Twice_03


どうしてだろう。

堪えきれない独占欲は、どうして今頃出てきたのか。

知りたいという気持ちだけじゃ済まされない感情が、見なくていいものまで見せてくれる。

















Twice.












3.









侑士は、全然気付かなかった。

気付いて欲しかったかと言われたら、絶対ノーと答えるけど。

わたしの言動がないまま侑士に想いが伝わるのなら、どんなに楽だろうと考えた。

そんなことを考えながらしたキスは、ちっとも美味しくなくて。

いつか侑士にファーストキスのことを聞かれたら、どう答えればいいんだろうなんて、有りもしない想像をした。

侑士がそんなこと聞いてくるはずない。

わたしへの興味は、女としてじゃなく、友人としてなんだから。

そんなこと、侑士にとってはどうだっていいことだ。


「ね……寝とった……!」

「もう終わりだよ。あ、ほら。ジュード・ロウとチューしてる。いいなあノラさん」


「うわー……もうめっちゃ失態やん……お前が相手で良かったわ」

「ああそーですか。てかもう結構な時間だよ侑士。明日も学校だし」


キスした直後突き飛ばしてやろうかと思ったけど結局出来なくて、わたしはそのまま侑士に肩を貸していた。

なのに侑士の奴、起きた瞬間にそんなことぼやくもんだから腹が立つ。

その前に肩を借りてたことに何かリアクションないのか!……と思っても、やっぱり可愛いから腹が立つ。


「せやな。遅うまで堪忍。もうこれ、家帰って観るわ……ほなまた明日な!」

「あ、玄関まで送……」

「いやいやええって。家着いたらメールするわ。ほなね」


送ろうと思って立ち上がったわたしは、侑士に片手で制止させられた。

少しでも傍にいたいわたしの気持ちをこうも軽々と邪魔されるなんて。

悔しくて、侑士の後姿だけでもいいからと、窓ガラスに立ってみる。

すると玄関から出てきてほどなくした侑士が、わたしに気付いて手を振った。

それが嬉しくて手を振り返すと、侑士はすでに、背中を向けていた……。
























「落ち込んでますってか?」

「……あ……跡部だ」


「……ぼうっとしてやがる」

「うんまあね」


翌日、小休憩の間に学校内をとぼとぼと歩いていると、後ろから声をかけられた。

こないだの逆だ。今日は跡部がわたしに用があるらしい。


「どうかした?」

「あーん?ああ……悪かったな」


「は?」

「いや……」


何故かバツの悪そうな顔をして視線を逸らす跡部が、突然何を謝ってきたのか、わたしは戸惑った。

そこではっとする。

だから何度再確認したらわかるんだ。

この俺様は意外に神経質でマメで優しい人だったじゃないか。


「その……調子のいい――――」

「――跡部なにも悪くないのに、謝ることないじゃん」


「…………いや、適当なことを言って、貴様を余計に……その……」

「落ち込ませてるんじゃないかって?ないない。慣れっこだもん」


まごまごしている跡部はかなり可愛くて、いつものらしさが欠片もなかった。

それがおかしくて、思わず笑ってしまいそうになったけど必死に堪える。

彼はわたしを慰めに来てくれたのだ。茶化しちゃいけない。


「そういうのは慣れるもんじゃねえだろうが」


跡部は、しらけた顔して溜息と一緒にそう吐いた。


「そうだけどねー……慣れたいよね、いい加減……だから……かなあ」

「あーん?」


「あのね、跡部、秘密だよ?」

「あ?」


跡部に頼りたくなったのか。

ただ吐き出したくなっただけなのか。

それともひょっとしたら、自慢したくなっただけかもしれない。

どういうわけか告白したくなった。

わたしは、ヒソヒソ話を今からするよ!と言わんばかりに跡部に近づいて。


「侑士の寝込み、襲っちゃった」

「はあ!?」


「いやいや、寝てるとこ、チューしただけ。気付いてないし、向こうは」

「ああ、なんだ、チューかよ」


「ぶっ。チューとか言うんだ、跡部」

「黙れ卑怯者が」


「ひっ……卑怯者!?」

