Serie | ナノ


月の綺麗な夜だった。

―――進化とは恐ろしい。数百年前は暗闇ばかり、火の光りが主だったというのに。今日では人工物に溢れ、空ではなく地に輝かしい星々が輝く。
・・・その分、闇に潜む者達はより影を濃く落とすのだけれど。


会社の飲み会に付き合わされて、なんとか二次会で抜け出してきた。足早に夜の帰路を歩く。今頃三次会、下手すれば四次会に雪崩込んでいることだろう。酒は静かに飲むに限る。・・・・・・こんな満月の日は、特に。

背を追い縋る月光から伸びる影が、不意に止まった。

「・・・―――」

視線を感じたのだ。
けれども、これは『彼ら』ではない。


最近、熱心に見つめてくるとは思っていた。
会社員、それもか弱き女子である「わたし」―――この数百年で学んだ、世の普通に合わせた何の面白みもない女に向けられる視線は3つ。近所喫茶店の『いけめん』店員とその上階に住む探偵事務所に引き取られた『童子』、それから精製品を購入する店先で偶に会う柔和で『みみとし』青年。それぞれが各々の業を抱えている匂いがする。その為なのか、妙に鋭いのだ。
「吾等」の深意を微かながらでも読み取ってしまうくらいには。

まあ、この街は少々・・・否、かなり物騒ではあるので仕方がないのであろう。道を歩けば泥棒に出会い、百貨店に入れば爆弾が仕掛けられており、公園に行けば誘拐事件に巻き込まれる。血と殺意と害意で溢れるこの地は、吾等に闇に住まう者とって心地の良い場なのである。その分、数は増えるので認識しやすくなるし、縄張り争いは熾烈を極めるのである。

だから、ほら。

「・・・ぢ、いぎぎもを・・・・・・いぎぎもを、よこせぇぇぇええええええええええ」
「・・・はぁ、」

生き肝信仰なんぞ、母様で終わったでしょうが。
ため息を吐いても目前に迫る西洋のぞんび?なんだか金のきょんしー?なんだかは居なくならない。むしろわたしの腹を掻っ捌くかのように腕を振り上げて。

「―――『失せ』」

言霊に乗せて。息をするように。
すると血みどろの妖怪はぱっと、燃え上がって。塵も残さず綺麗に消え失せた。

「・・・・・・、はぁ」

横に流れ落ちた髪を振り払う。いつの間にか視界に映るその色は黄金色。
こんな満月の日は―――妖力が増すというのに。

「疾く、帰ろうか・・・」

心からの言の葉を呟いて。
飛んだ影には、十一の細長い影が増えていた。

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