キスの魔法_02







なんなんだありゃ…

一体…

どういうことなんだよ!













キスの魔法












2.






部長に言われてテニスコートに戻ると、乾先輩が俺の元へ来た。


「桃、後でいいから、コレを佐久間に持ってってやってくれないか?」

「ん?何スか?これ」

「俺が作った塗り薬だ。たんこぶの治りが早くなる」

「…ほ、ホントッスか?」

「疑っているのか?桃」

「妙にヒリヒリしたり、しないッスよね?」

「…大丈夫だ」

「今の間は何スか!?」

「フッ。俺がそんな野暮なモノを作ると思うか?」

「…」

「なんだその顔は…いや、要らないというならいいんだが…」

「いやっ、要るっす!早く、伊織のたんこぶ治してやりたいッスから」

「うん、そうしてやれ」


そうして俺は 乾先輩から怪しげな塗り薬を受け取って練習が終わった後、伊織に渡し忘れないよう部室にある自分の鞄の中へ入れに行った。

部室には小窓がある。その窓から直線沿いにある保健室。

俺は、保健室の伊織の様子が気になって思わず目をやった。

そこで俺は、信じられないもんを目にした。










部長と…伊織が…キス…してるのか?


部室の小窓から見る保健室はかなり遠くて、かなり小さくて、ハッキリは見えなかった。

でも…キス…してるように見えた。

その刹那、俺の胸がズキズキと軋んだ。

すぐに目を逸らし、しばらくそのまま鞄と睨めっこしてた俺は、力任せに窓を閉め、足早に部室を後にした。



そんで、今に至る。

部室からテニスコートに戻った俺は 練習をやっても全然身に入らねぇ…ありゃなんなんだよ…伊織と部長が…?

ありえねぇ!伊織は部長のこと苦手なハズだ…でもアレは…


「おいテメェ!やる気あんのか!!」


あれこれ考えてた俺に、海堂が怒鳴ってきた。


「…うるせーよマムシ…」


俺は今、お前と言い合いする気はねぇよ…。

今はそれどころじゃねんだよ…。



力なく言い返す俺に、海堂は目を見開く。


「ちっ。やる気のねぇ奴は帰るんだな!」

「…」


海堂はそう言って俺との練習を辞め、個人練習に入ってった。


「桃…そんな調子じゃ薫ちゃんが怒るのも無理ないよ?」

「すいません…千夏先輩…」


ダラダラしてる俺を見かねて、千夏先輩が話しかけてきた。

どうしちゃったんだか…千夏先輩はそう呟くと、何か思い出したようにあっと声を上げて俺の腕を掴んだ。


「そうだよ!!ねねっ…伊織の様子どうだった??」

「っ!!…俺、ちょっと気合入れにランニング行ってきます!!」

「えっ!!ちょ、ちょっと桃!!」


伊織の名前を聞いた途端、俺はたまらなくなった。

千夏先輩が俺を呼んでいたにも関わらず、それを無視して走りまくった。


伊織―――お前、俺のこと好きだよな?

俺、わかっててずっと言えなかったんだ。

お前の気持ち知ってて、俺、ずっと言えなかったんだよ…。

もし、全部が俺の勘違いだったらって思うと、怖くて。

でも勘違いは、今のほうだよな…そうだよな…。

伊織は俺が好きだって、伊織の友達も言ってたじゃねぇか。

あれは、あれはやっぱ見間違いだ…。









「伊織、帰れるか?」

「うん…。大丈夫」


私はしばらく頭痛が続いて、放課後の部活が終わるまで、そのまま保健室で眠っていた。

桃は凄く心配な顔して、朝、手塚部長とキスした保健室に…私を迎えに来てくれた。

…手塚部長はあの後、私の顔をじっと見つめて言った。


「…すまない」


そうしてバッと椅子から立ち、保健室から去って行った。


手塚部長が…私に、キスした…。

今まで特別、何もなかったのに。

いや、どっちかっていうと、私が手塚部長に嫌われてるんだと思ってた。

むしろ私は部長が苦手で…いつも二人になりたくないって思ってたのに…。

部長、どういうつもりなんだろ…?すまないって…。

その前に私は、手塚部長のこと…どういうつもりで受け入れたんだろう…?



「おい、伊織!?」

「えっ!?えっ!?何!?えっ!?」


桃と一緒の帰り道、私は部長との朝起きたことを思い出してると、あまりに非現実的でぼーっとしていた。

何にも耳に入ってなかった私に、桃が痺れを切らして耳元で叫んだ。


「…お前、頭打ってちょっとおかしくなったんじゃねーか?」

「…」


確かにそうかもしれなかった。

頭を打ったことで、いきなり桃と手塚部長二人に抱きしめられたのだ。

頭がおかしくなりそうな事態であることには、間違いなさそうだと思っていた。

桃の言葉に何も返せないで歩いていると、桃が突然私の手を握ってきた。


「!!」

「…ダメか?」

「ええっと…」


私はそわそわしていた。

ひとつは、朝の桃との話が終わってなかったことを思い出して。

もうひとつは、完全なる後ろめたさ…。


「朝は…部長が来て、言えなかったけど…」


私の手を握る桃の手に、力が入る。

手を強く握られた私は思わず桃の顔を見上げた。

すると桃は、近くに居たスズメに惹かれたかのように顔を背けた。


「…こ、公園、寄るかっ」


桃がそう言ったことで、目の前に公園があることに気が付いた。

桃が私の手を引っ張って、公園のベンチまで連れて行く。

私は桃にしたがって、ベンチに腰掛けた。


「こっち、向いてくれるか?伊織…」

「…」


ダメだ…私、桃の顔見たら、きっと…。

部長とキスしといて、ダメだよ…。

卑怯なのは、絶対嫌だ…。

大好きな桃にだからこそ、私は真っ直ぐで…在りたい。


「伊織…?」

「…」

「…なら、そのままでいいよ…俺な…」

「待って、桃。私、私ね…」

「俺から言わせてくれ!」


桃が必死にそう言った。

そんな桃を見て私は…何も言えなくなった。


「俺、ずっとお前のこと…すす…好きだった!!」

「…」


出会ってから今日まで、遅すぎる桃の告白…。

お互いがお互いの気持ちに気付いてて、気付かないフリしてた一年間。

本当なら、ずっと待ってたこの言葉。

でも私の中には、朝の手塚部長とのことが脳裏に過ぎる。


「付き合ってくれ…俺と…!!」

「…」


「伊織…?」

「あのね…私―――」


そう言い掛けた時、私の話を遮って桃が私を抱きしめてきた。


「…桃?」

「俺、朝練の時さ…お前と手塚部長が一緒にいるとこ、見たんだ…」


そう言って桃は私との距離を静かに作って、肩を抱いたまま、やたら声を明るくして私の目を見ながら笑顔で言った。


「なんかさ、俺、ちょっとどうかしてたのな?お前と手塚部長が、キスしてるみたいに見えてさっ」

「えっ…」

「んなわけねぇよな!手塚部長が苦手だって言ってたお前と、あの堅物の部長がな!」

「…」

「俺、どうかしてんだよ。お前に惚れすぎて、変に気にしすぎて…すげー見間違えして…な?」

「桃…」

「だから俺、もう我慢できねぇよ…伊織…俺と、付き合ってくれるか…?」


桃の真剣な表情を見てると、私はたまらなくなって目を逸らした。

私は、この人が好きだった…ずっとずっと、この言葉を待ってた…。

待ってた。待ってた。待ってた。

私は、ずっと待ってたんだ…。


「うん…私も、桃が好きだよ…」


気が付くと そう、口にしていた…。





to be continue...

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