獄卒の中では新米の位置にいる私は経験豊富な獄卒と一緒に仕事することが多い。女性の場合が多いけれど、たまに男性もある。
よくするのは賀髪さんだ。キリッとした表情、彫刻みたいな顔立ち、サラサラ流れる髪、女性として完璧なプロポーションを持つ女獄卒。私は彼女を一つの目標として見ている。仕事はできるし美人だし優しいし、懐かないわけがないってもんだ。
後もう一人、憧れの獄卒がいたりする。谷裂さんだ。佐疫さんみたいな優男のイケメンじゃないけど、その仕事ぶりが好き。厳しいし、気遣ってくれるわけじゃないけど配慮はしてくれる。
私はこの二人が好きだ。賀髪さんは大いに頷いてくれるけど、谷裂さんは同意してくれる女獄卒は少ない。私が分かればいいんだけど。
そんな二人が付き合った、らしい。らしい、というのも、いつも会えば口論して戦うなんてくらい仲が悪かったから。個人的にはくっつかないかなと思っていたからとっても嬉しいことだ。
最近二人でいるところを見たことがないから早く見てみたい。そう思っていた、ある日のことだった。
「あ」
賀髪さん、と、谷裂さんだ。少しは恋人らしいことしてるのかな。そう思って近づいてみたら、空気はあからさまに重かった。
「何でこれがこうなるんですか、貴方」
「何度も言っているだろう、しつこいぞ貴様!」
「きちんと確認すれば気づくことじゃないですか」
「次はないようにする、いちいちつっかかるな」
「前もそう言っていませんでしたか?」
人を殺せそうなほど鋭い視線が交錯する。相手を威圧する賀髪さんと、明らかに沸点超えた谷裂さん。
あ、これ、戦闘始まるな。冷や汗が垂れたときにはもう始まっていた。
谷裂さんの重い金棒の一撃からの、速い賀髪さんの鋏が舞う。廊下なんて狭い場所でやったら当然私にも被害が来るわけで。逃げないとやばい、というところで賀髪さんと目が合った。
「……すみません。怪我はありませんか」
「大丈夫、です」
あと十秒あったら確実に怪我してましたけどね。谷裂さんも私に気づいてバツが悪そうにしている。
「……すまん」
「この人沸点が低いですからね」
「貴様が煽るからだ賀髪!!」
鼻で笑う賀髪さんにばっちり釣られる谷裂さん。
この調子で二人は付き合ってるんですか?なんて聞けるわけがない。本当なのか疑わしくなってきた。木舌さんやらは、本人たち公言してないけどそうだよって言ってたのに。
「お願いしますよ」
「うるさい」
そう言って二人は別れてしまった。私がどうこうできるわけでもないけど、無駄に焦ってしまう。やっぱり嘘なのかな。
そんな現場を見た、次の日。
「あ」
また二人でいる。身構えたけど、昨日のように刺々しい雰囲気は全くない。むしろ少し、柔らかい気がした。仕事の話をしているのに。内容はちっとも色気なんかないのに。
終わって離れるかと思ったら、谷裂さんが賀髪さんをじっと見ていて。賀髪さんも視線に気づいて谷裂さんを見つめ返している。
「今日は金木犀か」
なんて谷裂さんが言った。
香水かトリートメントの話だろうか。ぱちりとまばたきをしたあと、少し、本当に少し、賀髪さんが微笑んだような気がした。
「ええ」
谷裂さんが賀髪の髪をすくった。他の獄卒なら瞬時に鋏をその手に刺してくるだろうに、彼にはしなかった。
「またな」
「はい」
そのまた、が仕事のことなのか、逢引きのことなのか。分からない。何にしろ、私はどこか甘い光景を見て、やたら胸がどきどきしてしまったのだった。
後輩的位置にいる女獄卒ちゃんを出したかったので。第三者から見た二人が書きたかったのもあります。今度は既存キャラクターから見た二人、やってみたいですね。
タイトルは本人たちは秘密には特にしていませんが公言もしていないので、たぶんとひみつで溢れている関係なので。
タイトル配布元:星食様