ファットボーイ&ファットガール_04
「……ん?つーか、うちの生徒じゃねえな?」
「あ、はい!わたし、立海の……っ!」
「練習試合の申し込みに来た」
「……丸井じゃねえか。居たのか」
「……………………」
ファットボーイ&ファットガール
4.
カチン。
居たのか?居るじゃねえかさっきからここによ!!
あー、マジむかつく。
マージで腹立つ。
だいたい俺は最初から跡部が嫌いだ。
気取ってるし、あの俺様のテンション!マジ無い!!
「女と観戦か。暇なんだな、立海も」
「ち、違います!わたし、ただお使いで……!丸井とは何の関係もなくて……!」
「テメー人の話聞いてねえのかよ。練習試合の申し込みっつっただろ」
「ちょ、丸井、そういう言葉遣い、良くないし!」
佐久間がそこまで言ったとこで、人の話を全く聞いてねえ跡部は佐久間が持っているプリントを取った。
自分の手からすり抜けていくプリントに対して「あ……」と思わず声を上げた佐久間を見て、跡部はふっと微笑んでやがる……はあ?だからそういうとこが嫌いだっての!
って、佐久間は完全にノックアウト寸前だし。
「なるほど。いい提案じゃねえか。相手に不足なしってとこだな」
「俺ら立海が相手してやるっつってんだから気合入れて来いよな」
「……ま、お前らの古臭えコートでも我慢してやる」
「うるせえっつーの。弘法筆を選ばずっつーだろぃ!悔しかったらその古臭えコートで勝ってみやがれ!」
「ラケットに対してそれを用いるなら正しいが、コートに対して用いるのはどうかと思うぜ丸井」
「ぷっ……」
頭に来た俺が思わず言った言葉にすかさず入った、跡部の冷静な突っ込み。
それに対して佐久間が噴出しやがった。
あああああああああああ!腹立つ!!なんか恥ずいし!!
「それで?お前が連絡係なのか?」
「え!あ……れ、連絡係っていうか……」
そんな俺すら無視した跡部は、今度は佐久間に向きを変えて話しはじめた。
佐久間のガチガチに緊張した顔と、乙女全開の熱い視線がむしゃくしゃする。
「立海のマネージャーか?」
「い、いえ、ただわたしは、部長の幸村くんに頼まれて来て……」
「幸村に……?丸井の女じゃ無いと言ったな?テニス部とどういう関係なんだ?ああ、女テニか?」
「いえ、そうでもなくて……あの……だから、その……」
跡部はテニス部に関係ない女が氷帝のコートを踏んでいることが気に入らねえのか、いつも細かいことは気にしねえくせに、佐久間にはやたら根掘り葉掘り。
佐久間は困ったように俺に視線を向けてきたけど、俺はむかついてたせいかそれを丸無視した。
け、勝手に困ってろ。
そんでファンです、とか言って、跡部に「出て行け」とか言われちまえばいい。
「あの……」
「どうした?」
「わたし、あの、跡部さんに、会いたくて……ゆ、幸村くんがそれで、気遣ってくれて、わたしに連絡係みたいなこと、させてくれて……あの、あの、ご迷惑……ですよね、ごめんなさ……」
今にも泣きそうな顔して俯いた佐久間は、か弱い女ぶって消え入りそうな声でそんなこと言ってて。
俺は「ザマー!」と思ってた。
跡部がそんなこと聞いて、優しくするはずねえ。
こいつは昔っから女には冷てえ男って俺は知ってる。
いつだったか、「邪魔だメス猫」とか女に言ってんの、噂で聞いたことあるし。
「メス猫」って……今日び言わねえ。
「そうか」
と、思ってた俺に聞こえてきたのは、跡部の普通の声。
優しいわけでもねえけど、別に冷たくもねえ。
ぎょっとして俺は跡部を見た。佐久間も、驚いて跡部を見上げてる。
その次の瞬間、信じられないものを俺は見た気がした。
「光栄だ、ありがとう」
跡部はほんの少し……優しく笑ってた。
□
□
「でね、でね!光栄だ、ありがとう……って!!笑ったの!!ニコーッて!!」
「えー!……意外……跡部って優しいんだね」
「跡部くんすっごい優しい人だよ千夏ーー!!噂が先行してなんか嫌味な感じの人になっちゃってるけど、やっぱりすっごい紳士だったよ!!」
「ニコーッて笑うイメージないよねえ……」
わたしには、ニコーッて見えた。
あの日の帰り道、跡部くんに言い負かされてイライラしてた丸井に何度も、「誇張表現だろぃ!」ってキレられたけど。
ニコーッてしてたもん!絶対!!絶対してた!!もう、すっごいカッコ良かった!!
