ちなみに賀髪はというと、通常運転であった。いつも通り仕事に取り組み、何事もないように振る舞う。
書類をまとめ、提出しに行こうとする。食堂を通り過ぎるとき、男禁制の文字が見えた。おそらく何かしら作っているのだろう。甘ったるい匂いが鼻についた。
何故か脳裏にある男獄卒が浮かんだ。彼も誰かから貰ったりするのだろうか。それを考えると、なんだか不愉快な気分になった。
「…………」
そして賀髪は誰もいなくなったのを見計らって、厨房の前に立っていた。あげるのはどこかの坊主頭だけではない。上司の肋角、他の獄卒にも作る予定だ。肋角以外名前は明かさないが。
早く作らねば、誰かがこの現場を見る羽目になってしまう。それだけは避けたい。手際よく作っていく。
肋角、他の獄卒、……坊主頭の分。作らないつもりだったが、さすがに一人だけ作らないのもと思い、最後に作っていたら別のものになってしまった。彼だけ贔屓しているようになってしまった。そんなことはないのだが。
「どうぞ」
「……どういう風の吹き回しだ」
そうして当日、どこかの坊主頭に手渡すことになった。別々に作ったのが周りに知られたくないからである。それ以外他意はない。案の定谷裂はかなり不審そうに賀髪とラッピングされたものを見ていた。
「毒でも入ってるんじゃないだろうな」
「入ってませんよ、そんな卑怯なことはしません。やるなら堂々とやります」
「そう、だな」
「捨てても構いませんけど、できれば食べてくださいね。貴方のために時間割いたんですから」
「……まあ、もらっておいてやる」
もしかしたら拒否されるかもしれないと考えていたが、杞憂だったようだ。彼は真面目だ。いくら嫌いあっていようと、悪意がなければ受け取ってくれる。賀髪はそれが少し、嬉しかった。
ある日、賀髪が食堂で一人食事していると、谷裂がやってきた。そして仁王立ちで彼女へ言った。
「棚の二段目左」
「は?」
突然それだけを言われ、理解ができなかった。つい、谷裂を睨みつける。
「どうしたんですか、気でも狂いました?」
「どうしてそうなる!!……言ったからな、俺は」
ふん、と鼻を鳴らして谷裂はすぐに出て行ってしまった。
「ちょっと、どういう意味ですか」
残された賀髪は追いかけようとするが、やめた。
棚と言ってもたくさんある。しらみつぶしに探すことにした。とはいえ、何段もある棚は限られている。
「棚の二段目左……ここ、ですかね」
がらりと開ける。食器が並んでいる前にちょこんと箱が置いてある。中身は、
「髪飾り」
綺麗な髪飾りだ。現世にでも行ったのだろうか。そんなことをしている暇があるなら鍛えろ怠けると癖になるなどと言う彼が。
谷裂が女性向けの店で髪飾りを選ぶ姿を想像した。かなり恥ずかしかったろう。食べ物にしておけばよかったのに。思わず笑みがこぼれた。
「あの人が、覚えていたなんて……」
今度会うまでに、つけておこうと思った。
もうとっくに過ぎてますが。いただいたネタが膨らんだので書いてみました。
本人たちが歩み始めた頃。