ざわざわきらきら_11


11.


やっと想いが通じあえたと信じた瞬間に、これや。
あんな言い方せんかってもええやん。そら、付き合ってとか言うたわけちゃうけどさ。キスまでして、俺、めっちゃ口説いたのに、伊織さんはずっとうわの空やし。ちょっと責めるような口調やったんは認めるけど、なんで元カノから電話かかってきたってだけで、あそこまで言われなあかんねん。

――別にわたしなんて、キスしちゃっただけで、彼女でもないんだから、会えばいいんですよっ!

自分かて元カレに会って、デートまでしたくせに、なんやねんあの言いぐさは。俺がそれに妬いてないとでも思ってんのかっ! ホンマにあの男、殺したろうかと思うくらい嫉妬でどうにかなりそうなん、なんとか抑えとるっちゅうのに、あの女、俺のことばっかり言いやがって……!
「彼女でもないんだから」って、ああ、そうやけど!? 彼女やないけど、俺のなかではとっくに俺の女なんじゃお前は! そんな俺の気持ちも完全に無視しやがって……!
あげく、俺がこれまで愛情注いでやってきたシャンプータイムを、「実は面倒でした!」とか、「たまにはひとりにしてください!」とか言いよった。あああああ気に入らん! へえ、そうか! 俺なんかと、おりたないかっ。俺は毎日会いたいけど、伊織さんにとっては面倒で、迷惑やったんやな!
伊織さんが怒って治療院に入っていったあとも、俺はむしゃくしゃしながら、ずっとそんなことばっかり考えとった。そのせいか予定しとった時間より、10分も早うに事務所についたわ。安全運転を心がけとったのに、こんなに俺の気分を乱しよってホンマに……。
それでも事務所についてからコーヒー飲んだら、ほんの少しだけ気分は落ち着いた。
さて、とスマホを見る。
まさか、千夏からこんなタイミングで電話がかかってくるとは思ってなかった。あれきり、なんの連絡も取ってないし、その後どうしとるかも知らん。スマホの番号、変えてなかったんやな、と漠然と思う。いったいなにごとやろうかと思って、俺は一応、折り返してみた。

「侑士?」
「おう、久々やな」

ホンマに久々に聴いた声やった。昔はこの人の声を聴くだけで、どんなつらいことも乗り越えられると思っとった自分が懐かしくなる。せやけど、人の気持ちって不思議や。
千夏の声を聴いただけで、伊織さんの声が聴きたなるやなんて……。あんなに喧嘩して傷つけあったあとやのに。どういうわけか、めっちゃ切なくなった。

「ごめんね、いきなり、こんな」
「いや、どうかしたん?」
「うん。直接会って、どうしても、言いたいことがあるの」

俺に電話をしてくるのに相当な勇気が必要やったろうことは、安易に想像がついた。そういう彼女を足蹴にするんもなんか違う気がして、俺は「ええよ」と答えた。
最初は喫茶店で待ち合わせようと思ったんやけど、もしかしたら伊織さんが治療院で気分ようなって、「やっぱりシャンプーしてください」って言いに来る可能性もある。そのときに外出しとったら、俺に連絡もせんまま伊織さんが帰ってしまうかもしれん。それだけは、避けたかった。
千夏とはやましいことはないし、俺は事務所の住所を告げた。それくらい、伊織さんと会えるかもしれんチャンスを、俺は、逃したなかった。
とはいえ、や。
まさか鉢合わせになるやなんて、思ってへんかった。千夏が来たのが、予定より遅かったのもある。そんで伊織さんが、ホンマに来るとか……ちょっと期待はしたけど、こんなにタイミングって重なるもんなんやろうか。誰かが俺らの運命を意図的に動かしとるとしか思えへん状況に、俺はげんなりした。
伊織さんがやってきたのは、千夏の話も終わって、もう帰るっちゅう寸前やったんや。あと少し千夏が早く来て、あと少し伊織さんが遅れとったらと思ったときには、手遅れやった。

「誰、ですか」
「いや……」
「早く教えてください」
「そ……元カノ、や」

ものごっつい顔して、伊織さんは目をひんむいとった。憤慨が体からわきでとる伊織さんの左腕を、俺は咄嗟につかんだ。

「なんですかっ」
「ちゃうねん、あんな」
「離してください!」

ぶんっと、すごい勢いで俺の腕が振りほどかれる。変な誤解されたくなかったから説明しようと思ったのに、俺の話を聞こうともせんで、伊織さんは大きな足音を立てて、テーブルに座る千夏の前に立ちはだかった。

「ちょ、伊織さんっ!」
「はじめまして、佐久間伊織と言います!」
「えっ……あ、はい」

いきなり知らん人間が現れて、しかも怒った様子で自己紹介された千夏は、目をまんまるにさせて伊織さんを見あげたあと、困惑して俺を見てきた。そらそうや、そうなるわ。

「彼の、元カノさん、なんですよね?」
「あ、はい……千夏と、言います……」え? え? という困惑が、見て取れる。俺は慌てて仲裁に入った。いや、なんでいきなり仲裁やねん。
「伊織さん、あんな、彼女は」
「どういう、ご用件でしょうか?」

なんとか冷静を努めようとしとるんやろうけど、その顔がめっちゃ怖い。あと、俺の話をまったく聞いてくれへん。
伊織さんの部屋にあの男がおったときの俺も大概やったかもやけど、これは絶対に、それ以上や。

「あ、あの、あたし今日は」
「5年も前に振った元カレに、いったい、どんな用があるんですか?」おいおい、それをいま言おうとしとるのに……話を聞けやっ。
「あ、はい。図々しいかなと思ったん」
「図々しいですよ! 彼がどんな思いでこの5年を過ごしたか、あなた、想像つきます?」

あかん、これは本格的に止めに入らな、えらいことになる。俺は二人のあいだに立つようにして、伊織さんに顔を向けた。

「待て待て、あんな」
「忍足さんは黙っててっ」
「あ、はい」

あっさり引き下がった俺に、千夏がキッと目を向けた。や、やってめっちゃ怖いんやもん! あと、なんやちょっと、嬉しいっちゅうか……。千夏には悪いけど、このまま見ときたい気もする。だってめっちゃ妬いてくれとるやん……かわいい。

「千夏さん!」
「は、はいっ」
「あなた、たしか今年32歳、ですよね?」
「は、はい」
「それ、彼とデートしたときに聞いたんですっ」めっちゃデートをアピールしとる。あかん、笑ってしまいそうや。「もしかして適齢期が来て、結婚でもされたくなったんですか?」
「いえあの、今日はその」
「いまさら、そういうのないと思います! 3年も付き合って、そりゃあ、とっても愛されていたんでしょうけど、だからって、図々しすぎます!」めっちゃ食い気味。めっちゃヤキモチやん……。
「はい、あの、ですから今日はっ」
「申し訳ないですけど! 侑士といま付き合ってるの、わたしなんで!」

伊織さんの口から飛び出したその発言に、ドキン! とする。
え、いま、侑士って言うた……? 言うたよね? しかも、付き合っとるって言うた?
うっそやろ……め、めっちゃかわ……。あかん、ジタバタしてまいそう。

「はいあの、それは重々承知」
「いまはわたしが愛されてますから! 付き合い、あなたに比べたら短いけどっ!」

そこまで聞いて、あれ? と思った。伊織さんの声が、震えとったからや。
見たら、ぼろぼろ涙をこぼしはじめとって……ああ、あかん、嬉しすぎて放置してもうたせいで、伊織さんを傷つけたんやって、そのとき気づいた。……まあ、本人の勝手な勘違いなんやけど、俺がジタバタしとる場合でもない。