「さあ、でもやっぱりわたしはもう言うよ……出来れば、そうなる前に言いたかった」
「え?なになに千夏、なんの話?」
ニヤける顔はどうやったって止めようがない。
今日は日曜日。
仁王と遊ぶ予定だったはずの千夏が、「雅は家の用事が出来ちゃったみたい」とわたしの家に訪れた。
突然の親友の訪問にテンションがあがったわたしは、金曜の夜にも電話して話したことをしつこく繰り返し聞かせていた。
千夏は嫌な顔ひとつせず聞いてくれていた。ありがたい存在だ。
そんな千夏の穏やかな表情が一変して、真剣な表情になる。
あ、真面目な話だってわかってても、結局ニヤけるわたしに、千夏は少し困った様子だ。
「わたしね、伊織に黙ってることがある」
「え?」
「知らないことって、辛いと思うんだ。好きだから知りたいって思うじゃん。でも知ったら辛いことってたくさんある。知らないほうが幸せだって意見があるのはそういうことだと思う。でもやっぱり、知っておけばこんなに辛い思いすることなかったのにってほど好きになった後じゃ遅いじゃん。だから、言っておくべきだと思って。どうせいつかわかることだもん」
千夏の言いたいことは、頭ではちゃんと理解出来る。
でも千夏がわたしに伝えようとしていることが何なのかわからない。
千夏がこんなに真剣になるのは、たかが、「あの人には彼女がいるよ」程度のことじゃない。きっと。
「跡部くんね、婚約してるらしいんだ」
「……ん?」
体中が、ドクン、と唸る。
突然頭のてっぺんから落とされたような衝撃に、言葉は続いて出てこなかった。
千夏の口から出たさっきの前触れは、心の準備を用意してくれたんだ。
だけど、それに効果は無かった……それくらい、真っ白になって。
「わたし、雅治とね、このチラシ見つけて……」
黙っているわたしに、千夏はまっすぐわたしを見てそれを差し出した。
ゆっくり視線を落とす。
落とす前から目に入っていた、「婚約」という二文字。
少しだけ目を通すと、内容はそのまま、跡部くんが婚約しているということが書かれてあった。
先日、その元副生徒会長であるという相手の女性と婚約指輪を買いに行っていたらしい。
ばっちり写真付きで、二人は腕を組んで、跡部くんがその彼女の頭を優しく撫でている。
どうやら、氷帝の新聞部がばら撒いたものらしい。
「彼女はいるみたいだね……でも婚約は、ガセかもしれない……じゃん?」
「そうかも。そうかなって思ったんだ、金曜の伊織の話聞いてて。だけどね、やっぱり思うんだよ。この新聞部はさ、たかが学校の部活だよ。別に発行部数競ってる週刊誌じゃないじゃん。そんな新聞部がね、わざわざあの跡部景吾に楯突くような嘘っぱちの記事書くかな?って」
「そんなの……わかんないじゃん。面白がってるのかも……千夏、なんでそんなこと言う――」
「――悪意が見えるから」
え、と声にならなくて。
落ち込んでいた気持ちを奮い立たせるように千夏を見ると、千夏は少し涙目になっていた。
「どうしたの千夏?」
「悪意が見えるんだ、この記事に……跡部ってより、この相手の人のこと、困らせようとしてる気がする。わたしね、こういう悪意に最近すごい勘が働くんだよ」
「…………そ」
「でもその悪意は、丸っきり嘘じゃない気がする。だってこんな嘘、ガセだったらすぐにバレる。ましてやこんなガセ書いて、跡部に何されるかわかったもんじゃない。だとしたら、跡部が否定出来ないことわかってて書いたとしか思えない。で、こんなことして得する人なんか、一人しかいない……」
「得する人って……誰……?」
「この相手の人を、憎んでる人」
「佐久間、ちょっといいかな?」
