愛のためいき_03



3.


長いキスで、なにもかも奪われていく。絡んだ舌先がお互いをくすぐって、わたしたちはふふっと声を漏らした。

「やけに余裕、見せてくるやん」
「ちょっと背伸びしただけ……あ、侑士、余裕な彼女は嫌だったりして?」
「まさか。大胆な伊織も大歓迎や」

自然とフロントボタンが外されていった。真似するように、わたしも侑士のフロントボタンを外していく。
すでに熱くなった肌に、濡れた唇が鎖骨から胸へと流れた。恥ずかしい、ため息まじりの声がもれてしまう。行為中の侑士のキスは、いつも気が遠くなるほど官能的だ。

「はあ……あ、侑士、わたし、お風呂……」
「ん? お風呂でしたい?」
「ち、違うよう……でも、12時間も働いてたから」
「恥ずかしいん?」

シャツをバサッと脱いで上半身をむきだしにした侑士は、わたしを壁際に追いこんだ。両手首をつかんで、押し当てられる。まさか、と思っていると、案の定、彼は舌をだしてわたしの脇をペロッと舐めてきた。

「やああっ、汚いでしょー!?」
「くくっ……汚くないって」
「だって、汗っ」
「わかってないなあ、それがええんやん」

まったく、わからない……!
わからないけどこれは、羞恥プレイというやつなのか。侑士とは何度も肌を重ねているけど、いつもこれだけは、全然、なんでそんなことしてくるのか、理解不能である。
とくに、気持ちいいとかもないし。ただくすぐったくて、やたら恥ずかしいだけなんだけど……。

「も、嫌だよう。お風呂、入らせてよ……」
「んん、しゃあないねえ。どうしても入りたい?」
「いっつもそうやってー。お願いっ」
「くくっ、わかったわかった」

乱れた服のままお風呂場に向かうわたしの背中に、侑士が巻きついてくる。歩きにくいのに、それが幸せでたまらない。動きだってギッコンバッタンで、ブラジャーを外してくるわ、パンティを引っぱってくるわで……だけど、いたずらっこの侑士が、かわいくて。

「ふふっ、もう、侑士ー、こけちゃう」
「こけたらええねん。俺が受け止めたるわ」

体のあちこちをたしかめるように触りながら、わたしが髪を結んでいるあいだに、すべての衣類をはぎとられた。わたしもいたずら返しで侑士のパンツを引っぱると、「お」と突然に目を輝かせはじめたから、笑ってしまった。

「なにその顔ー」
「ええねん、そのままずるっと脱がしてや」
「もう、バカ」

脱衣所からはすでに綺麗な夜景がしっかりと見えていた。薄いブルーで彩られたバスルームが幻想的な夜を演出している。
とってもロマンチックな光景なのに、わたしたちはバカを言いながら裸でじゃれあった。
言われたとおりにそのままパンツを下げていく。脱がせようとしているのに、うまくできない。引っかかったのだ。

「む、難しい」
「伊織のせいでめっちゃ上向きやからねえ。バイーンってなってまうな」
「もう、ホントにバカ」バイーン、じゃないんだよ。
「くくっ、あかんあかん、ずっと裸で風邪ひいてまうわ」

お湯をあたためなおしているあいだは、ふたりでシャワーを流しながら愛しあった。侑士がわたしの体を洗いながら、当然のように愛撫する。背中から回した泡だらけの指で胸の先端を何度もまさぐっては、唇にも首にも嵐のようなキスが降ってきた。

「ん、はあ……侑士」
「伊織、乳首、立たせすぎや」
「も、やだ、言わないで……」
「かわい。恥ずかしい? エッチやね?」

ずっと憧れていた「忍足先輩」と、こんなふうにセックスするなんて、思ってもなかった。
いまやわたしだけの「侑士」だと、自信を持って言える存在になったことも、信じられない……だからときどき、怖くなる。夢だったらどうしようって。

「……侑士だって、大きくしすぎ、でしょ」手をうしろにまわして、彼の屹立にそっと触れる。
「ん……はあ。仕返しのつもりか?」
「気持ちいい……?」
「めっちゃ、気持ちえ……」

侑士の吐息だって、いまはわたしだけのもの。ボディソープのおかげですべっていく感触からも、侑士のうっとりした表情からも、彼を喜ばせている自分に、わたしは感じている。
だからもっと、溺れさせてほしい。この現実は、絶対に夢じゃないんだって、わたしの体に刻みつけるように、疑うことのないように、深く。
シャワーを手にとって、お互いの体についた泡を流した。すぐに、侑士が胸に吸いついてくる。

