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七夕


七夕当日、朝練終了後

体育館前の笹には昨日の帰りにつけた飾りのほかにも何枚か短冊が飾ってあってちょっと嬉しい
なんだかんだ皆協力的というか、優しんだよな

「教頭に目を付けられませんように」という私と澤村の短冊をなるべく目立たないところにつけたのは正解だったな
飾りで隠れたり、笹の裏側につるしたから教頭の目に入ることはないだろう

「お、榎本さん」
「榎本さんなんか嬉しそうっすね」

笹を見ていると学ランに着替え終わった田中と西谷がやってきた
その手には・・・

「あぁうん。てかなんで鶴持ってんの?」

短冊ではなくなぜか折り紙で折ったであろう黒とオレンジの鶴

「笹に飾るように言われただけなんでわかんねぇっす」

そう答える西谷と意外と器用に鶴に紐をくっつけて笹の真中あたりに括り付ける田中

「この鶴があるだけで烏野バレー部の七夕祭りって感じするな」
「お、いい感じに飾れたな!龍!」

テンションの高い2人の声に振り向くと緑の笹の葉の上で風にゆれて飛んでいるように見える2色の鶴
『落ちた強豪飛べない烏』の揶揄を払しょくするようなそれに少し泣きそうになったけど気づかれず、2人と別れて教室に向かった
色素の薄い長身がその場にいたことには気づかず



***


「潔子、今日の部活抜けていい?」

もともと今日抜ける可能性があることを話していたけれどきちんと言って潔子からのOKをもらわなければと思い私は3年2組にきていた
手には抜ける理由の入ったビニール袋
私の顔とビニール袋をみた潔子はふっと優しく微笑んで

「前聞かれた時も言ったと思うけど大丈夫。そんなに気にしないで」

田中と西谷が見たらあまりの神々しさに溶けるのではなかろうかとちょっと馬鹿なことを考えてしまった
いや、それくらいの綺麗な笑顔なんだけどね
美人が笑うと破壊力強い
いや、潔子の笑顔だからだ!とか最近ちょっとあの2人に毒されたかな?
脳内会議で忙しく返事をしない私を不思議そうにみる潔子にありがとう!と急いで告げて頑張るよ!とその場を離れた

そして現在潔子のところに行った後寄り道をしたものの昼休みの時間が終わるまではまだまだといった時間に2年の教室のある階にやってきた
目的は昨日と同様短冊の進捗チェックだ
まずは1組の田中を・・・と1組を覗くとそこには

「あり?全員いるじゃん」

2組の木下、3組の西谷、4組の縁下と成田全員そろってお昼を食べていた
なんだ3年もそうだけどお前らも仲良しかよ
1年達もそうなって欲しいなと一瞬思ったけどそれはないな、と思い直した

「榎本先輩?どうしました?」

またも脳内会議を開いていた私はぼーっと突っ立っていたようで近くまで来てくれた縁下が心配そうに声をかけてくれた
さすが2年のしっかりもの次期澤村ポジ!とかまたも感動の賛辞という脳内会議をしていたら更に心配をかけてしまった事は言うまでもない

「榎本さん!どしたんすか?」
「お?榎本さん2年の教室にくるなんて珍しいっすね!」

縁下と一緒に固まってる輪の方に歩いていくと私に気づいて不思議そうな顔をする田中と元気に迎えてくれる西谷
成田と木下は口に食べ物が入ってるのか声を出さずに会釈をしてくれた
うん、可愛い後輩たちだ
某1年とは大違い

「やほやほ!全員そろってご飯とは仲いいねぇよきよき」

その輪の中に入ってにこにこ笑ってるとちょっと照れくさそうにする縁下、木下、成田
歯を見せて笑ってくれる田中と西谷
うん、性格出てるな
でも照れるとこどこにあった?
(理由:部活でしか会わない榎本先輩が昼に会いに来た+なぜかめちゃくちゃ嬉しそうな笑顔で自分たちを見ている)

「先輩達はバラバラで昼なんすか?」
「いや、澤村やスガ、東峰はうちのクラスで食べてるよ。私もたまに混ぜてもらうけど基本1人。潔子はクラスの子とじゃないかな」

そういや大地さんと菅原さん、榎本先輩4組だっけ
主将、副主将、マネージャーがいるってすごい教室だな
それも進学コースでだからすごいよな
俺、来年2組になりたい…
わかるぜ!龍!俺も潔子さんと同じ教室がいい!でも3組も旭さんが使ってるんだよな…