「伊織さん、落ち着いてや」
「落ち着けません!」左手で、何度も涙を拭っとる。「あなたは彼を捨てたんでしょう!? いまさら取り戻しに来ないでください! わたしの侑士なんです! 取らないでっ!」

しまいには両手で顔を覆って、伊織さんは泣きはじめた。
俺が……取られると思ったん? まったく……。ホンマ、なんもわかってへんのやな。せやけど、愛しいて、たまらん。
すぐにでも抱きしめてやりたかったけど、俺はそれをぐっと我慢した。さすがに、千夏が置いてけぼりんなる。

「……あの、しゃべってもいいですか?」

泣きだした伊織さんを見て小さな声をあげた千夏が、そっと伊織さんに向かって立ちあがった。

「あたし5年前から、忍足さんには一度も会っていませんでした。でもあなたがおっしゃるとおり、あたし、本当に酷いことをしました」

伊織さんがピクッと反応して、顔をあげた。千夏が、しんみりと、悲しく笑う。
さっきこの事務所に来たときと、それはまったく同じ表情やった。後悔、反省、懺悔……そういうもんが、全部つめこまれた、悲しい笑み。

「その後始末も、全部、両親に任せたままでした。今回、あれからはじめて日本に戻ってきたので……その、今度、結婚するんです、あたし。婚約者に、きちんと謝ってこいと、言われて来ました」

千夏は俺にしたのと同じ説明を、伊織さんにもした。別に俺としては、もう時間も経ったし、謝罪なんていらへんかったけど……その婚約者は人間ができた人みたいで、20歳も年上らしい。「酷すぎるよ、きちんと謝りなさい。じゃないと君とは結婚できない」と、まあ冗談やろうけど、たしなめられたそうや。
そこまで聞いた伊織さんが、ポカンと口を開けたまま、ぼうっと千夏を見つめた。ようやく正気に戻ったんか、だんだんと、顔が赤くなってきとる。あー、かわい……ホンマ、また夢中になりそうや。

「本当にごめんなさい。じゃあ、帰るね」と、千夏は俺に軽く会釈をした。
「おう、わざわざおおきにな」

玄関まで見送った。どうなることかと思ったけど、とりあえずは丸く収まったか。あいつは災難やったろうけど、たぶん家に帰ったら、婚約者に爆笑しながら話すんやろうな。
さて……と。
チラッとなかを覗いたら、伊織さんは背中を向けて、窓の外を眺めとった。その背中に哀愁がただよっとって、めっちゃ笑いそうんなる。
想い、全部ぶちまけたもんな……もう、そうならそうと、はよ言うてや。

「伊織さん」
「ひゃっ」

その背中を、うしろから抱きすくめた。伊織さんの体が、一気にこわばる。かわいい声が、俺の耳をくすぐった。

「泣きやんだ?」
「……」ホンマ、素直やないな。
「伊織さんって」
「……なん、ですか」

まだ、涙声やった。右手に注意しながら、俺は抱きしめとる腕に、力を込めた。

「俺も、好き」
「……」
「伊織さんのこと、めっちゃ好き」
「……」
「ちょお、まただんまり決め込む気なんか?」
「……だって」
「なに? 恥ずかしい?」
「う」

恥ずかしいやろなあ、あそこまで盛大にやらかしたら。
せやけど、そんな伊織さんが、俺は好きやで。めっちゃかわいいって思うねん。
十分、伊織さんの気持ちわかったで。俺の気持ちも、受け止めてくれるやろ?

「なあ、伊織さん」
「はい……」
「もっかい、聞きたいんやけど。俺、誰の彼氏なんやっけ?」
「も……やめて、忍足さん」死にたい……と、ぼやいとる。
「あれえ? さっき侑士って言うてくれたやん。それ、もっかい、聞かせて? 俺、誰のことめっちゃ愛しとるんやっけ?」

しばらく腕のなかに顔を埋めるようにして恥ずかしがっとった伊織さんやったけど、肩に回した俺の腕に、そっと左手で触れてきた。ああ、めっちゃ気持ちいい。
ずっと、こうしたかった……俺の、かわいいかわいい、伊織さん。

「……当たってたら、当たりって言ってくれます?」
「くくっ。なんやそれ」急におもろいこと言うやっちゃなあ。「ん、ええよ。言うてみて?」
「……わたしの、彼氏」そうや、伊織さんの彼氏やで。
「ふんふん、それと?」
「……わたしのこと、愛して……くれてる、はず」そうやで。めっちゃ愛しとる。
「ん……伊織さんすごいな? 大当たりや」

耳にキスしてささやいたら、伊織さんがピクン、と反応した。顔がニヤけまくってどうしようもない。窓ガラスにこの顔が映ったら最悪や。
それでも、ちゃんと言おう、と思った。もっと早うにちゃんと言うといたらよかったんやけど……余計なこといろいろ考えて、遠回りしてもうたからな。

「愛しとるよ、伊織さん。めっちゃ、愛しとる。5年前やなんて、比べ物にならへん」
「……忍足さん」
「ちゃうって。侑士って言うてえや、せっかくやから。嬉しかったんやで?」

体を揺らしながら、おねだりしてみる。
さっきから、全然、こっちを見てくれへん。キスしたいのに、俺が覗き込んでも目をそらしよる。
そんなんやったら、せめて名前で呼ばれたかった。そしたら伊織さん、そっと目を閉じて、つぶやくように言うた。

「侑士、さん」はあ、たまらん。
「ん。なに? 伊織さん」

最高すぎるやろ。ああ、もう胸の高鳴りがどうにかなりそうや。
伊織さん、キスさせて……。

「……釈然としないことが、もうひとつだけあるんです」
「は?」

って、ちょお待て。
いまめっちゃめちゃええ雰囲気やったよね? これからもっとふたりで愛を語り合って、キスして、イチャイチャするんちゃうの? それやなのになんや、「釈然としない」って。
この女ホンマ……しばきまわすぞ! とは思たけど、なんとか不自然じゃない程度の深呼吸をして、俺はオブラート5千枚くらいに包んで、言うてみた。せっかくの雰囲気、ぶち壊したくなかったでな。

「いやいや、誤解、とけたやん?」
「元カノさんのことはわかりました。でも、もうひとつ」
「なんや……」どんだけ信用ないねん、俺。
「合コンです。合コン、お持ち帰り」ぶすっと、頬をふくらませとる。
「は、はあ?」

そういえば、さっきした喧嘩のなかでそんなことを言われたような気もする。
仁王のために行った合コンやって話も信じてもらってないし、たかだか1回の合コンに参加したくらいで、こんなに長引く話になるとは思ってもなかったわ。

「なあ……それホンマに、なんの話なん?」
「だって、だってきてたんですもんっ、メッセージ!」
「は?」
「見ようと思ったわけじゃないですっ。でも見えちゃったんですっ」

俺は、スマホを取りだして、メッセージアプリを起動した。
伊織さん、俺のスマホ見たんかな。見たとして、なんもやましいこと、ホンマにないんやけど……そう思ったら、俺は自然と、伊織さんにも見えるように両手でスマホを持って、正面に位置させた。
これやったらうしろから抱きしめたまま、伊織さんと一緒にスマホ確認できるやんな。一石二鳥や。

「教えて? どれのこと?」
「み、見ちゃっていいんですか……?」
「なんやあ、いまさら。どうせ見たんやろ?」
「違っ……わ、わたしが見たのは通知で、勝手にスマホを見たわけじゃないですっ!」ああ、なるほど。別にどっちでもええけど。
「それでも内容わかるやろ? どれ? なんとなし教えてえや」