「あっ……ん」
「舐められるほうが、好き?」
「ん……うん」
「やよね。伊織いっつも、おっぱい舐めると体よじるし」
「もう、いじわる言わないで」

なまめかしい舌の動きが、全身を震わせていった。侑士の愛撫は優しい。ちゅっとふくらみを吸って、ゆっくりと弧を描くように転がして。彼の唇から覗く赤に求められている瞬間が、たまらない。
わたしも侑士をよくしたくて、彼の熱を何度も上下させた。

「侑士も……」
「ん?」
「……舐めて、ほしい?」
「え」

一度もトライしたことのない提案を口にするのは、少し恥ずかしかった。侑士が少しだけ目を見開いている。まさかわたしから言いだすとは、思わなかった、かな。
でも侑士って、やけに優しいところがあるから。きっと遠慮してたはずだ。

「伊織……口で、してくれるん?」
「う、うん。侑士が、よければ、だけど」
「そんなん……」
「そんなん?」
「してほしいに決まってるやろっ」

思わず吹きだしてしまった。それほど必死になって伝えることなのか。だけど、そんな彼がかわいくて。そろそろあたたまってきたお湯に笑いながら浸かると、侑士はすでに感じているようなとろんとした瞳のまま、バスタブの淵に座った。
綺麗な夜景をバックに、なんとも卑猥なわたしたち。でも今夜の恋人たちはきっとみんな、こうして愛しあってるはずだから。

「痛かったら、言ってね?」
「ん……はあ、あかん、もう興奮する」

チロ、と舌をだして先端を舐めると、侑士が「く」と声をもらした。エッチな声は何度も聞いてるけど、こんなに敏感なのは、はじめてだ。そのままちゅぷ、と口に含んだら、とろんとした液体が糸を引いていく。感じると、男の人も濡れるらしい。

「はあ、あ、伊織……あかん、俺」
「うン……ン」
「ああ……やばい」

侑士の腰がわずかに動くのと同時に、その長い指先がわたしの乳房を包んでいく。指先で先端をいじられながら、ふたりでじっくりと気持ちを高めていった。





死にそうや……伊織が、俺のを咥えとる。
当然、動きはぎこちない(そんないきなりうまかったら、いろいろ疑うわ)。せやけどそれはそれで、健気さみたいなのも重なって、史上最高に気持ちがええ。

「ン……侑士、おっきくなった」
「なるよそんなん……伊織が大きくさせたんやろ?」

我慢できるわけがない。俺は伊織を抱えた。「ひゃっ!」と驚く伊織の体をさっとタオルで簡単に拭いて、ベッドに移動する。そら、あのまま風呂でもよかったんやけど、寝そべれる場所がないと伊織を十分に愛すことができへんから。

「ゆ、侑士、どしたの?」
「ん、やっぱちゃんと、ベッドで抱きたいなって」

幸い髪は洗ってなかったから、これなら風邪をひくこともないやろう。俺は伊織をベッドに寝かせてから、顔中にキスをしていった。かわいい、俺だけの伊織。頭の先から足の先まで俺がむしゃぶりつくしたい。

「ン……侑士、はあ……」
「もうめっちゃとろとろんなっとる、伊織」

キスしながら、伊織の花弁を何度もなでた。ビクビクと体を震わせる伊織の目も、とろとろんなっていく。俺を見つめるエロさが、めっちゃ好き。

「かわいい、伊織……」クチュ、と指を挿れてゆっくり抜き差しをくり返すと、伊織はきゅっと目を閉じた。
「あ、ああ……ン、あんっ。き、気持ちい……」
「ん……なあ、さっきの、もっかいして? 俺も気持ちようなりたい」
「あ……」
「あかん?」
「ううん、もちろん、うん」
「大丈夫や、伊織の気持ちええのも、俺、止めへんから」

抱きあげながら、今度は俺が寝そべった。ためらいがちな伊織の腰を誘導して、俺の顔の上にまたがせる。伊織も予想はついたんやろう、そのポーズのまま振り返ってきた。

「は、恥ずかしいよ侑士……」
「なに言うてんねんいまさら。ほら、一緒にようなろ?」

つるつるの谷間に顔を埋めていつものように舌でなでると、伊織はかわいい声をあげた。
垂れてくる蜜を吸い取って何度もしつこくディープキスをする。赤く熟れた果実が痙攣をこらえて、蕾がしっかりと膨らんできた。
同時に、俺の熱も伊織のぬくもりに包まれていく。懸命に上下する姿も、死にそうや。

