。などと考えながらじっと二人を見つめてしまう。
湊の視線に気づいた速水が尋ねる。

「……黒瀬さん、どうしたの?」

「えっ、あ、っと…速水さんと千葉君、すっごい正確だからさ。コツとかあるのかなって」

「ああ。千葉」

「何だよ」

「黒瀬さんがなんかコツあるかって」

「うん。二人が教えてくれるならだけど」

千葉を呼んでまで教わる気はなかったのだが、せっかくなので師事を受けることにした。

「うーん…。目を水平に保って顔を動かさないようにするってのが一番やりやすくて分かりやすいかもな」

「め、目を水平に?」

何それ。頭上にクエスチョンマークが浮かぶ湊を見て千葉は肩をすくめ、的へ戻って言う。

「ああ。速水と俺の射撃後ろから見てみろよ」

「ちょっとは分かるかもしれないし」

「うん」

後ろから二人の射撃を観察する。だが交互に見比べてみるも何も分からない。

「どう?なんか分かった?」

速水が振り向いて言う。湊は曖昧に笑った。

「うーん、何となく」

とりあえず職人はともかく仕事人になれないことは。




・君の気持ちを受信許可


湊は携帯電話もしくはスマホを持っていない。というか親が持たせてくれないのだ。欲しくてたまらないわけではないが、ないと不便なのも確かだった。家に電話かパソコンにメールを送ってもらうことになる。

「欲しいなー」

ベッドに転がる。と、母親がドアをノックしてと姉の部屋にやってきた。

「湊、お父さんタブレット欲しいって言うからスマホ買う?」

「ほんと!?」

湊は母親の言葉に飛び起きる。春ならもっと安かったろうにと思わなくもないけれど、ちょうどいいタイミングだった。

「欲しい!」

「まー、ないと不便だよねえ。カエデちゃんとかから電話結構かかってくるし。じゃ今から行くから着替えて」

「はーい」

というわけで、数時間後。新しい機器を手に入れた湊はベッドで顔を緩ませていた。

誰にアドレス教えよっかな。カエデ、神崎さん、奥田さん、不和さん、原さん、イリーナ先生…殺せんせーもいるかな?烏間先生も?うーん、まあこれくらいか。
そこでカルマの顔が頭を横切る。そしてつい最近、友達だった同級生の陰口をフォローしてくれたことを思い出す。

「うーん…いいでしょ別に…いや…うーん…」

少し考え込んだ結果、やはり教えないことに決めた。



『黒瀬さん、カルマさんからメールです』

「……返信早っ」

そして付き合い始めたとき。アドレスを勝手に教えられてからよりもメールの件数が多くなったような気がする。
基本したいとき以外メールをしない湊にとって少々煩わしい。律に受信拒否してもらおうかとたびたび考える。が、結局言わないでいるのだった。






短いの詰めで。アンケを参考に頑張ってみましたが失敗した感。理事長はかなり絡ませづらいので…。最後のはヒロインは何だかんだ好きなのよってことと、急に本編だと持ってるので入れました。