俺のスマホやなんて、いつだって見てくれてかまわんで。
それで伊織さんの不安が消えて、俺を信じてくれるんやったら。

「あ、こ、これかな……」
「はいはい、これやね」

そのメッセージにはバッジがついたままんなっとった。なるほど、たしかに通知だけ見てもうたんやな、とわかる。俺もどおりで、検討がつかんはずや。
トン、とタップすると、細切れにされたメッセージが視界に入ってきた。

『忍足さん、このあいだはありがとうございました! 楽しかったです! それと、』
『朝まで一緒にいれて、すごく嬉しかったです』
『あたし、忍足さんみたいな人、はじめて……とても素敵だなって』
『モテるだろうから、あたしなんて相手なんてしてもらえないと思ってたのに、あの日、あまりうまく話せなかったあたしに』
『優しくしてくれて、嬉しかった……。たくさん話題を振ってくれて、とても話しやすかったです。またお話できたらって、思ってます。ふたりきりで』
『また、会ってもらえますか? ふたりきりで。忘れられない夜にしたいです。あたしと忍足さんの思い出の1ページになれば、なんて。お返事、お待ちしてます!』

……通知センターって、どこまで読めるんやっけ?
たしかにこれ、序盤だけ見たら変な勘違いもしそうっちゃ、しそうや。ちゅうか、縦読みでもないのに変なとこで文章を区切って送ってきとんのは、なんでなん? しかも区切る箇所に統一性がまったくない。それから改行の位置もおかしい。あと「ふたりきり」が重複しとんで。打ち込む時点でおかしいと思わんのか。ほんで、このセンスのない文章なに? こいつ絶対、作家にはなれへんな。
と、編集者魂でしれーっとその画面を見とると、伊織さんが「うっわあ」と不機嫌そうに言う。

「やっぱり、怪しいじゃないですか……」そういう解釈んなるか。まあ、なるか。
「そんで、俺がお持ち帰りしたと思ったん?」
「だって……怪しいですもん。わたしが見たときは絶妙なところで、文章が切れてましたし」

なるほどな。まあ、俺との最初があんなやったで、信用されてないから、こんな勘違いされるんやろな。それはそれで、俺にも責任がある。そういうことにしとこ。

「さよか。まあでも、そんなことしてへんから」
「ふうん」まだ疑っとるんか。「でも侑士さん、やっぱりモテるんですね」
「いや、そうでもないけど」まあ、モテる……かも?
「お返事、しないんですか? 待ってますって、書いてますよ」ツンツン伊織さんが出てきて、俺に視線を向けた。また妬いとる。かわいいなあ。
「せんよ。会うつもりないし」
「そ……ホントに?」

嬉しそうに半笑いんなっとる。へえ? 返事せんの、嬉しいんや。単純なのも、かわいいなあ。
いつも、こういうのは完全に無視を決め込んできた。友だち以外やったら、興味がある女にしか、俺はメッセージを送らへん。
せやけど、俺はひらめいた。せっかくやから、返信しといたろって。

「やっぱり、返信しとこかな。いまから」
「え、するの?」
「うん。伊織さん文言チェックしてくれる? 変なとこあったら教えて?」
「は、はあ」

困惑気味に、伊織さんはちょっとだけしゅんとした。ああ、かわいい。俺がほかの女と連絡取るの嫌なんやって思ったら、めっちゃいじわるしたなってくる。
けど……いまからその顔、もっとかわいくしたるから。見とって。

「よっしゃ、まずは挨拶な」

俺は文字入力バーをタップした。キーボードが画面下からにょきっと伸びてくる。
最近やっとできるようんなったフリック入力で、俺は声に出しながら、淡々と打ち込んでいった。

『先日はありがとうございました。急に幹事代理になって朝まで飲むことんなったけど、三十路にオールは堪えますね。そっちの皆さんにもよろしくお伝えください』
「あ……」

伊織さんの声が漏れる。俺の意図に気づいたんやろう。
朝まで飲んだ弁解を、まずはここでしといた。ふたりきりちゃうでって、伊織さんにわかってもらえたら十分や。せやけど仁王……この借りはいつか返してもらうで。

「ん、一旦、送信」
「うわ……すぐ既読に」
「そうみたいやな。返事、待っとったんかもな。ほな、早う打たなあかんな」

あっちが打ち返してくる前に、釘をさしとく必要がある。

『ところで俺、めっちゃ好きな人がいます』
「えっ」
「送信」
「ちょ、侑士さん」
「ええから、見とって」

わわわ、と慌てた伊織さんの体の熱が、こっちまで伝わってきた。
ちゃんと、見とってな。これから打つの全部、俺の本音やから。

『ホンマに、俺にとっては大切な人です』
「そ……侑士さん、もう、いいからっ」
「送信」
「ああ……」
『かわいい人なんですけど、すぐ誤解してまう人です』
「なあっ!?」
「送信。ホンマのことやもんな?」
「うう……」
『俺、彼女を悲しませたくありません。せやから、こういった連絡は正直、困ります』
「あ……」
「送信。次で最後にしとこか」

どんどん、既読がついていく。
伊織さんは真っ赤になりながらも、俺の気持ちを受け止めてくれとった。
よっしゃ、これで終わりや。

『気持ちは嬉しいけど、応えることはできません。ごめんなさい』
「……侑士さん」
「送信。……けど、伊織さんには、もうひとこと」
「え?」
「好きや」

頬に手をあてて、顔を向かせてキスをした。腕に触れる左手が、きゅっと俺のシャツをつかむ。やっと触れることができた唇に、俺の鼓動が早くなっていく。一昨日にはキスしたはずやったけど、想いが通じあってから改めてするキスは、これまでのどのキスとも、やっぱり違う。
お互いが、自然と身を動かして、抱きしめ合うように向き直った。
伊織さんが背伸びをして、ゆっくりと首に手を回していく。俺は、その腰を強く抱いた。
最初は、短いキスを何度もくり返したんやけど、そのうちお互いが完全にうっとりしてしもうて、俺はつい、舌を出した。

「ン……」

伊織さんの漏れでる声に、たまらんようになる。せやけど、あのときとは状況が違うせいか、伊織さんも、今日こそは積極的やった。
あかん、と思う。これはもう、止まらんようになってまうパターンや。

「あかん、待って、伊織さん」
「え……?」

伊織さんの頬を包んで、そっと俺は身を引いた。もう7割くらいきとる。
あかん、もうあかん、これ以上はホンマにまずい。
伊織さんは、急に唇を離した俺に、きょとんとしとった。そら、そうか。ええ大人やもんな、俺ら。せやけど、あかん。

「……我慢できんようなるから、ここまで、な?」
「へ……我慢?」めっちゃ困惑した顔で、俺を見あげとる。
「そ……せやから、これ以上したら、俺……」

ちょっと恥ずかしいで、言わせんでほしい。そらここ、徹夜用のベッドルームもあるで、全然、いけるけどやな。そういう問題とちゃうんや。
これは俺の、誠意っちゅうか、伊織さんを大切に思っとる気持ちっちゅうか、そういうアレやから。

「あの……侑士さん」
「ん?」
「その……大人だから……そういうことも、あるんじゃないかな」

伊織さんが照れくさそうに、目をそらしながら言うた。
ああっ、そういうのも、あかんって! 自分の体のこと、わかってないんか?

「そうやなくて、負担かけたくないねん。せやから俺、治るまで、我慢するから」
「えっ?」

ぎょっとしたように、伊織さんは目を見開いた。
そんなに驚かれることちゃうやろ。伊織さんは、開放骨折っちゅう、どえらい状態なんや。こないだやってシャンプーしとったら、痛みで急に泣きだしたしやな。リハビリやって中指を動かすだけで痛そうやのに、あげく無理して絵本まで描いて。
とにかくはよ完治させなあかんのに、セックスなんかしてみい。あんな体を激しく絡ませることして、伊織さんの右手が変なことになったらもう俺、絶対に自分を恨む!