「はあ、伊織……気持ちええよ」
「ん、ン……うまく、できてるかな? 痛くない?」
「痛ないよ。すんごい気持ちええ……けど、もう我慢できん」
「ンン、はあ……侑士」
「もう、伊織のナカに入りたい」

ゴムの封を切って屹立にあてがう俺を、伊織がじっと見つめてくる。いつもこのときは目をそらしとるのに、どうしたんや……。

「そ、伊織……なんでそんなじっと見てくるん」
「え、あ……ごめん。じっと見てちゃってたかな」
「お、俺かて、はずいで? って、前も言うたやろ?」さっきまで舐めさせといてなに言うとんねん、と思われるかもしれんけどさ。
「うん……なんか、なんていうか。ちょっと切ないなって」
「は?」
「いつもその……膜、が」

ドクドクっと、鼓動がうなりだす。ちょお待って、今日の伊織はいつもと違って大胆やなとは思っとったけど、だ、大胆すぎへん? え、生でしよって誘ってる?

「せやけど伊織……これは」
「あ、違う、あの……無くしてほしいってことじゃなくて」
「うん……そんな無責任なこと、できへんよ」
「わかってる。ただ、この薄い隔たりが侑士とのつながりを、ちょっと邪魔してるっていうか。気持ちの問題ってだけ!」

結構なこと口にしたんやと、ようやく気づいたんやろう。伊織はバフッとシーツに包まるようにベッドに寝転んだ。
せやけど、なんとなく、言うとることはわかる。裸で抱きあって、愛をたしかめて、お互いの体を存分にかわいがって、そこからやっとつながるのに、急にここだけ異物が関わってくるもんな。
伊織って、愛が深い女やなあ。俺も……人のことまったく言えへんけど。

「ほな、そのときを楽しみにするしかないね?」

シーツにもぐりこむように、愛しい伊織の背中にキスをする。かわいいこと言うなあって思ったら、たまらん気持ちになってきたわ。

「そのとき?」
「せや……将来、結婚したらなんの隔たりもなく愛し合おうや」

伊織をうしろから抱きしめて、頬にキス。横を向いた唇にも愛を送って、ふたりの体がまた熱を持つ。
俺はシーツをはぎとって、伊織の腰を浮かせるように抱えた。

「ん、侑士……」
「こんまま……伊織の奥のほう、入らせて……」
「あ、う……は、ああ……っ」

うしろからずぷずぷと伊織のナカに押しこむ屹立が、たっぷり愛液をまとった弾力に包まれていく。
両膝の下に俺の足をもぐらせて股を開かせながら、伊織の体を起こした。手を回して胸の突起をつまむと、その声が一層大きくなっていく。

「や、ああっ……はあ、ンンっ」
「は……ン、伊織、ええ声やね」
「や、は、恥ずかしい……侑士、わざとでしょ」
「ん? なにがあ?」

もちろん、わざとや。俺はふたりのつながっとる姿がよう見えるように、綺麗に磨かれた窓ガラスに向かって伊織を抱いた。背中から強く抱きしめる俺が揺れるたびに、俺にまたがる騎乗位の伊織も揺れていく。裸で溶け合うつながった愛が、目の前に映しだされとる。まるで鏡みたいに、くっきりや。

「も、あ、ああっ」
「興奮するやろ……? 見て。伊織の下の口も、俺の咥えこんどる」
「侑士っ……あんっ、ああっ」
「もっと、一緒にようなろうな?」

下から何度も、伊織を優しく突きあげた。規則的にしずむベッドの軋みと、ぐちゃぐちゃと弾ける音のなかで、伊織の乳房が揺れて、ホンマめっちゃ綺麗。
右手の指先でそっと伊織の蕾をこすると、ナカがぎゅうぎゅうに締まってくる。あかん、もう少し持たせたいねん俺は……時間をかけて、伊織を思いきり乱したいから。

「く、はあ……伊織、締めすぎや」
「だって、侑士が……あ、ああ、イッちゃ……」
「ん? もう? 俺と一緒にイカへんの?」俺もやけど……カッコ悪いで、口にはださん。
「い、一緒がいいけど……ああっ、も、ダメッ……!」

いじわるで激しく揺さぶると、伊織の体から力が一気に抜けて、大きく開いた股がガクガクと震えはじめた。前のめりに倒れかける伊織の体を抱きしめて支える。どろどろになった潤んだ瞳が俺を見あげてきて……ああ、伊織、めっちゃ綺麗。好きすぎる。

