love._11
「……ひ、久しぶ、り……」
「ああ……そのまま少し、待っててくれ」
「…………うん」
「…………」
love.
11.
家を出る前に、跡部との婚約指輪をバッグの中に入れてきた。
来週末で婚約解消になるみたい、と両親に告げた時、何故だか両親は少し困惑な表情をして、「お疲れ様、ご苦労だったね。跡部さんにもよろしくね」と言ってきた。
すでにその言葉に泣きそうになってしまって、食事を終えてすぐ、部屋に閉じこもった。
わたしは、疲れてなんかないし、たいした苦労もしたつもりはなかった。
むしろ、苦労したって疲れたっていいから、まだ跡部の傍に居たくて……なのに、それは叶わない。
机の上で光る婚約指輪は本当に綺麗で、ゆっくりとそれを左手の薬指に通したら、涙が止まらなかった。
全て幻だったんだと、嫌というくらいに思い知らされたから。
「……座ってろよ」
「あ、うん……いや、ほら、大きな部屋だなあ〜って……そういえば、跡部の部屋見たの、初めてだね」
跡部の家をくぐるとすぐに、跡部の自室に案内された。
部屋の扉を開けたら、すぐそこに跡部が居て……今日もきっとわたしを見ないんだろうと思っていたら、しっかりとわたしを見てきたから、少し、怯んでしまった。
久々に跡部の視線に捕らわれて、眩暈がしそうだった。嬉しかったのと同時に、切なくて。
「別に珍しいもんはねえぞ?」
「わかってないなあ〜、ここにある全てのものが珍しいんだけどなあ」
ぐるぐると跡部の部屋を動き回るわたしに、跡部は面倒臭そうにソファを指差したけど、わたしはそれを無視して跡部の部屋を目に焼き付けておこうと、しつこくぐるぐると回った。
なんだかものすごく高そうな絵画だったり、難しそうな書籍だったり、ここで食事をしたりもするのか、リビングにあるような綺麗なテーブルだったり。
まるでホテルのスイートルームだ。
こういうのを見てしまうと、跡部とどうにかなろうなんて最初からお門違いだったんだと思う。
「佐久間」
「え?あ、そろそろ?」
「ああ、だがその前に……、……どうした?」
「うん、ちょっと」
跡部の部屋から見えるお庭がめちゃくちゃ綺麗で見とれていたら、いつの間にか後ろに跡部が立っていた。
呼ばれて振り向いて、わたしは慌ててバックの中を探る。
跡部はそんなわたしに怪訝な顔をしていた。
「渡したいものがあって」
「……俺に?」
「他にいないじゃん。あ、出てきた。まずは、これ」
「…………」
わたしがそれを取り出すと、跡部は怯んだようにわたしを見た。
その顔が、らしくなくて、なんだかとても可愛い……はあ……最後の最後まで、好きだなあ、わたし。
「本当にお世話になりましたって、うちの両親から」
「よせ、そんなつもりは……」
「あー返さないで!跡部にって、うちの両親のせっかくの気持ちなんだから、受け取ってよ」
「……っ、……ああ」
ブランド物のネクタイだ。いつか使うことになるだろうと、父が選んだ物らしい。
跡部に似合いそうな色合いだし、なんだかんだ言いながら跡部は優しいから、きっと大切に使ってくれるだろうと思う。
「それと……」
「まだあんのかよ」
「うん、これは、わたしから」
「……っ」
安物だけどね、と笑ってみせたけど、跡部は笑ってはくれなかった。
ちょっとぐらい笑えよ〜、と悪態をついてみたくなったけれど、わたしも本気で笑うことなんか出来ないから、それは口にしなかった。