跡部くんに再会してから一週間後のことだった。
昼休み、ぼーっとしているわたしと千夏の間に割って入ってきた声。
そこに遠慮とか、空気を読んでるとか、そういう雰囲気は感じ取れなかった。
恐らく、彼は敢えて空気を読まない神の子。
「幸村だ……エスパーだ……神の子だー……」
同じ事を思っていたのか、千夏が馬鹿にしたようにそう言う。
多分、少しイラついているせいだろう。
千夏はこのところ、まともに仁王に会ってもなければ、話もしていない。
それどころか、ひとりでいろいろと考えては、ひとりで落ち込んでいる。
「どうしたんだい吉井?なんだか嫌な空気を感じるよ」
「滅相もございません」
「わたしにどんな御用ですかー?御用だ!御用だ御用だ!」
「……二人とも、少し栄養が足りないみたいだね」
「足りましぇん。僕は死にましぇん!」
あの日、跡部くんの話を聞いた後に千夏の話を聞いた。
千夏は泣きながらわたしに話してくれて、わたしは何もしてあげれない自分に腹が立った。
どうやら、仁王は前の彼女とまだ完全に切れていない雰囲気があるようだ。
仁王から話を聞いてはいないから確証はない。
そもそも仁王から話を聞けるほど、元々わたしと仁王らは仲が良いわけじゃないし。
だけど仁王が千夏に対して言った言葉は、冷た過ぎる。
おかげで、お互いに打ちのめされているわたし達は、完全に壊れていて。
わけのわからないことを口走っては、ぼーっとするという一週間を過ごしていた。
「古すぎるよ吉井。それでね、佐久間にお願いがあるんだ。もう一度丸井と氷帝に行ってきて欲しいんだ」
「え……」
「幸村、それアウト。断る」
「吉井にお願いしてるんじゃなくて、俺は佐久間にお願いして――」
「――だからダメだってば!あんたバカあ!?あ、今のはアスカ的な意味で本気じゃないよ」
「壊れてるね。どうして吉井が入ってくるんだい?」
「わたしは伊織の親友だからです!DEATH!!」
「度胸があるね、吉井。ふふふ」
イラついている千夏と神の子の二人のやり取りは、普段のわたしなら面白く聞いているはずだけど。
今は平常心で居られない……もう一度、跡部くんに……。
「行く」
「え!」
「ありがとう佐久間。日時のお知らせだから、わざわざ跡部に会わなくても、誰かに渡してくれるだけでいいよ」
「ちょちょちょっと待って伊織、よく考えて」
「いいのいいの。わたし、ちゃんと決着つけたいんだ。自分の中で。だからちゃんと、お別れしてくる」
「……そ……て、てか幸村、それさあ、別に伊織じゃなくたっていいじゃん!」
「跡部とお近付きにってこないだ言ってたじゃない」
「でも今アンタ、わざわざ跡部に会わなくてもいいって言ったってことは、伊織があまり跡部に遭遇したくないってこともわかってて……!」
「なんとなくね。でも一度任せた仕事だから、最後までやってもらわなくちゃね。これで最後だから。丸井には伝えておいたらから、放課後迎えに来ると思うよ」
そう言って、幸村はさっさと消えて行った。
多分、千夏の相手が面倒臭くなったのだと思う……幸村はきっと、面白がってるだけだと言っていた丸井の言葉が蘇る。
確かにあの人は、面白がってるだけかもしれない……だけど、これは神ならぬ、神の子が与えてくれた定めなのかもしれない。丁度良い、機会。
「伊織……あいつ鬼だ……きっと知ってるんだよ、跡部の婚約」
「もうすっかりこの辺りでも噂になってるしね……」
「知っててさあ!それって……!」
「幸村は、わたしが行かないって言ったら無理強いはしなかったと思うよ」
「そうかもだけどさ……」
「とにかく行って来る。しっかり拝んで、さよならしてくる!ほら、まだ恋心浅かったから、大丈夫だって!」