「ふ、かわえ……ん、舌、だして?」
「んん、ゆ、侑士、激しい……」
「堪忍。伊織のイッたときの顔、好きなんやもん、俺。むしゃぶりつきたなる」

つながった体が離れんように、俺はそっと伊織をベッドに寝かせた。激しくしたせいで、俺にも限界が近づいてきとる。せやけど、もう一度、伊織をイカせたい。

「伊織、どんどんエッチな体になってくな? まだヒクヒクしとる」胸をちゅるっと吸いあげて、耳もとでささやくとイッたばかりの伊織の体がまた、反応する。
「はあっ……ん、侑士の、せいだもん」
「こんなぐちょぐちょにして……なんで?」ベッドに垂れる蜜をすくって見せると、伊織は口もとに手を当てた。恥ずかしがっとる。むっちゃかわいい。
「ゆ、侑士が……気持ちよくするからでしょ?」
「それもあるけど、伊織が俺を受け入れるためやろ? 言うて? ほら」蕾をそっとなでていく。
「ン、はあ……侑士、ダメ、また……!」
「イキたいやろ? ほな、もっといっぱい突いてって。ほら、言うてや」
「ああ、ン、も、もっと……う、いっぱい、ちょうだい」俺にしか見せん伊織の妖艶な姿に、また屹立が膨らんでいった。
「はあ……かわいい。俺もそろそろださな、苦しいわ……」
「あ、あっ、侑士……!」

前後に腰を振りながら、伊織を強く抱きしめた。絡み合う手と手に、ひんやりとした指輪の熱が伝わってきて、余計に愛しくなる。俺と伊織の愛の証に胸がいっぱいになってきて、視線を外すことなく何度も舌をなで合わせた。とうとう、俺の口からも、だらしない声がもれていく。

「はあ、く、ああ……伊織、好き、めっちゃ好きやっ」
「わ、わたしも……侑士っ、大好きだよ……あっ、ああっ」
「愛しとるよ……せやから伊織のナカに、いっぱいだすな?」
「う、うん、あ、はあっ……侑士っ、ダメ、も、い……」
「ああ、俺もイく……伊織……! くっ……!」

体中を駆け抜けていく官能に、全身が震えた。ピクピクと熱を痙攣させたままぐったりと倒れこんだ俺の背中を、伊織が優しくなでていく。めっちゃ汗だくやのに、いつもそうしてくれるのが、愛しい。
つながったまま顔を起こすと、伊織は目を細めた。つられて微笑んで、また、キスをする。この時間、めっちゃ好き。

「ん、んん……伊織のナカ、あったかい」
「ふふ。いつも言うね、それ」
「ホンマにあったかいんやもん。ずっとこんままおりたいくらいなんや」
「それも、いつも言う。でも、うん……わたしもずっとこうしてたい……」
「せやろ? 以心伝心やな?」
「ふふ。あ、でもすぐに外さないと、まずいんだよね? たしか」
「ん。せやからめっちゃ切ないけど、抜きます……」

くすくす笑いながら体を離して、俺らはベッドで抱き合った。伊織とのセックスは、もちろんめっちゃエロいし興奮しまくるけど、終わったあとはいつも幸せで、穏やかな気持ちになる。
眠くなった俺の顔を見て、伊織はいつも頭をなでなでしてくれるから、甘えてまうんや。

「侑士、無理しなくて寝てもいいよ?」
「ん……せやけど無理させて。ホンマに最高の夜やから」
「……寂しかったのに?」
「もうそんなん、忘れた」

手を絡めあって、お互いの指輪を確認した。無言のまま目を合わせて、にんまりする俺らってたぶん、呆れるほどのアツアツカップルなんやけど……ええよね? 今夜くらい。

「来てくれて、ありがとうな、伊織」
「こちらこそ……わたしみたいなわがままな彼女を、許してくれてありがとう」
「そこが、かわいいんやで? 伊織の理論やとそういうことやろ?」
「ふふ。うん、侑士の全部が好きってこと」
「俺も……伊織の全部が、いっぱい好きや」

来年も一緒に過ごそう……そんなありふれた言葉を口にするまでもなく、キスで伝えあった俺たちのクリスマスイブ。
いつかこのペアリングが、将来を誓い合うエンゲージリングに変わる日を夢見て……俺らは静かに抱き合って、眠りに落ちた。





fin.

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