「せやから、な?」

俺は、そのことをもっと綺麗な言葉を使って、ゆっくり説明した。あんまり生々しくここで説明しても、そうなったときにムードないで、我慢したぶん、きっと燃えるやろうし……って、ああ、想像しただけでキテまう。あかんあかん、我慢や、我慢。

「あの、でも、侑士さん」
「ん? なに?」

すっかり「侑士」呼びが板についてきた伊織さんに、俺はにっこり微笑んだ。
いま、キとることをバレたないで、めちゃめちゃポーカーフェイスを発動した。

「完治って、3ヶ月後とかですよ?」
「まあ、そうやな」なかなかの期間やんな、わかっとるで。
「えっとー……それまで、我慢するつもりなんですか?」
「やで、そうやって言うてるやん」痛くなったら、大変やろ? 俺はもう、伊織さんに痛い思いさすんは、嫌なんや。
「そう、なんだ……ふうん」

と、伊織さんが、説明のあいだにさがっていった手を、また、俺の首に回しはじめた。
ま、待って……なんやその、意味深な目は……。

「我慢、するんだ?」
「な、なんや……するって言うとるやろ」
「ホントに、できるんですか?」上目遣い、やめて。かわいいぶん、ずるいで。
「そっ……男に二言はないっ」
「そっか、ふうん……わかった」

ふ、と伊織さんが微笑んだと思ったら、その瞬間、ぐいっと首を引き寄せられた。
ちょお待って! と、言う暇もなかった。伊織さんが、チュ、チュ、と俺の唇をもてあそびはじめた。
さっきよりも、抱きしめてくる力も強いで、それだけでも、右手大丈夫やろかって、心配になる。

「ちょ、伊織さんっ」
「ん、好き、侑士さん」
「ちょ、待っ」

わざとらしく音をだしながら、伊織さんが、舌を絡めてくる。そんなん、抵抗なんかできへんっ。けど、体をやんわり離そうとするのに、伊織さんが、何度も吸いついてきて……。

「な、伊織さん、待って……ン」
「ン……侑くん、かわいい」

侑くんっ……!? うわああああ、やめてやめてやめて! めっちゃ興奮するっ!
後ずさりする行き場もなくした俺は、そのまま近くにある椅子に足から崩れ落ちるように着席する形になった。と思ったら、今度はそのまま伊織さんが抱っこ状態で俺にまたがって、俺の頬を包んで、上からキスを何度も降らせきた。
あかんって! めっちゃセクシーやん! ちょお、なにしてんのホンマに……!

「ちょ……ン、伊織さん、なあ、はっ……あ」
「愛してる、侑士」

ああ、もう、やめろって! 呼び捨てもめっちゃ興奮するし! うああ、めっちゃ気持ちい……ちゅうか、めっちゃエロいっ! なんなんっ!? いじわるしてんの!?
なにこのキス、信じられへん、頭がおかしなるっ。あかん、もう、勃ってまうから!

「ちょ、伊織さんって!」
「ん……」

なんとか、俺は伊織さんの唇と自分の唇のあいだに親指を挟ませて、その先を阻止した。ものっそい真っ赤んなってんのが、自分でもわかる。

「はあ……も、あかんって……」

困惑して見あげたら、伊織さんは、にんまりと笑いながら、俺の親指を軽く噛んだ。

「ふふっ。いま、侑士さんがはじめて年下に見えた」

額をくっつけたまま、嬉しそうに、笑いよった。この女、ホンマ……!

「も……怒るで!」
「そんな、とけそうな顔で言われても、怖くなーい」
「な……もう、勘弁してや……」
「ふふ。嬉しい。わたしのこと、大切にしてくれて」
「そんなん……あたりまえやろ。いじわるせんとって……」
「うん、ごめんね。ありがとう、侑士さん」

めっちゃ悔しかったけど……その笑顔が、めっちゃ綺麗で。
俺はそのまま伊織さんの胸もとに、うつむくように顔を隠した。





2週間が過ぎたころやった。
あれからなんの言い合いをすることもなく、俺らはめっちゃ順調や。

「伊織さん、シャンプーしよか」
「はーい」
「ん、ええこ。今日もよろしくな」

挨拶みたいに、シャンプーの前はキスをする。チュッと音を立てると、伊織さんがめっちゃ嬉しそうに笑うで、それがかわいいて、しゃあない。

「ん、よろしくお願いします、侑士さん」

まあ要するに、毎日めっちゃイチャイチャさせてもろてます。ああ……幸せすぎる。
そのイチャイチャがもっと変化したのは、この日、1本の電話が鳴ったことからはじまった。
それはシャンプーが終わって、ドライヤーで伊織さんの髪を乾かしとるときやった。

「侑士さん、電話ですよ」
「ん? 誰?」
「山田編集長って、出てます」

その名前に、ほのぼのとした時間が打ち切られる予感がした。
山田編集長といえば、翠松書房や。
ドクン、と胸が強く跳ねて、俺は伊織さんの手から急いでスマホを受け取った。

「やあ、忍足さん。ご無沙汰しております」
「こちらこそ、ご無沙汰しております」

伊織さんが、じっと俺を見る。俺の様子がいつもと違ったからやろう。少し、不安そうな顔やった。せやけど、俺にはもうわかった。山田編集長の声色が、めっちゃ優しかったからや。
俺は、鏡の前に座る伊織さんを、うしろから片手で抱き寄せた。
伊織さんにも、この声が聞こえるようにや。

「ひゃっ」

鏡越しに見つめながら、声を漏らした伊織さんに、シーッと指先で合図する。
伊織さんもはっとしたように、口もとに手のひらを当てた。

「いい絵本でしたよ、佐久間先生の『ざわざわきらきら』。タイトルもいいですね」
「ありがとうございます」
「はい、ということで、デビューまでのスケジュールを決めさせてください」

なんてことないように、さらりと言った山田編集長の声を聞いて、伊織さんの目が、鏡越しに、ぱあっと見開いた。
俺はそのまま片手で、伊織さんの体を抱きしめたまま、強うに揺さぶった。
めっちゃ嬉しくて叫びたいけど、それもできへん。せやけど、この喜びをふたりでわかち合いたかった。
音を立てんようにそっと唇に触れて、俺はピン、と背筋を伸ばした。

「わかりました。打ち合わせに行ったほうがええですよね? 作家も連れて」
「そうですね。日程などは、また担当者からメールでご連絡させますので」

平静を装って応える俺の腕のなかで、伊織さんはほとんど聞こえん吐息とともに、「やった、やった、やった、やった、やった、うそみたいっ!」と、口にした。
電話が終わったあと、伊織さんがぐるんっとすごい勢いで振り返って、立ち上がった。
俺は、自然と両手を広げた。喜びでくしゃくしゃになった笑顔のまま、伊織さんが胸に突進してくる。俺はそれをしっかりと受け止めて、伊織さんの頬に何度もキスをした。

「侑士さん!」
「やったな、伊織さん!」
「右手、無駄死にじゃなかったですよお!」
「ちょ……それぶり返さんでもええやろお?」

笑い合って、また、キスをした。幸せが最高潮すぎて、どうにかなってしまいそうや。
伊織さんのデビューが決まったとなれば、俺もめっちゃひと安心。やっぱり俺の信じた才能は、裏切らんって証明にもなったし!