「……んー」
「ん!」
腑に落ちてない千夏に言い聞かせて、わたしは胸を張った。
なんだかんだ理由をつけて、わたしは結局、跡部くんに会いたいだけだ。
「よう」
「え、あ……丸井か。あ、そっか、迎えに来てくれたんだ」
「幸村から聞いてっだろぃ?」
「ごめんごめん、ぼーっとしてて」
放課後、気が付けば丸井が後ろに立っていて、わたしは少し驚いた。
丸井が気配を消してたわけじゃなく、多分、わたしが気が付かなかっただけなんだけど。
わたしの机の前の椅子に座っている千夏は、その声を聞いて顔をあげて、ぼやぼやと呟いた。
「丸井くん、伊織、よろしくねー」
「……てかお前さ」
「ん?」
「……仁王と、ちゃんと話せよ」
丸井がそう言ったことで、千夏は背筋を伸ばして起き上がり、丸井を見つめた。
少し目を見開いてる。
きっと、仁王が丸井に相談してるってわかったから、驚いてるんだ。
わたしだって、少し意外に思う……あの仁王が、丸井に相談してる……それほど、参っているのか。
「いや……そりゃ、俺にとやかくいう権利とか、全然ねえけどさ……」
「……ううん。ありがと、気にしてくれて」
そう言ってぱたっと机に突っ伏した千夏を見て、「行ってくるね」と声を掛けて、丸井と学校を後にした。
何気なく聞いてみる。
わたしもいろいろあるけど、今は仁王と千夏のことも気になる。
「ねえ丸井さー」
「お前さー」
「え、何?」
明らかにかぶっていたわけじゃなく、丸井さー、とわたしが言った後だったというのに。
丸井は遠慮なく自分の話を先行させようとした。別にいいけど。この強引さは今に始まったことじゃない。
「知ってんだろ、もう……跡部に会ってどうすんだよ」
「知ってらい」
「あ?なんだその返事」
「アンタの真似」
イライラする。
どうしてだか、丸井にそう聞かれるとめっちゃくちゃイライラする。
それこそアンタに関係ないじゃん。
全く応援だってしようとしなかったくせに、なにいきなり気遣い始めてんの?腹立つ。
「……いやそんなこと言ったことねえし」
「あーそうですね」
わたしがイラついてるのがわかったのか、丸井はぶすっとして黙った。
おかげで、暫く沈黙が続いた後、「つか、なに?」と突然聞かれた。
戸惑うわたしはイライラを残したまま返事をして。
「は?」
「お前なんか言おうとしてただろぃ」
「ああ……いや……仁王、丸井に相談してんのかなって」
さっきの、とわたしが付け加えると、ああ……と丸井は納得したような顔をして、空を見上げた。
「……いや相談っつーか……まあ……相談っつーより、俺の前で、嘆いてた……つーか?」
「嘆いてた?あの仁王が?」
「千夏が好きなんよ……って。マジ、惚気かよって言いたくなったけど、そういう雰囲気じゃなかったし」
なんと。
それは是非、千夏に聞かせてあげたい出来事だと思った。
けど、やっぱりこれは、わたしや丸井が首を突っ込むことじゃないような気もする。
ああ、だけどモドカシイ。千夏に伝えるくらい、いいような気がする。今夜電話しようかな。
「ねえ、あの二人さー」
「てかお前さー、まだ好きなわけ?」
すると、またしても明らかにかぶっていたわけではなく、完全にわたしが喋り始めた後だったというのに、おまけにその話をしたくなくて仁王と千夏のことで話をつなげようとしたってのに、丸井はわざわざまたその話を……跡部くんの話を、蒸し返してきて。
「なに?さっきからさ、ころころ話変えるのやめてくんないッ!?」
だからアンタに跡部くんのこと聞かれるの、なんかよくわかんないけどイライラするんだってば!!