「寝込み襲ったんだろうが」


「だ、それはだって……だから……悔しかったのかなって……」

「……失恋に慣れることが出来ずに悔しくて寝込み襲ったっつーことか……」


寝込みを襲う、という意味をもっとすごいことに捉えてしまったであろう跡部は、チューという単語を聞いたせいか、ほっとしたような表情でわたしの心の中を解説した。

多分、そうだ、その通り。

きっと侑士に愛されてる千夏さんが羨ましくて、妬ましくて、悔しくて、ザマーミロってチューした。

だから美味しくなかったし、こんなに罪悪感でいっぱいなんだ。


「反省してる……でもさあ跡部ー……」

「なんだ?そろそろ休憩が終わる」


「あと五分あるじゃん!あのね、だけどね、厄介なことにさ……」

「なんだ、早く言え」


「……どんな女か見たくなった」

「は……」


「千夏さん……見たことないんだもん。これ何だろう?独占欲?」

「お門違いの嫉妬だろ?見て満足するわけがない。見たら余計に落ち込むだけだ」


「……今日も厳しい跡部様」

「好きにしろ。つーか、俺様が止めたとこで見に行くんだろうが」


呆れたようにそう言った跡部は、腕時計を確認して立ち去っていった。

確かに、お門違いの嫉妬だ。

今までは見たくなかった人なのに、昨日からいきなり見てみたくなった。

侑士にキスして、堪えきれなくなったわたしの悪魔。

どうして侑士はわたしのことを好きにならないんだろうって、そればかり繰り返す。

その答えが、彼女を見たら見つかる気がしてる。

見つかるはずなんてないのに……わかってても、気になって仕方ない。

それとも、侑士の全てを知りたいだけかもしれないけど。


「急いだほうがいいよ」

「え?」


本当にそろそろチャイムが鳴りそうだと思い、教室に向かっているとこだった。

今度は聞きなれない声に振り返る。

見るとそこには、同じクラスの……確か、新聞部に所属してる……


「次、移動教室だから急いだほうがいいよ」

「あ、本当?ああ、そうだったかも。ごめんありがと。急ぐよ」


「ってまあ、俺もなんだけどねー」

「あはは。ああ、そうだね。ここにいるもんね」


こんなに馴れ馴れしくされる覚えはないんだけど……一体いきなりなんなんだろうか。

そう思っていたら、突如、彼はわたしに一歩近付いて囁くように言った。


「そういやさっき跡部と話してたけどさ、知ってた?あいつ、婚約したらしいね。さっき本人からさ、全校生徒に発表するからって記事書かされたんだ」

「え、そうなの?なんだ……面倒なことになるからとか言ってたのに……」


「ああ、なんだ、やっぱり君は知ってたんだ?驚かせようと思ったのになあ。サンキュね!」

「え?サンキュって……なにが……」


戸惑うわたしを余所に、奴はさっさと移動先の教室へ向かってしまった。

この時の会話の真意がわかったのは、放課後のことだった――――。










―侑士、跡部に会った?

―いや……この騒ぎやで。今日は会えへんやろな。どうかしたん?

―……わたしのせいだよ……もう最低だ。

―はあ?ちょお教室で待っとき。迎え行くで。この調子やったら部活ないやろうし、早めにバイト行くから一緒に帰ろうや。

―了解……あ、ねえ、バイト先に一緒に行ってもいい?ちょっとお茶したいし。

―かまへんよ。ついでやし、千夏さん紹介するわ。



侑士に先を越されて、むっとする。

千夏さん紹介してよ!ってわたしが言ったら、きっと紹介してくれるだろうと思っていたけれど。

自分から紹介するなんて言われると、ギリギリと心が痛んだ。

ああ、そんなことよりも……いやそれも大事だけど。

今、学校中は大騒ぎになっている……と言っても、女子だけが大騒ぎしているんだけど。

先ほど屋上からばら撒かれた新聞部からの号外記事。

そこには跡部景吾の婚約に関する記事が書かれていた。

恐らく……新聞部はどこかで跡部と元副会長のデートを嗅ぎつけ、指輪を買っていたことも嗅ぎつけ、確証を得るために跡部と話していたわたしにたまたま目をつけ、カマをかけて確証を得たのだ。

