本人たちが聞いたら、睨みつけて「どこが」と返そうだろうが、それがだと斬島は思う。いくら口論して戦い始めようとも、斬島にはお互い高めあっているとしか考えられなかった。佐疫あたりが聞いたら首を左右に勢いよく振りそうだが。
本当に嫌いなのであれば関わりなどしないだろう。
「お前と谷裂は、いいコンビだな」
つい、賀髪が書類を渡してきた際にそう言った。案の定彼女は眉間のしわを深くさせている。
「どこを見てそう思えるんですか?」
「本当に谷裂が嫌いなら話もしないんじゃないか?」
「私は嫌いだからといって、仕事でも話さないなんてことはしません」
斬島は今までの谷裂と賀髪がしていたことを辿る。明らかに私情挟みまくりの仕事っぷりだった。きちんとしてはいたのだが。こいつとはやりたくないとばかり言っていた。肋角さんが言うなら仕方ない。そんな感じだった。
「何ですかその目は」
「いや、何でもない」
でも、と斬島は続ける。
「谷裂のことは嫌いじゃないんだろう」
「嫌いですよ」
即答だった。何を言ってるんですかとばかりに冷やかな目を向けられる。そしてすぐに、形のいい唇が言葉を紡いだ。
「でも、好きです」
何の感情もなさそうな瞳に、何かが宿っている。本当に好きなのだ。斬島はそういった恋愛感情に疎いけれど、本気であることは感じられた。
「そうか」
斬島にはそれだけで十分だった。
谷裂と賀髪は、危なっかしい二人だ。佐疫はそう思っていた。
喧嘩はするし、戦いというか殺し合いし始めるし、大体睨み合ってばかりだ。けれど二人以上に息が合った二人というのもいない。田噛と平腹はほとんど一緒に組むことが多いが、あれほど絶妙に相手をサポートするのはさすがだとしか言いようがなかった。
「谷裂と賀髪って、危なっかしいよね」
共に昼食を食べている最中、谷裂へ言うと、彼は不可解だと言わんばかりに顔をしかめた。
「どこがだ。そもそも危なっかしいとは何だ」
「そりゃまあ、いろいろ」
二人の仲とか。
谷裂が賀髪と付き合ったと聞いて驚いたのは秘密だ。色恋どころか、好意があったのかと。佐疫は賀髪とは仕事以外であまり話さないので分からなかった。
「はっきりしない奴だな」
仏頂面をさらに怒りに染める。呆れているようにも思えた。
「仕事はともかく、それ以外はひやひやするんだよ」
「あの女が突っかかってくるのが悪い」
フンと鼻を鳴らして谷裂が言う。苦笑するしか佐疫にはできなかった。
こうも互いを悪く言うのだから本当に好きなのだろうか。前よりほんの少し、谷裂と賀髪を纏う空気が変わった気はしているが、そこまでには思えない。
「谷裂は本当に賀髪が好きなの?」
「嫌いだ」
即答だった。頬の筋肉がひくついてしまうくらいだった。
だが、と谷裂が続ける。
「それ以上に好きだ」
まっすぐでシンプルな言葉だった。谷裂はくだらない冗談を言わない。特に賀髪関係ならばなおさらだろう。あまりにも淡々としていて、けれど強い思いが感じられる。
佐疫は一瞬目を見開いた。すぐに微笑む。
「そっか」
何となく安心した。そうでなくてはとすら思えた。
第三者から見た二人ということで。全員できたらやりたいなと思います。