もう泣きそう。我慢我慢。
「跡部はいろいろとお疲れな人だから、アロマオイルと……それとね、ハンカチ。ほら、くれたじゃん、ハンカチ。だからそのお返しみたくなっちゃうけど。見て見て、ネーム入り」
「…………ああ」
「……まあ、適当に使ってくださいな。あと……」
「ちょっと待て佐久間」
「違うの、これは、返すもの」
まだバックの中から何かを取り出そうとしたわたしに、跡部は耐えれないと言わんばかりにそう言ったけど、わたしは突っぱねて、それを差し出した。
跡部の動きが止まって、わたしの手は震えてしまいそうだった。
返したくないけど、返さなくちゃいけないもの。
そうしなきゃ、いつまで経っても、跡部を引き摺ってしまうから。
「……貰う気満々だったじゃねえか。返す必要はないと言ったはずだ」
「うん、でも、やっぱり……貰えないよ、こんな高価な物……それに……」
震えてきた掌が汗ばんで、指輪のケースが僅かに揺れた。
それを悟られたくなくて、ぎゅっと手に力を入れたけど、余計震えてしまった。情けない。
言葉に詰まってしまって、その振動は声にまで伝わって……だめだ、泣いちゃう……。
「これ……わたしには、似合わないから……っ、家にあっても、跡部のこと、思い出しちゃうし……」
「…………佐久間」
跡部の優しい声。
今日まであれだけ冷たくしておいて、今になってそんなのずるい。
そんな想いも、今までも想いも全部が絡まって、わたしの声は、それとわかるほどに震えていた。
「今まで、本当にありがと……っわたし、……跡部のこと、本当は苦手だったんだけど……短い間で、たくさん跡部と話したり、接したりして……跡部のこと、勘違いしてたなって……っ、思っ……その、……わたしが、今、笑って過ごせてるのとか、跡部のおかげだし、本当に、ホント、めっちゃくちゃ感謝してる……うちの、両親も……勿論、わたしも……辛いときとか、助けてくれて、慰めて……くれて……跡部がいたから、今日まで、これたと思ってる……だから……」
「…………」
「ごめ、……卒業みたいで、なんか……る、涙腺弱いんだよ、わたし、何泣いてんだか、だけど……でも、楽しかったんだ……それで、わたし、……ごめん、……本当は、跡部のこと……――っ!」
一歩近付いてきた跡部に見下ろされて、気持ちが高ぶって、今までのいろんなこと思い出して……好きだと言ってしまう直前だった。
跡部がわたしの手を引いて、わたしの頭を胸に押し付ける。
最後の最後まで、こんな風にわたしのことを甘やかすのは、やめて欲しいのに……だけど、嬉しくて、苦しくて、どうにかなっちゃいそうだった。
「……跡部……」
「それ以上は、言うな」
「え……」
「言えば、俺が辛くなるだろ……」
「……っ……」
その言葉に、ぎゅっと胸が締め付けられた。……跡部は、気付いていたんだ。
わたしが告白すること……辛くなるってことは、言うなってことは、知らん顔してたいってことで……。
ああ、今日はきっと、家に帰ったら泣きじゃくるんだ……考えたら悔しくて、歯を食いしばったときだった。
跡部の力が弱まって、わたしをゆっくりと胸から離す。
そっか……これで、お別れ――
「俺もお前に渡したいものがある」
「……へ」
――……あれ?
予想と違った展開に、きょとんとしてしまった。
……渡したい……もの?
