05_Go deep






「伊織、開けんしゃいって」

「…………」


「今すぐ開けたら、今夜うまい酒奢っちゃるぜよ?」

「…っ……」


「…5秒以内じゃ。5、4、3、2―――」

「…っ……っ…」















Manic Monday -Go deep-














「―――1…俺も考えが甘すぎるかのう…」

「………」


「そのまま何も答えんで、今日はずーっとそこでそうしちょくつもりか?クビにするぞ?」

「ごめんなさい…」


クビっちゅう言葉には反応するんか、このお嬢さんは。

なんとも仕事人間らしい…だが、そうは謝ってはみても出てきやせん。

一体何があってあんなに機嫌が悪かったのかもようわからんし、おまけに吉井に八つ当たりして自己嫌悪でストライキっちゅうのは…

ああ、俺はこの、手に負えん感じがたまらなく好きなんかもしれんのぅ。


「仁王さん…あの…」

「ああ、お前さんは仕事に戻って、それこそさっきの手直ししちょきんさい…」

「……はい」


吉井はすっかり自分のせいだと思い込んで落ち込んじょる。

まぁこの女のミスは今に始まったことじゃないが、いつもたいしたミスじゃないことと、可愛い顔をしちょるが故、あんなに上司に咎められることは今までなかったじゃろう。


「吉井」

「え、はい?」


「…あんまり気にするな。こいつは気が立っちょっただけじゃから」

「あ…ありがとうございます、仁王さん」


伊織には聞こえんように言った。

伊織の機嫌が悪かった理由は、ひとりだけ先に帰ってきたことからして、間違いなく忍足と何かあったんじゃろうと踏んじょる。

ふたりは元々恋人同士で、おまけに伊織は、淡い期待を抱いた当日に忍足と吉井の関係を知った。

忍足のちょっとしたことに癇癪を起こす可能性は、伊織なら十分在り得ることじゃ。


「伊織、とりあえず俺を中に入れんしゃい」

「嫌だ」


「……強情は可愛くないぞ」

「どうせ可愛くないもん」


しっかりと中から閉められた鍵は、こちらから開けることは出来ん。

ここの鍵は叶野部長が持っちょる。

まさか伊織が立てこもっちょるから鍵を貸してくれとは言えん。

伊織が本当にクビになる可能性がある…さてどうしたものかの。


「あ!忍足さんおかえりなさい!」

「ただいま…はぁ、疲れた」


そうこうしちょるうちに、忍足が帰って来た。

俺は逸早く反応した吉井に反応して、声のした方に目を向けた。

伊織にもしも吉井の声が聞こえちょったら、伊織も反応しちょることじゃろうな。

一方、帰った途端に忍足が伊織の席を見て、なにやら吉井に話しかけた。


「あれ?佐久間は?」

「あ…それが…わたしのせいで…」

「は?」


恐らく、そんな会話をしちょる。

そのせいか、忍足と吉井がチラチラとこっちを見てきた。

その表情を見ただけで、忍足が「は?」ちゅうたのは間違いないじゃろう。

こっからじゃ遠くてそんな想像しか出来んが、俺の想像は正しかったはずだ。

その証拠に、忍足はこっちに呆れた顔して歩いて来た。

こんなドアの前で忍足と会話をしたら伊織に聞こえちまう。

俺は向かってくる忍足を遠ざける為に、同じようにこちらから向かって行った。


「お疲れさん…伊織は?」


忍足も伊織に聞かれとうないんか、それとも吉井に聞かれとうないんか…まぁ多分後者じゃろう、小声で俺に聞いてきた。


「吉井から聞いたんじゃないんかの?」

「…ホンマ…呆れた女やな」


「…伊織と何があったんじゃ?」

「ちょお喧嘩しただけや。仕事んことで」


「ほぅ?仕事のこと…それで伊織があんなに自己嫌悪に陥るかのう」

