冷嘲熱罵 1/2 | ナノ



ーーああ、くそ。苛々する。

久しぶりに時間ができた俺は、昼食を摂りに食堂へ来ていた。
久しく人前に出ていなかった為に注がれる、周囲の生徒から視線。それに気分よく食事をしていた、のに。
なんてタイミングが悪いんだ。
つい先程まで自分に向けられていた数多の視線は、食堂に入ってきた集団に向けられている。

転入生とその取り巻きだ。

あの転入生は尽く俺の邪魔をしてくれる。
今もそうだが、役員たちがあいつに侍っているせいで仕事が終わらず食堂に来れなかったり、見に覚えのない噂が流れたり、生徒たちの関心が転入生に向いたり。
極めつけに生徒会、基(もとい) 会長である俺と犬猿の仲である風紀委員長の瀬野と顔を合わせる回数が増えた。今までは口をきく事さえ嫌だったのか、出会しても見下すような視線を向けられるだけだったが、八つ当たりや罵倒が加わった。
普通の奴は挫けるだろうな。
でも、周りの生徒に見られながらの食事は視姦感覚だし、終わらない書類処理は精神的にクるプレイとでも思えば何ともない。
考えながら ふと瀬野の蔑む視線を思い出して、背中がぞくぞくした。口がにやけそうになって、手で口元を覆う。
公衆の面前で生徒会長が一人でにやにやしていたら不審な目で見られる。いや、それも堪らないが。

食事を済ませ、生徒会室に戻ろうと席を立ったとき、あろうことか転入生に見つかって大声で名前を呼ばれた。
別に隠れていた訳ではないが、絡まれると面倒くさい。しかもあいつは無駄に力が強く、以前腕を掴まれたとき手形がついた。
今にも飛びついてこようとする転入生を避けるとずべしゃ、と派手な音を立てて転んだ。それを横目で見、副会長たちに目を向けると、憎悪の視線を返される。
…おお。
「っ、何で避けるんだよ!俺たち親友だろ、サイテーだ!」
突然転入生に腕を掴まれ、俺はその力強さに思わず顔を歪めた。
「俺知ってるんだぞ!生徒会室に篭って親衛隊と、お、お楽しみしてるって!みんな言ってた!会長が仕事サボって何でそんな事してるんだよ!?」
あー…うん?これ説教だよな。説教するならもっと、こう、罵る感じで…。
中途半端な説教に不満気な表情をしていると、別の意味でとったらしい副会長に嫌悪の目を向けられた。
「貴方、」
「ーー何を騒いでいる」
副会長が何か言いかけたとき、別の声がそれを遮った。声のした方を見ると、風紀委員を引き連れた瀬野がこちらに歩いてくるところだった。
「ああ。何かと思えば、生徒会御一行サマ。ここで何をしてんだよ。食堂は飯食う場所だぜ」
「貴方には関係ないでしよう」
「そう言われても風紀としては見過ごせねえんだよ。周りの生徒の迷惑だ、黙れ」
そこまで言うと、瀬野は一度言葉を切って俺のほうを向いた。
「部下の躾はちゃんとしとけよ、無能な会長様」
本当にこいつは俺の事が嫌いらしい。俺に向けられた嫌忌の瞳に、ぞくりと鳥肌が立った。
「…なんだと?」
「はッ。頭だけじゃなく、耳までイカれたか?部下の躾は疎か、書類もロクに処理できねぇ会長サマよォ」
「ああ?今週の分はもう回しただろうが」
俺がそう言うと、鼻で嗤われた。
「どの口がそれを言ってんだよ。誤字がある書類を回されても、上に提出できねぇだろうが」
…それはあれだ。苛々しながらやってたヤツだ、多分。
遣らかした、と思わず額に手を当てる。
あー…くそ、とんだ誤算だ。
「…おい、宮村?いつもの威勢はどうした」
はて。
「お前が俺の心配なんて珍しいな。変なモンでも食ったか?」
「…テメェ、人が気に掛けやりゃあ…調子に乗んなよ」
顔を引き攣らせながらふるふると拳を握る瀬野。
「は。風紀が手を上げるのか?堕ちたものだな」
「ーーもう我慢ならねえ…」
言うや否や、瀬野が俺の腕を掴む。
「テメェは生徒指導室行きだ。俺直々に矯正してやるよ」
言いながら、強引に腕を引かれる。
その怒りと唾棄の混ざった眼差しに、俺は心底惚れた。




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