「このままここで待ってろ。いいな?一歩も動くな」
「え、ちょ……」
跡部はわたしを置いてベッドルームに消えると、ゆっくりと歩幅を大きめにもう一度わたしの前に戻ってきた。
じ、とわたしを見る。
よく、意味がわからなくて、目を潤ませたままおろおろと跡部を見つめていると、彼はわたしの目の前で、大きく鼻から息を吸って、思い切り胸を膨らませて……つまり、深い深呼吸をした。
そんな跡部に益々意味がわからなくて、わたしが首を傾げた時だった。
跡部が突然、目の前からゆっくりと消えた。
「え……?」
消えていく跡部に不安になりかけたわたしが跡部の消えた方向に視線を下ろせば、そこには当然跡部が居るわけだけども……その姿に、わたしは遂に思考が停止しかけてしまった。
だって、あの跡部が……肩膝を立て、わたしを見上げて、跪いていたから。
「あ、跡部……?」
「佐久間伊織」
「え、はい、え……」
「…………」
沈黙が流れる。
状況が全然わからなくて、わたしは固まったまま、跡部の言葉を待った。
跡部は、何度か深呼吸をしながら唾を飲み込んでいるのか息を飲み込んでいるのかわからなかったけど、眉間に皺を寄せて、ただ、わたしを見つめている。
ようやく跡部が口を開いたのは、その表情が、ふっと優しくなった、瞬間――――。
「あなたを愛してる」
「……………………」
――――瞬きを忘れた。
声にならない声が、弱々しくわたしの頭の中だけで響く。
跡部はそんなわたしにはお構いなしに、自身の手の中にある箱を開けた。
キラリと光ったそれを手にして、僅かに震えているわたしの左手をそっと握ってきた。
震えが、一瞬にして止まる。
でも……跡部がわたしの薬指の根元に、チュ、と音を立ててキスした瞬間……今度は、痺れが身体中に走った。
ゆっくり、指輪を通されて…………それ、どうしたの……?と、聞きたくても、喉に声が絡まって出てこない。
「私と、結婚していただけませんか?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………っ、…………――ッ!」
わたしの思考が完全に停止してしまったせいの、長い長い沈黙。
跡部は我慢するような表情でしばらくわたしを見ていたけれど、瞬きを忘れていたわたしはそのまま人形のように固まってしまって、ようやく声が出かかった頃には、跡部が痺れを切らして立ち上がってきた。
「っ……早くっ、はいって言えよてめえ……なに焦らしてやがんだ、アーン?俺様を焦らすなんて百万年早えんだよっ」
「ち、じ、え、じ、じらして、る、わけじゃない、ない、くて、ちょ、だって、待って、おかしい」
まずひとつ目に、さっきまで物凄い紳士なプロポーズをしてきておいて、その変貌ぶりがおかしい。
ていうかそもそもふたつ目に、プロ、プロ、プロポーズをわたしにしてきている、この状態がおかしい!
「なにがおかしいんだよっ」
「だだ、だって、だって、だって跡部、跡部、わたしのこと好きじゃないくせに!」
「てめえ……俺様が今言ったこと聞いてなかったのか?ああ?」
「ち、だって、だって、跡部は、跡部はだって、そ、その、千夏、千夏さんのこと、っ」
はあ?と跡部が青筋を立ててわたしを見下ろす。
めっちゃくちゃ怖い顔してるけど、ここだけは譲れない……だって本当のことじゃんか!
いつもいつも、千夏さん千夏さんって……こっちがどれだけ嫉妬したと思ってるんだ!
「貴様、あのメガネに初恋がどうとか吹き込まれて今も俺があの人のこと好きだとか思ってんじゃねえだろうな」
「ず、図星じゃないの?だ、だって、いっつも千夏さんと一緒に……こないだだって、電話してたじゃんか。迎えに来てくれるんだろ〜?とか、デレデレして……こないだの電話の時だって――!」
「――あれは……っ!……くそ、どこで盗み聞きしてやがった!」
「ほら!ほらね!どこで聞かれたかわかんないくらい、そやって、しょっちゅう千夏さんと会ってるくせに!」
「うるせえぞ。説明するのも馬鹿馬鹿しい!」
「そんなの!そんな、説明してもらわなきゃ、跡部の言葉なんて信じないんだから!!わたしが跡部に惚れてるからって、なんでも、い、言いなりになると思わないでよ!!」
わたしの言ったことに、一瞬だけ表情を怯ませた跡部にはっとする。
言ってしまった、と言わんばかりに口元に手を持っていってももう遅い……。
でも、それはいい……どうせ、さっき言おうとしてたことでもあるから……。
だけど、跡部がわたしのこと、好き……どころか、愛してるなんて……言われても……。
説明してくんなきゃ、……いや、本当は、してくれなくても、嬉しいけど……でも、やっぱり……。
「貴様……本気で誤解してやがるな?」
「……だ、って……」
むすっと俯いたわたしに、跡部がふう、と溜息をついてきた。
スムーズにいかない愛の告白にうんざりしているのだろうか。
でもだって、その原因作ったの跡部じゃんか!