「勝手に想像して嫉妬するんはお前の勝手や。で?出てくる様子ないんちゃうか?」


俺の挑発に、忍足は面倒臭そうにそう答えた。

やはり…聞き出そうとしてもこの男が口を割るわけないのう…。


「…これっぽっちもな」

「はぁ…」


深い溜息をついて、忍足は俺を通り過ぎて第二会議室の前まで行った。


「無駄じゃ、忍足」


忍足を追うようにしてそう声を掛てみたのはええが、肝心の忍足は俺を無視して、一瞬周りを気にしてからドアに向かって声を掛け出した。


「佐久間、開けぇ」


沈黙―――反応はない。


「俺とはもう話したないか?」

「……」

「ええからちょお、開けてよ…」


無駄だ。

俺がそう感じて、忍足にそのまま伝えようと思った時じゃった。

ガチャン、と鍵の外れる音がする。

俺は一瞬、耳を疑ったぜよ。


「……なに…」

「入るで」


忍足がすかさず第二会議室に入って、そのままドアは閉められた。

閉めたのは伊織の方じゃ。

おまけにまた、ガチャン、と鍵が掛けられる音と同時じゃった。

どうーも気にいらん。


…なんちゅうか…不愉快極まりないのう、嫉妬っちゅうのは。







◇ ◆ ◇







俺を入れた瞬間に、伊織はまた鍵を閉めよった。

広い会議室の奥にあるガラス窓までカツカツ歩いて、俺に振り返る。


「何!?」

「…またなんでお前はそんな、いきなり喧嘩腰やねん…」


さっきはこの態度に完全に煽られて、俺もホンマにキレとった。

せやけど煽られとる場合ちゃうわ。

伊織相手にキレてええことあった試しなんてないで…。

俺が冷静で居らな、伊織は自分の声にまで煽られるタイプやのに。

余計煽らして結果最悪なパターンに陥んねん。

…さっきみたいなやつやな。


「…怒ってるから!何度も言うようだけど、わたしは男女関係のことで侑士にだけは言われたくない!」

「ああ…それは悪かった思てる…確かに、俺が言える立場やないわ」


「な…なにそれ…いきなり…さっきと全然言ってること違う!」

「せやから認める言うてんねん。部下と付き合っとる俺が、偉そうにお前に言える立場やないって」


俺の言葉が冷静かつ淡々やったことに気が抜けたんか、伊織はすっかり勢いを無くして視線を俺から外した。

それから俯く…伊織は多分、今反省中や…ひとりでキレとる自分が恥ずかしなっとる。

そんで、この後くる言葉も俺にはわかる…多分これや…侑士、ごめん――。


「侑士…ごめん…」

「くくっ…」


「何笑ってんの!?」

「いや…ああ、堪忍…意地張ったり素直んなったり、忙しい奴やなぁ、思て」


笑いながら誤魔化した。

伊織はホンマ、こういうとこがホンマにホンマに可愛え。

相手の挑発にすぐに乗って意地張るくせに、こっちが謝ったらいきなり意気消沈しよる。

ある意味ホンマに、昔からなんも変わっとらん。

でも俺は、そんな伊織が好きやった…。


「…なんで侑士、そんな風に笑うの…?」

「え…?」


「そんな表情、わたしに向けるなんてずるいよ」

「……伊織…」


そんなこと、考えとったせいやろか…多分、微笑んどったんやろう。

俯いてそんなん言われて、俺はドキッとした。

一瞬で、あの頃に返ったみたいんなって。

…喧嘩した時、伊織はいっつも言うてた。

侑士はずるい…俺ん中ではもう、伊織の口癖みたいんなった言葉や。

ずるいんは…お前の方やろ…なんでそないなこと言うねん。

なんでそないな顔するんや…俺を拒絶したんは、お前やないか。


「その…わたし、多分スッキリしてないんだと思う。ちゃんとした別れをしなかったから。そんな相手と7年ぶりに再会して、きっと動揺しちゃってるんだと思う。だってほら、だって…その、わたし達、ちゃんと…っ…!」