きっとわたしとのあのやり取りで、号外へのGOサインが出たに違いない。


「伊織」

「侑士……あー……もう、情けないよう……」


「なんやなんやあ、どないしたんや?死にそうな顔しとるやん」

「うー、だって。だって。わたしのせいだよ……あの記事……」


「はあ?なんそれ?お前がリークしたん?」

「違うけど……良いように使われちゃったんだよ……わたしの軽率な言動のせいで……」


侑士を見上げるわたしを、侑士は困った顔して見つめた後、「ええから行こ」と頭を叩いた。

悔しい……こんな時にまで、侑士にドキドキさせられてしまう。

今ごろ跡部に詰られてたっておかしくないのに……不謹慎だ、わたしは。

侑士のバイト先に向かいながら、わたしは事の顛末を話した。

落ち込みながら話すわたしに、侑士は黙ってうんうんと頷いて。

意見を求めるようにこっちが黙ると、また、頭をぽんぽんと弾いてきた。


「それはしゃあないやろ。別に伊織が悪いんと違うわ」

「だって……だってでもさ、余計なこと言わなかったらあの号外も……!」


「伊織、それは自惚れや。お前から確証得られんかったとしても、あの号外は出されとる。新聞部なんかそんな奴ばっかりやん。ホンマ、あいつらええマスコミんなるで」

「それ、気休めじゃない?」


「気休めとちゃうよ。せやから気にしいな。跡部にそんなん話したとこで、お前のせいやないって言われて終わりや。やで、わざわざ話しに行くことないからな?ええか?お前は悪ない。頭に叩き込んどき」

「……うん…………うん、わかった」


腑に落ちない気がして遅れた返事をすると、今後は思い切り頭を叩かれた。

結構それが痛くて、涙目になって彼を見上げる。

侑士は、しらっとした顔で「何しけた面しとんねん」と飄々と言ってのけた。


「お前は自分が傷付かんと気が済まんタイプか?ドMか?」

「ど……そんなこと、ない……ハズ……」とは言ったものの、事実はそう言い切れないから哀しい。


ここ数年に渡ってしてきている侑士への恋は、ドMと言われても仕方ないほどだ。


「せやったらしょうもないことぐじぐじ考えんのやめや。済んだこと言うたってしゃあないし、跡部に謝りたいんやったら好きにしたらええけど、それってお前が満足したいだけやんけ。気にするなって言われたいだけやんけ」

「……っ……」


侑士の意見は尤もで、わたしは落ち込んでしまった。

そうかもしれない……どういうわけか、今日の侑士はいきなり冷たいというか、厳しい。

なんだか機嫌が悪そうだと、顔色を伺ってみたものの、侑士は何食わぬ顔をしていた。

でも、勢いよくそう言った直後。


「……堪忍」

「え……」

「ちょお言い過ぎた。俺、ちょお、むしゃくしゃしとんで……堪忍」


侑士が苛立っていることすら珍しく、わたしは目を丸くして彼を見た。

すると侑士は、ふっと哀愁漂わせて微笑んで、頭をごそごそと掻いて、「あー」と意味不明の声を出す。


「千夏さんな、メールの返事もあんま返ってこんし、電話もあんましてくれへんし。なんかなあ、付き合っとる感覚っちゅうのが、俺と違うみたいでな。ほんで今日、告白してから初めて会うんやけど、付き合っとるって感覚が無いせいか、俺、どんな顔してええんかわからんっちゅうか……」