「なあ、伊織さん」
「うん?」
「今日、俺の家に来ん?」

最高の気分を、俺らふたりだけで祝いたい。俺としては、それだけのつもりやったんやけど……俺がそう言った瞬間、伊織さんの笑顔が、そのまま固まった。

「え……」
「え?」

変な沈黙が流れて、俺も、はっとした。
そらそうや。家に誘うって、普通はそういうことやった。キスと抱き合うスキンシップで、めっちゃ満足して2週間すぎたで、すっかり忘れとったけど……そういや俺ら、男と女の「深い」関係には、まだ、到達しとらんかった。

「ああっ! ちゃう! 変なことはせん! せやけどほら、お祝い。せっかくやん。外に出かけるんも疲れるし、のんびりしようや。俺、夕飯つくるからっ」

必死こいてそう言うたら、伊織さんは目をぱちぱちさせたあと、自分を納得させるように何度か頷いた。

「そ、そうですよね!」ついでに、バチン、と両手を合わせた。「あっ、いったあ!」
「ちょ、なにしてんねんっ!」

自分が骨折しとったことを忘れたんか、両手を合わせた瞬間に左手の中指に強く当たったんやろう、めっちゃ悲痛な声をあげて、うずくまる。
お前は、おっちょこちょいか。見てて飽きひんけどもやな! 気いつけてや、もう。

「つう……うう、うっかりしちゃいました」
「うっかりがすぎるってホンマに……大丈夫か?」
「大丈夫……です」

涙目になりながら、そっと中指をなでとる。
俺もやけど……伊織さんも、動揺したんやろなこれは。せやけど……ふたりきりで祝いたかったし。

「えーと……伊織さん、なに食べたい?」
「あ……えっと、どうしよっかなあ。侑士さんは?」

伊織さん……と、言いたいとこやったけど、俺はその言葉をもちろんのみ込んだ。
男に、二言はないねんっ。いくら最近、治療院通いで調子がよさそうやからって……。

「なんか、あっさりしたもんがええかな。伊織さん、あっさり系でもええ?」
「はい、じゃあそれで!」

こってりしたもんなんか食べて精力ついたら、たまらんでな。





幸いなことに、俺って結構、綺麗好きやったりする。
毎日、朝と夜には掃除機をかけるから、いつ伊織さんが来てもええ状態になっとる自分の部屋に、自分で感謝した。

「どうぞ。あ、スリッパ、これ使うてな?」
「ありがとうございます。うわー、広い。モダンー。侑士さんやっぱりセンスいい」
「まあ、伊織さんの部屋よりは、広いよなあ。シンプルでええやろ? 伊織さん家みたいに、ごちゃついてのうて」
「わあ、嫌味ですねっ、相変わらず!」

この自宅に女の人をあげるのは、はじめてやった。俺も何気なしに、よう誘ったなと思う。
デビューの件が嬉しすぎて舞い上がったのはたしかやけど、伊織さんをはじめて部屋に呼んだのになんもできへんとか、自分で自分を呪いたいくらいや。
だいたい、俺が自宅にはじめて女を誘うときやなんて、そういうことするためしかない。はじめて誘っとるのに、ただの食事だけとか、ありえへん。

「侑士さん、なにかお手伝いしますよ?」
「ああ、ええねん。座って待っとって。お客さんやし、今日は伊織さんのお祝いやろ?」
「でも、侑士さんのお祝いでもあるし」
「ええって。な? ええこして座っとって? んっ」

極力、避けたかったんやけど……言うことをきかすために、俺は唇にチュ、と音を立てて軽く触れた。
伊織さんはこれをすると、大抵、なんでも言うことをきく。そういうとこ、めっちゃかわいいんやけど、今日、これをこんな場所で連発したら、もう、あかんようになるに決まっとるしな……自重せな。

「侑士さん、テレビ、つけてもいいですか?」
「もちろんええよ。自由にして、くつろいどって」

テレビを見ながら待つ伊織さんを眺めつつ、俺は頭のなかで経を唱えようとした。
煩悩を消したい一心やった。それと同時に、不二から前に教えてもらった、豚パイナップルのレシピを思いだす。これがめっちゃ単純やけどめっちゃうまいレシピで、さすがは不二やなと思ったんや。簡単すぎてずっと覚えとる。塩コショウした豚をバターで焼いて、そのフライパンのまま水気をよう切ったパイナップルの輪切りを多めに焼く。以上。
豚の上に焼いたパイナップルをのせたらできあがり。あとはミニトマトのカプレーゼと、醤油がきいたジャポネーゼっちゅうパスタにした。どれもあっさり、どれも簡単。豚パイナップルさえ切ってやれば、どれも左手だけで食べやすい。完璧や。

「伊織さん、できたで」
「あっ……運びますね!」
「ん、おおきに。気をつけてな? うっかり右手使ったらあかんで?」
「はーい」

そうや、せやから俺も右手を使わすようなこと、絶対にしたあかんぞ。なんせセックスは全身使うからな……って、結局は頭んなかでそんなことばっかり考えとる自分が嫌んなる。

「どんな?」
「どれも美味しいです! すごいね侑士さん!」
「いや、どれもめっちゃ簡単やから。手が治ったら、伊織さんの料理も食べさせて?」
「はい! あ、でもわたし、あまり料理しないけど……侑士さんのためなら、頑張ります」
「無理はせんでええで? せやけど彼女の料理、ひとつくらいは食べたいなあ。得意なんある?」
「クリームチーズ塩こんぶですかね」
「……それ、クリームチーズに塩こんぶかけただけのヤツやよね?」
「……精進します」
「そうして……」

夕食をとりながら、俺らはいつものように笑い合って、ほのぼのとした会話をした。
こんなに下心がない(いや、あるけど)、彼女との部屋デートは、はじめてや。伊織さんと会話をしつつも、俺はしつこくも頭のなかで経を唱えた。無宗教やけど、とりあえず聞いたことのある経を唱える。
あと2ヶ月半はあるっちゅうのに、こんな調子で大丈夫なんやろか、俺……。
それでもなんとか夕食を終えて、俺らはふたりでソファに座って、くっついてテレビを見た。伊織さんの髪からただよう優しいシャンプーの香りが、ときどき俺を狂わそうとしたものの、そのたびに経を唱えたら、なんとか収まる……そのくり返しやった。

「伊織さん、そろそろ送ろか」
「あ……もうこんな時間なんだ」

楽しい時間はあっちゅう間で、時計はすでに23時を過ぎとった。伊織さんはいまだに仕事を休憩中やし、俺もフリーやから時間の制限はないものの、これ以上はまずいよな、と、ジェントルに努めようと踏ん張った、そのときやった。

「侑士さん……」
「ん?」

立ち上がった俺の袖口を、きゅうっと、伊織さんの左手が握りしめる。
キスしてほしいんかなと思って、少しかがんで顔を覗き込むと、顔を伏せとった伊織さんが、ばっと俺の顔を見あげた。
その、熱っぽい目が……俺の脈を、急激にあげた。ちょお待って、なに、その顔……。

「帰りたく、ない」
「え」
「その、添い寝でいいから……今日は、特別な日だし。ずっと侑士さんと、一緒にいたいなあって……ダメですか?」

俺はその瞬間、完全に言葉を失った。
視界のなかに、とんでもない女の色気が怒涛のように押し寄せる。それはもちろん、相手が伊織さんやからやけど……俺は、そのまま腰が抜けそうになったで、ソファにもう一回、座り込んだ。

「伊織さん……そ、せやけど」
「わがままですかね、やっぱり……」

さっきまで、言いにくそうに目をそらしとったくせに、伊織さんは俺がとなりに腰をおろすと、じっと目を見つめてきた。あかんって……その顔、めっちゃ狙ってるやん!

「いや……わがままやなんて、思わんけど」
「あ、ごめんなさい。困らせちゃってますね。やっぱり、おとなしく帰ったほうがいっか! はは……」

すっくと、伊織さんが席を立つ。めっちゃ、胸が苦しくなってきた。伊織さん、切なそうやし。
しかも俺、キスもしてないのに、もうめっちゃ破裂しそうになっとって。
そんなん言われて、断る男なんか、この世におる……?