「ちゃんとさよならも言うてない…やろ?」


早口の伊織を遮って俺がそう言うと、伊織ははっとして黙って、ワンテンポ置いてから、話を続けた。


「……そう…確かめることも出来なかった…」

「確かめる…って…?」


俺の目を見て必死に話しとった伊織は、また不意に俯いて、不規則に視線を右に左に動かし始めた。

俺はよう知っとる。伊織のこの仕草は、言いたいことを躊躇しとる時や。

せやけど黙ったまま、「やっぱりいい」なんて答えの出せる女とちゃう。

俺が黙って伊織を待っとれば、伊織は自ずと打ち明けてくる。


「付き合ってた時…何度も考えてた。もしも、もし侑士とさよならする時が来てしまったら、絶対に聞こうって。わたしをちゃんと愛してたのか、ちゃんと、聞こうって思ってた。わたし、それが聞けたら、別れに納得出来るんじゃないかって…」

「………」


俺を見つめながら、伊織はそう言うた。

思わず、黙り込んでしもた。そんなん、言われると思てへんかって。

そのせいで、ちょお目を見開いた俺を見て、伊織はたまらんくなったんか、また目を逸らす。

せやけど、俺は伊織に近付いた。

体は勝手に動いとった、ちゅう方が、正しいかもしれん。


「7年経った今、その返事を俺に迫るんか?」

「…ダメ…かな…」


なんで、こいつはこないにも卑怯なんやろうか。

7年前は俺がどんだけ追いかけても、逃げたくせしよって…。

何度、お前の家に行ったと思てんねん…一度も会ってくれへんかったやないか…。


俺は胸ん中が痛なり出した。

ひとつ、呼吸をする…伊織は俺を真っ直ぐ見据えとった。


「…愛しとったよ。ホンマに…」

「…侑士…」


「四六時中、お前のことばっか考えとった。離れるんが嫌で、何度もお前んこと、平日でも我侭言うて引き止めよった」

「あははっ…うん、そうだったね」


「…スッキリしたか?」

「まだ…わかんないや…だけど、納得出来たと思う」


少し微笑んだ伊織を見て、俺は多少安心した。

その反面、重苦しい切なさに、胸が締め付けられとった―――――。







◆ ◇ ◆







「今すぐは無理でも、もう少し落ち着いたら、出てきぃや?みんな心配しとるで…な?」


侑士はわたしとの話を終えて、そう言ってさっと会議室から出て行った。

わたしはそれから、5分時計を数えた。

その間に考えていたのは、なんであんなこと聞いちゃったんだろうって後悔。

そして、ちゃんと「さよなら」出来たのかもしれないという、期待。

想いは複雑だった。


「愛してた」という言葉は、つまり過去形だ。

わたしがそういう聞き方をしたのだから、当然そう返ってくるものだし、それに今の侑士の立場で、わたしのことを「愛してる」なんて言えるはずもない。

彼には、吉井さんという可愛い彼女がいるのだ。

不思議と、彼女に対する嫉妬心はさっき頭に血が上っていた時よりは和らいだ。

同時に、侑士にあんな風に見つめられて投げかけられた言葉に、昨日まで感じていたときめきじゃなく、変な安堵感を覚えている。

考え方によっては、それはときめきよりも厄介な物ではあるんだけれど。


「5分…経った…」


すっと背伸びをして、深呼吸をした。

そして、潔くドアの鍵を開け、勢いよくドアを開けた。

その第二会議室の様子に逸早く気付き、わたしの元へ駆けつけてくれたのは―――


「佐久間さん!わたし、本当に…っ…!」


吉井さんだった。

彼女には悪いことをしたと思うのと同時に、わたしの行動ではなく、お咎めがいい薬になったかもしれないと、これは上司の立場として思った。


「吉井さん、あなたには、これからもたくさん手伝ってもらいたい。吉井さんが居ないと、きっとわたしの仕事も捗らない。だけど、ミスはやっぱり気をつけて欲しいと思ってる。それでも…」