「……そんな、侑士、たった二日前の話じゃん」


「そうなんやけど、なんやろ……俺のもんになったって実感が沸かんねん。なんやろな」

「今日会ったら、変わるんじゃない?」


「ん〜……そうなんかもな!」とわたしに笑って見せた侑士は、やっぱりどこか切ない表情をしていた。

わたしの適当な返事に、無理しているのがわかる。

……男の勘、なんてものもあるんだろうか。

侑士はわたしが昨日感じた、不思議な感覚と同じものに直面している気がする。

千夏さんは、本当に侑士のことを好きなのか。

でも千夏さんが侑士のことを好きじゃなかったとして、どうなるわけでもない。

わたしが侑士と、付き合えるわけじゃない……そう考えると、卑屈になった。











「はじめまして、こんにちは」

「あ、はじめまして……あ、あの、わたし、侑士の、友達で……」


「はい、侑士くんから時々お話聞いてます。あたしのこと聞いてるかもしれないけど、千夏っていうの。よろしくね」

「あ、よ、よろしく……あ、わたし、伊織って言います」


「伊織ちゃん……可愛い名前!わたしのことは、好きに呼んでくれていいよ」

「いや、あ、そんな……あ、わたしのことも好きに呼んでください」


悔しいけど、ものすごく可愛らしくて美しい人だった。

わたしなんか、比べ物にならないくらいキラキラしていて、絶対に男にモテるだろう。

跡部の言う通り、見て満足するどころか、ますます卑屈になってしまった。

侑士が好きになったのも頷ける。

どこか守ってあげたくなるか弱げな容姿と、だけど大人の女性らしい背筋の伸びた雰囲気。

侑士が隣に並ぶと、むかつくくらい目立つし、似合う。


「侑士くん、今日部活じゃなかったの?」

「中止んなったんで。早うに入ってもええもんですかね?」


「うん、別にいいと思う。店長に聞いてきてあげようか?」

「あ、すんません」


にこやかに笑った千夏さんの背中を見ていた侑士は、完全に恋してる男の子だ。

付き合ってる感じじゃないという侑士の気持ちがわかる気がした。


「その、敬語な感じとか、ベタ惚れしてますって視線とかが千夏さんに余裕持たしちゃうんじゃないの?」

「は……え、あ、俺のことか?」


「侑士以外に誰が?」

「やってずっと敬語やったんやし、そんなんなかなか直らんし……。直したいで、もっとスキンシップって思とるのに、電話も出らんし……」


「まあ、まだ二日しか経ってないしね。なんとも言えないけど……」

「俺、焦りすぎとるんかな?」


コソコソと紅茶を飲みながら、侑士は落ち着かない様子でそう言った。

でもまあ、あんな美人なら余裕ぶっこいちまうのもわからんでもない気はする。

侑士レベルの男からの告白も、死ぬほど受けてきたことだろう。


「侑士くん、店長OKだって」

「あ!ホンマですか!ほな、あとちょっとしたら入りますわ」


千夏さんを見るだけで、デレっとなる侑士の顔。

千夏さんはそんな侑士を見てにっこりともう一度笑うと、他のお客さんの接客へ向かった。

すべてにおいて余裕がある人だ……彼女が必死になるほどの男なんて居るんだろうか。

居るなら是非見てみたい。


「なんか、敷居が高い感じがするのはわかる」

「やろ……?せやけどあれ、俺の彼女なんやって……一応」

「なに弱気なこと言ってんの侑士。そんな顔見たくないよ」


それは本音だった。

昨日まであんなに嬉しそうにしてたのに。

きっと昨日の夜中とか、今日の昼間とか。

メールしても電話してもさらさらとしている千夏さんの対応に、拗ねているんだ。

侑士の哀しそうな顔は、見たくなかった。見たくないことが、結果、わたしの失恋に繋がったとしてもだ。


「せやな……頑張るわ。いってきます」

「え、あ、うん。いってらっしゃい」


もう少しゆっくりしてくれてもいいのに、と思いながらも、わたしは侑士を見送った。

早く千夏さんと働きたいのだろう。