「ちょ、待って!」

俺は咄嗟に、伊織さんの左手首をつかんどった。
あかん……自分で言いだしたことやのに、もう、全然、制御できんようになっとる。

「ゆ、侑士さん……?」
「ああ、もう……」

しかも情けないくらい、勃起しとる……。

「伊織さんちょお、座って」
「は、はい」
「……手、調子、どうなん?」
「手は……順調ですけど」
「ホンマ? ちょっと、触れてもええ?」

伊織さんが、そっと右手を差しだしてきた。ゆっくり、優しく、手に触れる。
ほんの少しだけ自分の指の関節を折って、握るようにしてみた。

「平気か?」
「はい。平気です」

平気、なんや……。
俺は、両手で顔を覆った。男に二言はない……はずやったのに。
あかん、なにかあったらどうするんや。せやけど、こんな寂しい顔されたら。めっちゃ愛しとるのに。ああでも、うっかり俺の膝が伊織さんの右手に当たったりして、また痛めたら……ああせやけど、も……めっちゃ、抱きたい。

「侑士、さん?」

伊織さんの声に、俺は顔をあげた。どんな顔しとるか、検討もつかん。
とにかく伊織さんが欲しくて、欲しくて、たまらんかった。

「言いだしたん……俺やけど、さ」
「……侑士さん」
「伊織さんが、ええなら……その、寝とるだけで」
「抱いて」

俺の言いぶんをさえぎって告げられたその言葉に、完全に、脳天をうち抜かれた。
そんなこと言われたら、もう、止まらへん。

「伊織さんっ……」

俺は伊織さんの体を引き寄せて、目の前の唇に、容赦なく吸いつくようなキスをした。
なでるように、激しく舌を絡めると、伊織さんの甘い吐息が漏れていく。

「ン……侑士さ、待って、シャワー……ふ、あ」
「ええ、こんままで」
「や、やだ、だって、夏だしっ、汗」
「逆や。そっちのほうがええ。伊織さんの匂い、するやろ?」

問答無用で、伊織さんを抱きかかえた。
「恥ずかしい、お風呂入りたいっ」と、くり返す伊織さんの口をふさぐように、俺はベッドに伊織さんを寝かして、キスを送りつづけた。

「侑士さ、ン、あっ……」
「じっとしとって。全部、俺にまかせてほしい。な? 約束して」
「う、うん」

俺は近くにあったクッションを取って、伊織さんの右腕の下に滑り込ませた。こうしとったら、少しは楽なはずや。ええか忍足侑士……絶対に無茶はさすなよ。めっちゃかわいすぎて、壊してしまいそうやけど……優しくするんや。
そう心のなかで何度も誓いを立てながら、伊織さんの服を、丁寧に脱がしていった。

「そ、ホントに、もうするの? シャワー……」
「あとで一緒に入ろうや。そしたら体も洗ったる」
「そ、余計に恥ずかしいっ」
「ええから。もう俺、我慢できんねん、お願い」

あらわになったふっくらとした乳房がめっちゃ白くて、吸いつけられそうになる。俺も下着一枚になって、キスをしながら、ゆっくりとそれに触れた。

「あっ……ん」
「ん……かわい。ここ、チュウしてもええ?」
「う、うん……」

人差し指で胸の突起を揺らすと、はあっと息を吸い込むように、伊織さんの声が漏れる。
それとは反対側の突起に、俺はちゅうっと吸いついた。

「ンッ……ああ、侑士」
「ああ、その呼び方、めっちゃ興奮する……伊織、好きやで」

ゆっくり、愛でるように舌を這わせた。円を描くように転がすと、硬くなった先端がピクン、と反動で何度もはじける。口から出るチュク、という音と伊織さんの声が耳を刺激して、俺の腰が、勝手に動きはじめた。

「ああっ、侑士さん……っ」
「ん、気持ちええ? 綺麗な肌やね、伊織さん」
「ンッ……そんなこと」
「こっちも、かわいい」反対側の胸も、同じように、ちゅうっと吸い上げた。
「やっ、ああっ」
「ええ匂いやし……シャワー、まったく必要ないやん」
「嘘っ……あっ、んっ、汗……」
「全然、そんなことないで。かわいい体……めっちゃ感じさせたなる」

胸の突起をそっと甘噛みすると、伊織さんの腰がふっと浮き上がる。コリ、とした感触が舌に沿うようにうごめいて、今度は強めに、ちゅるっと吸いあげた。

「ああっ……! だ、だめ、そんなっ」
「ん……めっちゃ硬なってきた。エッチでかわいいな、伊織さん」
「そ……ゆ、侑士さんが、エッチなんでしょっ」
「うん? そら俺はもちろん、エッチやで? せやけど伊織さん……気づいとる?」
「えっ……あ、あんっ、な、なに? あっ」
「俺、こんなに煽られたん、はじめてや。伊織さんが、俺をこんなにさせたんやで」

嘘やない。伊織さんの「抱いて」ってひとことに、俺の心臓は、めっちゃうなった。
いままで何回も言われたことあるセリフやのに、伊織さんだけは、違った。俺を欲しがる女はおったけど、あんなに爆発しそうになるくらい煽られたことなんかない。
きっとそれは、伊織さんやから。好きで、好きで、どうしようもない。俺を狂わせる、唯一の女やから。

「はっ、ああっ……侑士さん……ンッ」

胸から首筋に舌を滑らせて、もう一度、激しく唇を寄せる。何度も絡まる舌から流れる俺の唾液が伊織さんのなかに溶けていって、それを飲み込む伊織さんの健気さが、また俺をめっちゃ昂ぶらせていく。
そのまま、俺はゆっくり、下着のなかに指を滑り込ませた。クチュン、という音と一緒になって、指先に蜜がまとわりついた。

「はあ……ぬるぬる……やっぱりエッチやん。グリグリされるんが好き?」
「うっ、……あっ、……あんっ」
「それとも、こっちがええ?」コチュコチュ、っと、指を抜き差しながら折りまげる。
「ああっ……! ん、あっ。ど、どっちも気持ちい……いよ」
「ん、ホンマ……気持ちよさそ……伊織さん、左手、貸して」

伊織さんの左手をそっと取って、花弁の蕾に指先が当たるように置かせた。自慰行為みたいな格好になった伊織さんが、ぶんぶんと首を振りだす。その羞恥に満ちた顔も、めっちゃかわいい。

「ゆ、侑士さんっ……恥ずかしいっ」
「ん? せやけど俺、伊織さんのここも、おっぱいも可愛がりたいねん。せやから伊織さん、手伝って?」
「で、でもっ……」
「ほな、侑くんって呼んでくれたら、恥ずかしいのやめたってもええよ?」

あれ、くせになりそうや。言いながら、ぷるんっと揺れた胸を、ちゅっと舐めて、自由になっとる手を、伊織さんの背中から抱くように回して、反対側の乳房の突起をクリクリとつまんだ。
ほら、言うて、伊織さん。

「う、あ……侑くん、あっ」ああ……めっちゃたまらん。ゾクゾクする。
「ん……ほな、恥ずかしさ忘れるくらい、気持ちようしたる」
「えっ! あっ!」

自分の蕾を押さえとる伊織さんの指先を、ナカに入っとる俺の手根部でぎゅっと押しつけながら、俺は、大きく円を描くようにして、揺らした。

「こうしたら、もっと気持ちええやろ?」

ナカでうごめく俺の指と、蕾を刺激する伊織さんの指とで、愛液の音が激しくなっていく。
ピンク色した胸の先端もキスと指の愛撫で攻めて、伊織さんの体が何度も反れていった。

「ンッ……あっ……全部しちゃダメ! ンンッ」
「音、めっちゃエロ、伊織っ……かわいい」
「や、あっ! だ、ダメッ……! ああっ」

ナカに入ったままの指が、ピクピクとした痙攣に触れていく。イッたみたいやった。まだ、下着つけたまんまやのに。感じやすいんか、それとも、俺やから?

