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交わる視線


私は彼を知っている
小学生から同じ学校だから
でも彼はきっと私のことなんて知らない
遠くから見てただけだから

それでもいいと思ってた

小学生の頃から周りと比べて大人びていたり、人を挑発するような表情ばかりの彼
そんな彼がただ一度だけみせた優しい笑顔にほのかに抱いた恋心
名前の通り月を思わせるその優しい笑顔が忘れられなくて月を見ては彼を想う
そんな気持ちを1人で抱えて
そしてそのまま誰にも知られることなく大人になって
自分の中でそんな初恋をしたんだと
だんだんと思い出になっていくのだろうと
私はずっと思っていたんだ






兄が通っていた烏野高校

話をたくさん聞いていて、楽しそうな学生生活に憧れた小学生の私
話を聞くたびに楽しそうな学校だな、そんな学校に入れたらいいなと頑張って勉強したかいがあって無事に入学することができた

まさか同じクラスに彼がいるなんて思いもしない出来事にドキドキしたけど今までと何も変わらない
ただ、私が一方的に知っているだけ
会話どころか挨拶もしない、ただ同じ教室にいるだけのクラスメイト
それが私と彼の距離

入学してからの私は早くもなく、遅くもない時間に登校して
高校に入学してから仲良くなった友達と笑いあって休み時間を過ごし
放課後は図書室で本を読んだり少し勉強をして帰る

そんなありふれた日常を過ごしていた

でもその日常の一部に彼が、月島君がいる
ただそれだけで嬉しかった

背が高くて、顔も整てて目立つ彼は女子に人気で囲まれているところを何度か見たし
露骨に嫌そうな顔をしてどいてくれない?なんていって相手にしないところ、昔から変わらない
勇気を出して告白をする女の子たちを「僕は君のこと知らないんだけど」と突き放す言い方も変わらない
そんな彼と昔から付き合いのある山口君が月島君目当ての女の子に囲まれているのも昔から変わらない
『変わらない』そんな彼の日常を知っているだけで私は満足できてしまうのだ



放課後

今日も1人日課の図書室へ足を向ける

テスト期間でもない今はあまり利用している人もいなくてとっても静か
小学校でも中学でもそうしてきたように高校に入っても同じように一番奥の窓際に向かう
勉強に詰まった時たまにぼーっと空を見たい時があるので一番奥で目立たない場所に座るのが昔からの癖になっている
毎日決まった時間にきて同じ場所に座る私の定位置として認識しているそこに鞄を置いて座る

(今日は数学の復習をしよう)

授業で習ったばかりだけど難しくてあまり理解のできなかった数学の教科書と放課後の勉強用のノートを取り出す
教科書に載っている例題文の数式をノートに書きこむ
そして解き方を説明している図式に目をむけるもなぜそこでそういう式になるのかがわからない
教科書とノートをじっと見てもどうしてそうなるのかがわかるはずなくいつものように気分転換に空を見ようと視線を机から窓にうつす

青くて広々と広がる空
勉強でつまずいたりすると昼夜問わずみているのが癖になっている
何も考えずぼーっとみてるとなんとなく頭の中がクリアになって段々と何がわからないのかがはっきりしてくる
そうしているうちに頭の中でぐるぐる巻きになっていた紐がほどけたように理解できなかったことがなんとなくわかるよな気がしてきて
そして問題文をみると実際にわからなかった問題が解けてしまうのだ

いつものようにぼーっと空を見ている私
隣の椅子がひかれて誰かが座った気配がするけどそれでも私の視線は空から動かない
たとえ誰かが来たとしても気にせずいつも視線を空に向けたまま変わることがない私の視線
でも今日は違う
隣から突然噴き出すような笑い声が聞こえたのだ
その声に思考が引き戻されて窓から視線を隣の席に向けると

「キミ、いつもそうしてるでしょ」

そこには机に頬杖をついて私を見ている月島君が座っていた
突然のことに頭がついていかないし部活は?とか山口君は?とかもう頭の中はなんで?なんで?と混乱が治まる事はない
そんな私を頬杖をついたまま面白そうに見ていた月島君が私の目の前にある教科書をみて「今日の授業?」と声をかけてきた
こくりと頷いて肯定の意を示す。
びっくりしすぎてまだ声が出せないのだからしかたない