ぽつんとテーブルの上に置かれた千円が、わたしの心みたいに、乾いた風を受けていた。






それから一時間後。


「お前なあ」

「ん?」


「いつになったら帰んねん。俺がやりにくいやろ。ノート広げとんちゃうわ!」

「どうせだから宿題やって帰るくらいいいじゃんかー。紅茶おかわりしてんだしさー」


気が付けば一時間経っていたらしい。

さっきから侑士は他のお客さんへの接客をしにわたしの席を通り過ぎるのだけれど、どうもそわそわしていることには気付いていた。

多分、バイトしている姿を見られるのが恥ずかしいのだろう。


「家に帰ってやれや。迷惑や、迷惑。今からお客さん増えるんやから、とっとと帰れドアホ」

「失礼なウエイター……いいよ、わかったよ、帰るよ!」


ぶつくさと言いながらわたしは席を立った。

千夏さんはそんなわたしに気付いてか、視線を合わせてきた。

軽く会釈をすると、女のわたしでも可愛いと思うほどの微笑みで返される。

しつこいようだけど……侑士が好きになるのも、無理はない。


「1890円ですー」

「え!高くない?」


「はあ?どんだけ紅茶飲んだ思とんねん。さっき俺が千円渡したやろ?それで払いーや」

「あ、わたし自分で言ったのに……そうだね、紅茶おかわりしてた。侑士おつり……」


「要らん。ほなまた明日な!あんましょうもないこと気にしいなや?」

「えーと、こっちの台詞だし。じゃね!」


レジを侑士に打ってもらって、憎まれ口を叩いて店を出た。

侑士との、ああいう他愛も無いやり取りが大好きだ。

少しだけ嬉しくなったわたしに、ほんの少しだけ、笑顔が戻る。

醜い独占欲が今日の行動に繋がって、余計に卑屈に思えたけど、なんだ、収穫もあったじゃないか。

千夏さんにはしばらく叶いそうにもないけれど、これからも侑士を支えていくことが出来そうだ。



考えながら、邪魔にならないように店の奥側に置いていた自転車を取りに向かう。

最初は下を向いていたけど、落ち込んでいた気持ちを前向きにする為に、それと同じように顔をあげた。

その時、わたしの目の端に男女のカップルが映った。

店の裏口あたり。人目を避けるようにその場所にいるということで察しがつく。

どうやらキスをしているようだ。

羨ましくて、本当は見たら軽く嫉妬してしまうとわかっていたけど。

やっぱり気になって何気なく見てみると、サラリーマン風の男の人が、夢中で彼女にキスしていた。


「……熱烈……」


そう呟いたのは、まだ気付いていなかったから。

キスされている彼女が着ているのは、侑士がさっき着ていた制服の、パンツがスカートになっているもので。

男がやっと落ち着いたのか、その唇を離した隙に見えたのは、さっきまで敷居が高いと感じていた女性で。


瞬間、心臓が張り裂けるかと思った。

彼女に気付かれないように、咄嗟に背中を向けて、携帯を持ち、電話をしている振りをする。

なんで?わたしはなんで、こんなことしてるんだ。

今すぐ侑士にこの事実を伝えて、二人を別れさせることだって出来るのに……!


「もしもしー?あー、うんどうしたー?え?卵?えー、別にいいけどさあ。わたし自転車だよ?お母さんが買って帰ったらいいじゃーん」


頭の中でシュミレートする内容とは裏腹に、わたしは母親と電話している設定で無音の携帯に話しかける。

わざと大きくあげた声に、あちら側が気付かないはずがない。

そうして自転車を取ったわたしがゆっくりとさっきの方向に顔を向けると、そこにはもう、誰もいなかった。


どうして、わたしは彼女を庇うような真似をしているのか。

帰り道、答えは出ないまま……脳裏に焼きついた千夏さんのキスシーンに、何故か、涙が止まらなかった――――。





to be continued...

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