と、わたしのヒステリーは爆発寸前。
「何イラついてんだよ。そんな怒るくらいなら、もう会う必要ねえじゃん」
丸井は呆れたように言う。
ええええ、わかってます。わかってますよ。恋が終わる瞬間が怖いですよわたしは。
でも、わかっていることを指摘されると、余計に腹が立つんだ!
「ちゃんと終わりにしたいの!」
嘘だ。
「勝手に恋してっ……」
ホント、バカ。
「だから、勝手に終わらせたっていいじゃん!」
嘘だ。終わらせたくない。
続けざまに言った自分の言葉に、ことごとく否定する頭の中の声。
「どうやって終わらせんだよ!好きですっつって終わらせんのか?」
「気持ち伝えようなんて思ってないし!ただ、顔見て、さよならって思うだけでいいの!」
「そんなのお前が辛いだけだろ!」
「わたしが辛くたってアンタに関係ないじゃん!」
「……っ……ちょ、佐久間!」
そんなに怒る必要なんてどこにもなかったのに。
丸井は、わたしの心配をしてくれてるだけだったのに。
なんだか嫌なことを指摘されているような気がして、わたしは捲くし立てた挙句、走り出した。
わたしの中でけじめをつける。
冷静にそう言えば、丸井だって納得したかもしれないのに。
どうしていきなりこんなヒステリーを起こしたんだろう。
丸井の存在って最初からそうだ……なんか、調子狂う。
怒らせちまった……。
走ってった佐久間の足は遅くて、追いかけようと思えばすぐに捕まえられたけど。
どのみち氷帝に行けば見つかると思った俺は、頭をぼりぼり掻いて歩くだけだった。
なんつーか、最近マジで、自分じゃないと思うくらい気持ち悪りいことばっか考えてて。
仁王と吉井もうまくいってねーから、仲良くして欲しいとか(俺の知ったこっちゃねーのに)、佐久間が跡部の婚約のこと知ってもまだ跡部に会いに行くって決めたこととか(どうでもいいのに)、つかそしたら佐久間がまた辛くなるだけじゃんとか思って、マジで、それこそ俺の知ったこっちゃねーのに。
あいつが辛かろうが、泣こうが、喚こうが……どうでもいいはずだろ?なあ、丸井ブン太。
「あー面倒くせー!」
恥ずかしいから、小声で言った。
大声で言ったら青春じゃん。超恥ずかしい。
でもそれ以上恥ずかしいことに、俺はそう言った瞬間、走り出してた。
なんかよくわかんねーけど、今、佐久間を一人で跡部に会わせんのはすげー嫌だ!!
「あーもうマジで……なんだこれ!」
俺は、認めたくない事実に直面してる気がしてた。
佐久間のこと、考えてると落ち着かない。
あいつがいつか泣き出すんじゃないかと思うと、すげえ怖くなる。
俺がなんとか泣かせないように出来ないもんかって、こないだ自然にそう思って、マジ焦った。
俺はもっと、小っさくて、可愛くて、大人しくって、言いたいこともはっきり言えないような、そんな女の子ばっか好きで、そんな女ばっかと付き合ってきて。
だから、佐久間みてーなタイプは本気無理で、だってウルセーし、物怖じしねえっつーか、初めて会った時とかマジ最悪だし、平気で男の俺のこと殴るし、言葉遣いだって、超強気!