そんな溜息つくくらいなら、わたしの誤解、覆してよ!!と、心の中で叫んだのも束の間だった。
「あの人のこと、いくつだと思ってやがる?」
「へ……い、いくつって……」
跡部の意表をついた質問に、思わずきょとんとして顔をあげた。
……いくつって、大学生だから……えーと、二十歳か、そのくらいだと思っているのだけど……なに、その質問……?
「あの人、三十二だぞ?」
「は……」
それが、跡部のプロポーズの次に、わたしを固まらせた第二の言葉だった。
「プリンストン大学卒業後に大阪の大学の非常勤講師になって、今の旦那と結婚。旦那は普通の家庭の普通の男で、あいつとは高校時代から付き合ってた相手だ。東京で引越業者を経営し始めたのが三年前。それが軌道に乗ったらしくてな。千夏もタイミング見てこっちに越してきた。今は東大の非常勤講師をしながら引越の手伝いをしてる」
「……じゃ、バイト先って、その、引越屋で……東大の学生さん達って、同級生じゃなくて、生徒?」
……頭良すぎだし、ていうか千夏さん、紛らわしすぎるほどに、見た目若すぎるんですけど。
跡部から千夏さんの話を聞いて、わたしはその半分を口を開けて聞いていたように思う。
つまりスーパーウーマンだということだ。
学歴、経歴がそれで、あんな美人で、若いとか……だめだよ、そんなの……。
「昔から知ってる十五も離れた女に、俺が本気で惚れてるとでも思ったんじゃねえだろうな?」
「だってそんな……十五も離れてるなんて知らなかったもん!教えてくれたら良かったじゃん!」
「聞きもしねえでよくそんなことが言えるな?」
「でもだって、いっつも、いっつもいっつも、千夏さんと会ってて……わたしには、すごい、冷たかったくせに」
そうなんだ。
だいたい最初に三十二で旦那持ちですって紹介してくれてたら、こんな勘違いをしなくても済んだのに……でもだからって、跡部が千夏さんのこと好きかもしれないという疑いが晴れたことにはならない。
わたしはしつこく食い下がった。だって会ってたもん。わたしとは会えなかったくせに。
「だから……それは……」ほら、答えに詰まる!
「跡部……見向きもしてくんなかったじゃん。話もしてくんなかったじゃん」
なんだかいろんなことが悔しくて、つい、涙がぼろぼろと流れていく。
跡部は困惑した表情をわたしに向けながら、頭を抱えるようにして、また大きな深呼吸をした。
「だから……お前に引っ叩かれて、我慢していたと言われて、そんな挑発に乗って冷却期間を置いた俺が、お前に合わせる顔、ねえだろうが」
「…………そ、そんなの、ずるい……」
「ずるくねえだろ。お前の顔見て、それまで……今日まで、我慢する自信なんかなかったんだよ」
「そ、そんなのやっぱりずるいよ!そんなの、千夏さんに会ってる理由になんな――」
「だから千夏に会ってたわけじゃねえよっ!馬鹿が……」
そう言われたことは嬉しかったけれど、千夏さんに会っていたことの答えをはぐらかされた気がして口をむぎゅっとへの字に曲げたら、跡部はさもイライラした様子で声をあげた。
その言い方もムカッときて、すかさず言い返す。馬鹿って言う方が馬鹿なんだ!!
