「賀髪。少し付き合え」
つもりだったが、谷裂につかまってそれは叶わなかった。
「何にですか?貴方の残業には付き合いませんよ」
「そんなわけあるか!違う、鍛錬の方だ」
「はあ。構いませんけど」
鍛錬というのなら、少しくらいいいだろう。努力する者の手伝いならしてもいい。鍛錬場まで谷裂の後をついていく。
賀髪に付き合えというものだから戦うものかと思っていたのだが、頼まれたことは想像より斜め上だった。
「……乗る、んですか」
「ああ」
先日、鍛錬場やらやたら息荒い音が聞こえ、何かと覗いたら斬島・平腹・谷裂・木舌が、佐疫や災藤、キリカにあやこ、田噛、そして何故か牛を背に乗せて腕立て伏せをしていた。見てからすぐにドアをそっと閉じた。まさかそれをやれと言われるとは。
「……私、軽くはありませんよ」
「線が細いし、女だからそこまで重くないだろう。本でも読んでいろ」
褒められている気がしない。顔をしかめる賀髪に構わず、谷裂は上着を脱いで黒いタンクトップのみになった。平均的男性よりも遥かに筋肉がついている。体脂肪なんてもの、彼にはないのではと思うくらいだ。
これ以上筋肉をつけても本当に脳まで筋肉になるのではないか。口にはしなかったが、賀髪はそう思った。落とさないようにするのはいいが。
「別にダンベルとか適当に乗せればいいじゃないですか」
「それだと固定できずに動くからな」
「他の方に頼めば……」
「お前くらいしか思いつかん」
真顔でさらりと言うものだから、賀髪はすぐに言葉が出なかった。この男は恥ずかしいことを言っている自覚はあるのか。あるわけがない、すぐに否定した。
「友人がいないんですね」
「おい」
「まあ、そんな可哀想な貴方に付き合ってあげてもいいですよ」
いつもの調子で言う。怒声が返ってくると思ったが、何もない。彼の顔を見れば、まっすぐな目をしていた。
「ああ。頼む」
素直に返されて、賀髪はさらに変な気分になった。
獄都新聞ネタ。谷裂の背に乗ってヒロインが本読んでる絵を描いたことがあるのですが、まさか来るとは思いませんでした。
タイトル配布元:taste様