「はあ、はあ……侑士さん……」
「ん、気持ちよかった?」
「うん……あ、はあ……」
「ん……伊織さんのここ、もっと、とろとろにしたい。せやから、もっと確かめさせて?」

言いながら、俺は下着をはぎとるようにして、そのなめらかな蜜を、ナカから指を抜き取りながらすくいとった。たっぷりな透明の糸がツツツ……と、くっきりと空中に浮かんで光る。その指先を、俺は舐めとった。

「えっ、や、お風呂、入ってないからっ」
「いまさらやろ。これからいっぱい、キスしたるから」

伊織さんの花弁に向かって、顔を埋めた。左手をしっかり握りしめながら、真っ赤になっとる花弁に舌を押し込むようにして舐めていく。ビクンッと、伊織さんの体が震えた。

「ひゃっ……ああっ! あ、あっ……また、イッ……」
「ん? もうそんなに感じたん? 何度もイクの、かわいいな」
「ああっ……あんっ、んっ、もっ」
「ええよ伊織……かわいい、イッて……? いっぱいチュウしたるから」

ピチャピチャと舐めていた花弁から唇を離して、俺はその全体を覆うように、ぱくっと唇を押し当てて、食べるように、ちゅうっと吸いあげた。

「ひゃあっ……! あ、ああ……あっ、あ……!」

伊織さんの腰が、ビクビク揺れる。また俺でイッてくれたんやと思うと、もっと伊織さんが欲しなった。もっともっとイカせたい。もう俺やないと、満足できん体にしたくなる。

「ん、かわい……こっちも、めっちゃ吸ってほしそう」すぐ上にある、伊織さんがさっき揺らした蕾も、優しく吸いあげる。
「ああっ、も……ダメっ」
「嘘ばっかり。腰、浮いとるで伊織さん。起き上がれる?」
「えっ……」

俺はそのまま、仰向けに寝そべった。上に乗っかるだけやったら、右手は安全なはずやから。このときの俺の理性は、一部分ではぶっ飛んどった。どうしても、これがしたい。

「きて、伊織さん」
「ちょ、待って、え」
「わかるやろ? ほら、侑くんの顔んとこ、またがって」
「やだっ……恥ずかしいよっ」
「俺のこと好きやったら、お願い」

強引に伊織さんの手を引いて、顔の上に来るように促した。伊織さんがためらいがちに、俺の顔の上にまたがる。

「う、恥ずかしいっ」
「ええやん。な、言うて? 侑くん好きって」
「あ、う……侑くん……好き」
「俺も、伊織、好き」

腰を落とす様子がなかったで、俺はいじらしくなって、伊織さんの腰に手を当てた。そのまま、ぐっと下におろす。そうしてもう一度、ナカに舌をしっかり這わせた。

「やあっ……ああっ……も、恥ずかしいっ」
「なんで? めっちゃかわいいで? よう見える」
「も、それが恥ずかしん……だ、て……あんっ、ああっ、侑くんっ!」
「あ、不意打ちも最高……気持ちええ伊織? な、指も挿れるな?」

ちゅぷん、と音がして、俺の指が伊織さんのナカに溶けていく。大きくなった蕾に何度もキスをしながら、指をゆっくり、静かに動かした。

「あ、ああっ……も、イッちゃ……」
「またイク? ええよ、イッて……この浅いとこ、好きなんやね、伊織さん」

入口近くの硬いところを丁寧にかき回すと、伊織さんの体がビクビク反応した。伊織さんの腰が、俺の舌と一緒になって自然に揺れる。めっちゃ気持ちよさそうな顔が下からしっかり見えて、俺の欲望もどんどん膨らんでいった。

「侑士さっ、ダメ、あっ……!」
「気持ちええんやろ? かわいい。その甘い声、もっと出して?」
「ああ、もうっ……い、イッ……ああっ!」

また、伊織さんの腰が揺れた。かわいい……俺で何回イクん? めっちゃ愛しい。

「イッた……? ああ、最高やな、伊織さん。綺麗……」
「はあ……ああ……侑士」
「ん……キスしよか。ずっとこっちばっかりキスしとったで、唇が寂しそうや」

俺もゆっくりと体を起こして、伊織さんを抱きしめた。へたへたっと力が抜けとる伊織さんの体をしっかりと支えながら、濃厚なキスをくり返す。

「伊織さん、目、開けて。俺のこと見ながら、キスして」
「んっ……こ、う?」
「ン……かわい。目、とろとろ」
「ンンッ……侑士さんっ、好き……」
「俺も……めっちゃ好き、伊織……もうちょい、触らせてな?」
「あっ……ダメっ、も、もういいようっ」
「ん、イッたばかりで、まだ、ナカがヒクヒクしとるな。ホンマ、かわええ。俺に寄りかかって?」

中腰になったまま、伊織さんが俺の首に手を回す。そのままベッドに寝かせて、2本の指を、ナカでじんわりと回していった。

「右手、大丈夫か?」
「うん、ンッ……平気っ……ンッ」
「ああ、ならよかった……もっかいイッとき?」
「そんなっ……わたしだけ、何度も、ダメだよっ……あ、あっ」
「なんで? ええやん。好きやで、何度もイク伊織も」

ホンマかわいい。キスして舌を絡めると、また体がビクっとうなる。

「あっ……侑士さ……そんな、丁寧にしないでっ」
「こんなに好きやから、当然やろ? それだけ、大切なんやで?」
「だって、も、よすぎて、怖くなる……」
「ん……伊織さん、キスすると締まるな……?」確かめるように舌を絡めると、伊織さんのナカがぎゅうっと俺の指をしめつけた。
「ンンッ……はあっ……も、変になっちゃうっ」
「変になってよ。俺、嬉しい。伊織さんのこと、そんなふうにできるん、俺だけやろ?」
「や、あ……また、い、イッちゃう、ねえっ……!」
「ええよ、イッて……?」

大きく、伊織さんの体が揺れる。ピクピクと痙攣しとったナカが、うねるように俺の指に合図をくれた。かわいい全身に、何度でもキスをする。俺は指をそのままにして、また、揺らしはじめた。こんなかわいい姿やったら、飽きるほどイカせたい。

「侑士さ、も……」
「ん? まだ気持ちええやろ? もっかい、ここにチュウしたろか?」
「ダメッ……ね、次は、侑士さん……こっち、来てよ」

とろんとした伊織さんの顔が俺を見あげて、なんやろうと思ったら、俺の下着に、伊織さんの手が触れた。

「え……」
「わたし、うまく肘つけないから、脱いで……そのままでいいから、ここに、来て。わたしのこと好きなら、お願い」
「そ……ええの?」
「ん……」

俺とまったく同じセリフを吐いた伊織さんに、また、まんまと煽られる。いきなりそんなことさせてええもんかと、ためらいもあったけど、いかんせん理性が飛んどる俺は、その誘惑には勝てへんかった。言われたとおりに下着を脱いで、伊織さんの顔の真横に、自分を持っていく。伊織さんの綺麗な顔の前で突きだしとるのが、申し訳ないようで、めちゃめちゃ興奮してくる。

「伊織さん……ホンマにええの?」
「侑くん、大好き……」
「んっ……!」
「おっき……ン」
「ン……伊織さん、無理、せんでな? あっ……」

伊織さんの舌が、俺の屹立をさまよって、咥えこんでいく。気持ちようなっていくのと同時に、俺は伊織さんの奥まで、指をもぐらせた。こっちもどんどん、蜜があふれでてくる。
ずぷん、と、伊織さんの口から漏れる音も、また一段とヤラしなって……あかん、死にそう。