私が一言言っただけでどんどん会話が広がっていく
ただ田中は煩悩まみれ、西谷は煩悩と憧れの間で葛藤してるけどそれもまた面白い
うんうん、大変微笑ましくてお姉さん癒されるよ
そんな感じで様子を見てたら当初のことを思い出したのか西谷がそういえば用事あったんじゃ?と聞いてきた
それに反応してぴたりと会話が止まる
なんか、ごめんね?

「いや、昨日短冊渡したの書いてくれたかなーって」

昨日の月島との一件
乗り気じゃないかもしれないのに先輩が言えば強制参加になるのではというのが引っかかっているので尻すぼみになってしまった
いやまぁ、罰ゲームとか言っておいてなんだけども
IHの後から部活内の空気が少しピリピリしてたから部活の邪魔にならない程度でちょっと空気変えれるかなと思ったのだ
無駄に明るく罰ゲームもあるからなんて言い出したのもピリピリしたもの以外の空気になればなんだってよかった
私への不満、だったとしても

「あーまだみせてなかったっすね!」

そんな思考に飲まれていた私を明るい西谷の声が引き上げてくれる
赤い短冊に書かれた元気すぎてはみ出しそうな大きな文字で「リベロひとすじ!!」と書かれている
赤い短冊と言うことも、内容も、漢字がわからずひらがななのも、全部が西谷らしい
ふむふむとみていると今度は田中が俺はこれっす!と同じく赤い短冊を見せてくれた
「スパイク決めまくって試合に勝つ」と書かれたこれまた田中らしい短冊だ

「田中も西谷も裏切らないな!最高!」

あははと笑っていると田中と西谷が顔を見合わせた後二ッと笑ってくれた
3人で笑っていると控えめに声をかけられる
振り返れば縁下、木下、成田がそれぞれの短冊を持って見せてくれている
短冊の色は色はオレンジ色、烏野のユニフォームの色
「1回でも多くコートに立つためにできることはなんでも全力でやる」とそこまでは3人とも同じ
「俺だって戦えると証明する」「チャンスをつかみとる」「1年に負けない」と違う言葉が並ぶ
レギュラーの半数が1年の烏野男子バレー部
しかし自分たちはレギュラーではなくても戦う意志があり自分たちもこのままでは終わらないという頼もしい言葉だ

「おおおおまえら!?」
「おぉ!いいな!それ!!」

レギュラーの座を狙われていることに少し動揺する田中とやる気に満ちた言葉に嬉しそうに笑う西谷
田中と同じポジションの縁下はいつまでもベンチ温めてると思うなよと挑戦状をたたきつけ田中もそれにのる
同じ部活で仲良くしててもライバル・・・うんいい関係だな

「切磋琢磨できる相手がいるっていいことだよ。頑張れ!」

縁下、木下、成田の背を1回ずつ叩いてそれから

「みんな書いてくれてありがと!」
「「「「「あす!!」」」」」

笑顔で手を振るとそれに答えてくれた2年達に見送られ私は教室に戻った



****


七夕当日 放課後

潔子には抜けると言ってあるし
部活に向かう澤村に今日ちょっと用事があって部活顔出すの遅れるとだけ告げて鞄を持って教室からダッシュした
現在いるのは調理室、若干苦しいがそんなことは些細なことである

冷蔵庫に昼休みに持っていたもの以外の物もすでに冷蔵庫に入れてある

それらを取り出してエプロンをつける
調理室の使用許可?それはたけちゃんに相談したら家庭科の先生に話をつけてくれたそうで本当にたけちゃん感謝

さて、今日のための特別な差し入れを作り始めるとしますか!
まずは道具を出して…

スケール、ボウル数個、ターナー、スパテラ、鍋、粉ふるい、ラップ…

「カップは後でいいか」

人数分のカップを袋に戻して今度は材料を取り出す
ちゃちゃっと材料をはからないとね

「やるぞーーーー!!!!」

1人きりの調理室、気合を入れて作業に取り掛かるのだった



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