吉井さんが駆けつけたのと同時に、ひょっこりと給湯室から雅治が顔を覗かせているのが見えた。

侑士もそ知らぬフリをしてこちらに背中を向けパソコンと睨み合っているものの、その手が動いていない…なんて彼らしいんだろう。


「それでもわたしは言いすぎた。ごめんね。ちょっと嫌なことが取引先との間に合って、忍足さんがフォローしてくれたんだけど、でもやっぱりイライラしちゃって…自分のミスの八つ当たりであなたのミスを責めてたの。酷い上司だよね。ごめんね」

「そんな…っ…いんです、あの、わたしもちょっと、佐久間さんの優しさに、甘えてたと思います!」


それは大いにある。

わたしはああしてヒステリーになった時しか、職場で怒鳴ったことはない。

結局、今までも今日のも、わたしが怒るのはただのヒステリーなのだ。

わー、最悪…。






* *






「と、視聴率については…時間調査の結果、やはりゴールデンタイム…」


夜9時。

ひとりぶつぶつと呟きながら、わたしは提案書を打ち込んでいた。

取引先に持って行く資料のひとつだ。

昼はあれだけのストライキをして、侑士や雅治や吉井さんだけでなく、一緒に働いている男性社員の月方さんと粟津さんにまで心配をお掛けしてしまった。

当然、その間の仕事はそっちのけだったわけで。

だからわたしは黙々と残業をしていた。これも、当然。


「よぅ、頑張っちょるか?」

「!」


と、誰もいない事務所の玄関口から飄々とした声。

よぅ、の時点で誰だかわかったけれど、わたしは少しビックリした。


「雅治!どしたの?」

「んー、お前さんが頑張っちょるようだからの、差し入れじゃ」


その声と同時に、ぽん、とデスクの上におにぎりやらサンドイッチやらを置かれた。

もー、この人は上司としてじゃなくひとりの人間として本当に出来た人だな!

こんなに優しい人がモテないわけない。

まぁ、本人に「モテるでしょ?」と聞いたとこで、「モテる」と返事をされるんだけども。


「ああ…ありがたすぎるよ雅治…ちょうどお腹空いてたの!」

「おう、まぁ適当に買ってきたから、好きな物を食べんしゃい。余ったやつは明日の朝食にでもすればええじゃろう」


「えっ!全部貰っていいの!?」

「俺のはこっちにあるからの」


ニッと笑った雅治がわたしに掲げたのは、ビール。

かーーーーーーーー!!憎たらしいったらありゃしない!

その思いが思い切り顔に出ていたのだろう、雅治は楽しそうに笑った。


「くくっ…いい反応じゃ」

「あー悔しい!いいもん!すぐに終わらせてわたしもビール飲んでやる!」


お酒を見せられて勢い付いたわたしは、雅治の買ってきてくれたサンドイッチをひとつ食べて、仕事を再開した。

傍では雅治が、「その意気その意気」とわたしにちょっかいを掛ける。

そんな雰囲気でやがて15分も過ぎた頃、雅治がふと、わたしに聞いてきた。


「昼は忍足に説得されて、機嫌が直ったんか?」


いきなりだったので、飲みかけのカフェオレを噴出しそうになったけど、それはなんとか我慢した。


「あ…うんあの、吉井さんがすごい落ち込んでるって聞いて、えーっとそれで…あれよ、わたしも彼女の反省にこう、心を打たれて、でまぁそのー…自分も悪かったなぁ、と、ええ、反省してね、うん」


あの、とか、その、とか…外人で例えるなら、やたら「you know?」っていうバカなティーンみたいだ。

こんな嘘くさい誤魔化しを雅治が信用するはずもないのだけど、きっと彼なら、「ふーん、そう」で済ましてくれるはず。

と思っていたら…すかさず言われた。


「それで、忍足のことでの嫉妬心も抑えられそうか?」

「うん…ん!?」


つい、うんまぁね、と答えてしまいそうだった。

だけどここに居るのは雅治で、わたしと侑士の関係を雅治が知るはずもなくって。

だけど、だけどこの質問は、知ってるから聞いてきてるってこと?