「ン、ンン……侑士さん、痛くない?」
「めっちゃ、気持ちええよ……上手やな、伊織……あっ……はあ……」

伊織さんが俺を咥えて、俺は伊織さんのナカを揺らしながら、ふたりでめっちゃ気持ちようなって……伊織さんは、このときもイッた。そのかわいすぎる姿と、伊織さんの舌で促される快感に、俺もあっという間に限界まで膨れ上がって、イキそうになった……せやけど、それはなんとか我慢した。

「ああ、も、あかん、も……もう、挿れさせて」
「うんっ……侑士さん……ほしいっ」
「俺も、伊織さんほしい……すぐあげるから、ちょっと、待ってな?」

こんな濃厚なセックス、はじめてやないやろか。挿れる前からこんなにようなって、持つか心配になってくる。俺はゴムをすぐにつけて、伊織さんに覆いかぶさった。

「伊織さん……両手、つなぎたいけど、こっちだけで、我慢な」
「ん……嬉しいよ、侑士さん。すごく、嬉しい」

左手を強く握りしめて、キスをしながら、俺は伊織さんのナカに、自分をゆっくりと押し込んでいった。めっちゃ柔らかい伊織さんの熱が、ぎゅうぎゅうに俺を締めつける。
あっかん……ちょっとでも激しくしたら、すぐに出てまいそう。

「ゆっくり、揺らすな?」
「ん……あっ、侑士さっ……ああっ!」
「はあ、伊織……好きやで。気持ちいい?」
「うん、気持ちい……あっ……ああっ。侑士は……?」
「ん、はあ……気持ちよすぎて、俺もすぐイッてまいそう」
「い、いいのにっ……ああっ、あんっ、侑士、おっき……っ」
「ん……ごめんな? 苦しい? もっと奥のほう突いて、なじませたる」

俺の熱い、硬いもので、伊織さんのナカが無理やり広がっていく。そのたびにめっちゃ締めつけられて、どろどろに溶けそうんなっていく。じゅぷ、じゅぷ、と出ていく音で、伊織さんとひとつになっとると思うと、破裂しそうになる。お互いが舌を出して絡めあって、上も下も、どんどん蜜でとろけていった。

「んっ、伊織、ヤラしい音……ンッ」
「はあっ……んっ、ンンッ……!」
「ああ……めっちゃかわいい。その顔、めっちゃ好き」
「ど……どんな、顔? あっ……んっ」
「ん……? ほな、当たっとったら、侑くん当たりって言うてや?」
「ふふっ……んっ、あっ……うん」
「俺ので、奥まで突かれて、ン……めっちゃ気持ちええって……とろとろんなっとる顔」
「あ……んっ、あんっ……あ、侑くん……当たって、る」

くすくすと微笑みあいながら、何度もキスを交わした。長い時間つながっとるあいだのこういう会話が、また、俺ららしくって、めっちゃ幸せな気持ちんなる。

「わたしも、侑くんのその顔、あっ……好き、だよ」
「ん? どんな顔? はあっ……あっ」
「わたしのナカに……んっ……包まれて、たまんないって、とろとろの顔……」
「くくっ……ん、またまた大当たりやわ……はあっ……伊織……愛しとる……っ」
「わたしも……愛してるっ……侑士っ……あ、ああっ、また……きちゃう」
「ええよ、ほな、一緒にイこうや……激し、するで?」

腰の速度を早めて、俺はがむしゃらに、伊織さんを突き上げた。肌が弾け合う音が大きくなる。強く抱きしめて、激しく舌を絡めあった。

「んっ……ああっ……侑士……イッちゃうっ!」
「俺もっ……イク……伊織っ……!」

溺れるように抱き合って、俺らは、ようやく一緒に果てた。





「ほな、どんなピロートークしよか?」
「ふふっ……んー。どうしよっかな」
「何回イッた?」
「やだやだ、そういうの、恥ずかしい」
「俺が知っとるだけでも、6回はイッたな?」
「知りませんーっ」

激しく愛し合ったあとで、俺らは宣言どおり、一緒にシャワーを浴びた。伊織さんの右手にはビニール袋をかぶせて、輪ゴムでとめて。いつもそんなんしとるんかと思ったらかわいそうんなって、体を洗ってやろうとしたんやけど、それは全力で拒否されてもうた……あわよくばって思っとったのを、見透かされたんやろう、たぶん。本当なら、もう2、3回くらい抱きたかったんやけど、伊織さんがめっちゃ疲れとったから、遠慮した。まあたしかに、ちょっと、激しすぎた気もする。伊織さん、めっちゃイッとったし。俺もそれはめっちゃ満足やったから、これでええか、と納得した。

「ねえ、侑士さん」
「ん?」

裸で抱き合った。伊織さんの右手が、そっと俺の背中に回っとる。この体勢でも痛くないらしいで、俺はほっとした。

「はじめて会ったとき、こうなると思ってた?」
「くくっ……まっさか」
「あーひどいっ」

そうは言いつつも、戻ってくる答えはわかりきっとったんやろう。伊織さんもくすくす笑っとった。それがホンマ、めっちゃ愛しい。わざとそんな質問して、この時間を楽しませようとしてくれとる伊織さんの優しい心が、俺にはわかる。

「ん……せやけど、俺ら、初デートでキスしたやん?」
「うんうん。セクハラですね」
「もう、いつまで言うねんって」
「ふふふ。だってー、ひどいんだもん」
「ん……堪忍な。でもあのとき、キス、めっちゃよかったのは、ホンマやってさ」

――俺はあのキス、めっちゃ興奮したけどな。

俺が伊織さんの家に押しかけたとき、そう言うていじめたのを、伊織さんも覚えとった。
本音やったと白状すると、伊織さんが顎を引いた。やっぱり、嘘やと思っとったんやな。

「伊織さんから600万の承諾を得たら、このままホテルに連れ込もうって思っとった」
「え……あははっ。最っ低ー」
「くくっ……せやろ? でも、体のほうが、先に反応しとったんかなあって。俺、キスしたくらいで、そんなことしようと思ったん、はじめてやってん。これ、ホンマの話」
「ふふっ……ホントに? なんか、嬉しいような、複雑なような」
「やんなあ? でも、前に伊織さんをベッドに寝かせたときも、伊織さんの寝顔見て、勃起してさあ、俺」
「ええ? 嘘でしょ?」
「くくっ……それもホンマ。とっくに、体は反応しとったんやけど、そんなわけないって、自分に言い聞かせとったんや」

考えてみたら、最初のキスんときに、とっくに好きやったんかもしれん。
ま、いま好きやからそう思いたいだけかもしれへんけど……それでも抱きたいと思ったんは、ホンマのことや。

「そっか。あ、わたしは、最初から侑士さんのこと、好きでしたよ?」
「よう言うわ、前の男とデートしよったくせに」
「うう……だからそれは、もう、許してくださいよ……」
「許さん……俺の彼女んなったんや。一生言いつづけたる」
「いじわる……」
「けど……そのたびにチュウしてくれたら、許したってもええよ?」
「えー? だったら、一生、言いつづけて?」
「くくっ。あー、やっぱりかなわん……。伊織さん、キスして?」
「ん……好き、侑士さん」
「俺も……伊織さん、めっちゃ好き」

微笑み合ってするピロートークが、どこまでも俺らの幸せを包んでいく。
長いキスをくり返しながら、このままずっと溶け合っていきたい。
そんな人にめぐり逢えた運命に感謝する、最高の夜やった。





to be continued...

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