「ば、……馬鹿馬鹿って、じゃあ、何して……!」
「引越屋でバイトしてたんだよ!ああ!言いたくなかった!」
「は、バイト?ば、馬鹿にしてんの!?あんたみたいなのが何のためにバイト!?この大金持ち!」
「まだわかんねえのかよこの鈍感が!」
「な、し、失礼だよ跡部!それ、暴げ…………っ!」
きー!となって跡部に指を差して怒ったとき、その指を差すためにあげた左手を掴まれた。
掴まれて気づく。そういえばさっき跡部が、薬指に指輪を通してくれたこと……。
自分の左手首をそのままぐいっと目の前に押し付けられて、ますます目の焦点が指輪に合っていく。
え…………ちょっと、待って……もしかして……。
「貴様が言ったんだろうが」
跡部の言葉に、ゆっくりと、あの日の記憶が蘇ってきた。
ふたりで指輪を買いに行った時だった……そうだ、買った後の車の中で、わたしが言ったんだ。
――……跡部が、本当に結婚する時は自分の働いたお金で買ってあげたらいんだよ!
――てめえに言われるまでもねえな
「え………………じゃ……じゃあ……もしかして……」
「残念ながらこっちとは桁違いに安物だけどな」
ティファニーの箱を見て、自嘲したように言う跡部に、唖然としてしまう。
……一ヶ月以上も前から、学校も、部活もしながら、バイトもしてたってこと……?
自分で働いたお金で、わたしへ渡す指輪、買うために……?お金持ちなのに、お金、貯めてた……?
信じられない……跡部が、引越のバイト……わたしのために?
だから、忙しいって言ってた……?
千夏さんと会ってたのは、バイト先の人だったからで……アレ持ってこいとか言ってたのって、もしかして、給料?
「……散々千夏に笑われた俺の身にもなりやがれ」
跡部の顔がみるみる赤くなっていくのが、今度こそわかって。
考え出したら確かに全部辻褄が合っていって、それが今日のためだったんだと思うと、わたしは跡部のそれと同じくらいの早さで、みるみる目の前が歪んでいった。
跡部は呆れたように言う。
「泣きすぎじゃねえの……?」
……その時、初めて跡部が安心しように笑って、わたしの手を引き寄せ、抱きしめてくれた。
ゆらりと揺れた体が、すっぽりと跡部の腕の中に包まれて、わたしは一気に感情が高まった。
体育倉庫の裏で抱きしめられた時とは違う、ふんわりとした、包み方に、暖かさに。
だけど、ぎゅ、ぎゅ、とその力が少しずつ強くなるその度に、涙が搾り出されていくみたいだった。
「あ、跡部……うう、う、信じれない……う、嬉しいよお……」
「わかったなら、早く、はいって言えよ……」
「は…………あ、でも……」
「……?……なんだよ、おい」
はい、と、すぐに言っても良かったけれど、なんだか間が空き過ぎてしまったし……跡部はまたかと言わんばかりに、焦った様子でわたしを抱きしめたまま揺さぶる。
それに応えるように、わたしは跡部の胸の中で、きっと、ものすごく贅沢なことを呟いた。
「もっかい、聞きたい」
「は?」
「……プロポーズ……」
「……貴様……なに調子こいてやがる」
顔をあげて、真面目な顔して跡部にお願い、と呟いたら、跡部は一瞬眉間に皺を寄せて、諦めたように溜息をついた……その手が、わたしの髪の毛を掬う。
耳の後ろを跡部の指が撫でて、その掌で、頬を包まれた。
胸の鼓動が、これでもかというくらいにが高まっていく。
さっきは状況が把握できなくて、頭の中、真っ白になっちゃったけど。
今度はちゃんと、聞くから。跡部の言葉、その声も、しっかり、大切に、聞くから……。
「……あなたを愛してる」
「……っ……」
「……私と、結婚していただけませんか?」
「……っ、……はい……――っ」
何度泣きすぎたと言われても、やっぱり涙は頬を伝って。
跡部はそんなわたしを見て、また、優しく笑ってくれた。大好きの気持ちが、溢れ出そう。
わたしも、愛してる……跡部……本当に、好きすぎて、どうかなっちゃいそうだよ。
「最初からそう言えよ、焦らしやがって」
「……跡部……好き、すごく……すごく、好き……」
「アーン?馬鹿かてめえは。知ってるっつーんだよ」
「跡部……、っ……」
ゆっくり落ちてきた唇に目を閉じたとき、身体中が強張っているわたしに、跡部がふっと、笑った気がした――――。
to be continued...
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