全然可愛げねーし、……だから…………だから、ちげー。
でも、今までと違うからって、なんだよ。ああ、どっちなんだよ、丸井ブン太!!
くそ!もう……こんなの、俺らしくねえだろぃ……!
ごちゃごちゃ考えてるうちに、氷帝について、コートに行っても、跡部の姿は無くて、だから当然、佐久間の姿も無くて。
校内歩き回ったけど、氷帝学園はデカすぎてよくわかんなくて。
きょろきょろしてたら、体育倉庫みてーなとこ辺りから、とぼとぼ歩いてくる立海の制服が見え隠れした。
「佐久間!」
「………………」
少し遠かったから、そうやって声掛けたんだけど。
丸無視してんのか、俯いたままなんの反応も無くて。
様子が変だって思った俺は、佐久間の傍に駆け寄った。
「佐久間?」
「……っ……っ……」
「え……お前、泣い……」
俺が駆け寄った時、佐久間は立ち止まった。
立ち止まったまま顔を上げんのかと思えば、うな垂れたままで。
顔を覗き込んだら、佐久間は、泣いてた。肩を揺らして、泣いてた。
悔しそうな顔して、今にも崩れそうで……泣いてる佐久間見たら、やっぱり思った。
――――泣かせたく、ない。
「どうし……」
「跡部くん、居なくて……コートに……っ……探してたら、見ちゃった」
「え……?」
「多分、あれが、彼女なんだね……跡部くん、すごく、すごく愛しそうに、抱きしめてるとこ……見ちゃった」
「………………」
「彼女も、跡部くんに、しがみ付くみたいにして……あんなの、反則だよ……」
そこまで言った後、ぼたぼたっと落ちた佐久間の涙に、泣き顔に、俺は不謹慎にもドキドキして。
俺は俺らしくもなく、佐久間の顔覗き込んだまま、なるべく、優しく話しかけた。
「佐久間……な、帰ろ?」
「プリント、渡して、ない……」
「明日でも明後日でも俺が渡しとくから、今日は、帰ろ?」
「丸井……」
佐久間の手から今にも落ちそうな鞄持って、俺は歩き出した。
鞄が勝手に歩いたら、佐久間も付いてくるはずだと思って。
最初はそれでも歩き出さない佐久間を見て、俺も立ち止まって待ってみたり、ちょっと歩いてみたり。
したらやっと、俺より三歩くらい遅れて、佐久間はぐずぐず泣きながら付いてきた。
氷帝出て、歩いて、歩いて、あの横断歩道渡って、俺と佐久間の家路の分かれ道になっても、その距離は変わらなくて、佐久間は泣いてて。
「ま、丸井、も、ここ、アレだし、鞄、ありがと……」
「…………」
分かれ道に差し掛かったとこで、ずっと黙り込んでた佐久間は、俺の背中にそうやって声を掛けてきた。
気付かなくていいとこに気付いてんじゃねーって、思わず言いそうだったけど、涙声を必死に絞り出してる佐久間の声聞いたら……そんなの……。
あー、今振り向いたら、俺、やばい。絶対やばい。
「送る」
「え……」
「家まで送るから……吉井だって言ってただろぃ、伊織、よろしくって……」
「いや、いいよ、だって……」
「送らせろよ、今日くらい」
背中向けたまま、ツンデレ。
……超カッコ悪りい、俺。
もう、認めるしかなかった。
人のタイプとかって、マジでアテになんねー。
だって俺、好きじゃん……佐久間のこと――――大好きじゃん。
to be continue...
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