え!?何!?会社の氷帝出身者からそんなのバレたの!?

だって侑士が言うわけない!


「忍足のこと、忘れられんのか…?」

「ちょ、ちょっと待って…!なんで雅治…!」

「勘はいい方なんでな。まぁ、忍足に一応、確認も取ったが」

「嘘…っ…じゃ、知ってた!?」

「お前さんと忍足を、最初に会わせた時からな」


唖然だ、唖然。

それって勘がいいで済まされる勘の良さなんだろうか?

鋭いとかそういう問題?それとも、わたしと侑士がそんなに解かり易いんだろうか。

いやいやポーカーフェイスと名高い侑士がそんな…


「で?忍足のこと、忘れられんのか?」

「えっ…あ、あははっ…あー…えっと、いやそんなことないよ。ただちょっと動揺するよね、7年ぶりの再会だったわけで、おまけに現カノと一緒に働くなんてさ、あははっ…あははははっ…」


完ッ全な空笑い。

それでも誤解されないように、わたしは必死に喋った。

まだ頭が混乱してる。

ていうかつまり最初からバレてたってことだから。落ち着いてわたし。


「でも吉井さんすごいイイコだし、なんていうか、納得だよ!おした…いや、もう気取ってもしょうがないか、侑士が、あの人選んだ感じとか、うん!」


この何が言いたいのかよく解らない説明。

雅治と目を合わせながら喋っていると、何もかも見透かされてしまいそうで。

わたしはすっくと自分の席を離れて、印刷した書類を取りに行った。

ついでだ、この書類をコピーしよう。

そうすればわたしは雅治にずっと背中を向けていられる。


「そんなに忍足が好きか…?」


ピッ、サー…というコピーの音と同時に、雅治の声が後ろから掛かる。

というか、必死に誤魔化しているというのに雅治の質問は、どうして「忍足が好きなんだろ?」的な問いかけなんだろう。

そうどこかで感じていたせいで、わたしは背中を向けたまま、笑いながら答えた。


「なんでそうなるの〜!てか、なんでそんなことばっかり聞く―――っ…!」








瞬間だった。

ピッ、とコピーのスイッチを押した時、突然、後ろから抱きすくめられた。

誰に…?嘘…雅治に…?









「…俺じゃだめか?」


手に持っていた資料は、バラバラと音を立てて床に散らばった。

いつもほのかに香っていた雅治の香水が、今はちゃんと香る。

肩に、強く回されている手…彼にお似合いの紺色のスーツ、それにいつも付いてるカフスボタンが、わたしの目の前で交差して。

余りにも驚いてわたしは声を失っていた。

するとその刹那…焦らされたような甘い声が、耳元で囁かれた。


「…俺じゃだめかって、聞いちょるんじゃが…」


放心状態だったわたしは、その声にはっと目を覚ました。

それと同じタイミングで、今度は雅治に無理矢理振り向かされる。

目が覚めたわたしは途端に慌て出した。

目の前にいる雅治は、わたしが感じたことのない、彼の男の部分を剥き出しにしてる。


「ちょちょちょちょ、ちょっと待った!ちょっと、雅―――っ…」

「待たん」


慌てたわたしを見て、一瞬ふっと笑った雅治は、わたしの鼻の先でぽそっとそう呟いた後、わたしにキスを落とした。


「…っ…」


瞑る事も出来なかったわたしの目。

それがわかっていたかのように、最初は目を瞑っていた雅治が、唇が離れる寸前にうっすらと目を開き、わたしと目を合わせて、また、ふっと笑った。


「…あとは、お前さん次第」


唇が離れても呆然と立ち尽くしたままのわたしを置いて…

雅治はそう言い残し、事務所を後にした――――。





to be continue...

next>>06_直感



[book top]
[levelac]




×