「昔から数学が苦手だよね」

そう言って教科書の公式の解き方を丁寧に説明してくれる月島君
どうして私が数学が苦手なことを知っているんだろう?
驚きすぎて聞き流したけれどさっきも『いつもそうしてる』と言っていた
数学よりもわからないこの事態にぼーっと月島君を見ていると

「・・・ちょっと。聞いてる?」

鋭い声にハッとなって教科書に視線をうつした
それに満足したように続きを説明してくれる月島君
その声に耳を傾けながら図式を見ていると先ほどまで理解ができなかったのが嘘のように理解できた

「…理解できた?」

月島君のおかげでぐるぐる巻きに絡まっていた糸がほどけたので理解できたことを伝えるために何度も頷く
そうすると月島君は「じゃあこっちの問題解いてみて」と先ほどの図式の載っていた問題の下の問を指で叩く
それに素直に従ってノートに数式を書き先ほど聞いた通りの公式を使って問題を解いていく
「次はこれ」と言われ教科書の問題をどんどんさしてくる月島君とそれに反応してノートに書きこむ私
そうしている間に今日授業で習ったところ全部の問題を解き終えた
・・・あっているかわからないけど

でも月島君をみると満足そうだったので安堵の息が漏れる

「やればできるんだね」

少し小ばかにしたような表情と言葉
いつも遠くから見てた見慣れたその姿にあ、ほんとに月島君なんだと理解する

「榎本さんっていつもそうしてるけど空好きなの?」

ぼけーっと月島君を見ていたら視線をそらしながらぽつりと言われた言葉
『榎本さん』という私を認識している呼び方と『いつもそうしてる』という最初に気になった言葉

「うん、昼でも夜でも空を見るのは好き…かな」

そして初めてまともに会話をしているという事実に気づいてしまった
途端に恥ずかしくなって顔を見られないように下を向く

「昔から空見てるのは知ってたけど夜もなんだ」

抑揚のない声で淡々と話す月島君
なにやらいろいろ聞きたいけどそんな勇気があれば小学生や中学生の時に会話の1つくらいしている
そんな聞きたいけど聞けないみたいな葛藤でぐるぐるしてる私とは反対に落ち着いた様子の月島君はなにを考えているのかわからない

「星とか、月とかも好きなの?」
「月をみるのが1番好きかな」

なんて答えようどうしようと脳内パニックの私なりに精一杯質問に答える
答えたところで月島君が黙ってしまったので沈黙が続く
2人並んで座る静かな図書室。
質問に答えるのもいっぱいいっぱいだけど沈黙はどうしたらいいのかわからないからもっと困る!

(ねぇこれどういう状況!?どうしたらいいの!?どうしてこうなってるの!?)

「・・・キミは昔からかわらないよね」

その言葉に顔をあげるとこっちをみてる月島君と目が合う

「小学校でも中学でもいつも放課後図書室にいて、一番奥の窓際に座って時々ぼーっと空を見てた」

「空ばかり見てる変な奴だと思ってたら空以外にぼーっと何かをみてることに気づいて」

「その目に何が映ってるのか段々気になった」

抑揚のない淡々とした声で紡がれる言葉
その言葉は私が一方的に知っていると思っていたそれとは逆で彼も私の知らないところで私を見ていたという意味で
それを理解すると同時に顔に熱が集まるのを感じた

「高校に入っても同じ様にたまにぼーっと何かを見てるよね」

「ねぇ、榎本さん。キミは何を見てるの」

真剣な目で私を見た彼から目が離せない
恥ずかしいのに、彼の姿をとらえた目はそのまま固定されたように他の物をうつさない

「・・・その視線が答え?」

驚いて目を見開く私
きっと本人は無意識だと思う
昔一度だけ見た私が月島君を好きになったあの優しい表情をしていたから

知らないと思ってた。私が一方的に知ってる思ってた
でも違った知っててくれた、私の知らないところで私を見ててくれていた

誰にも知られず終わると思ってた初恋
もしかしたら、それは今からはじまるのかもしれない


交わる視線

(僕だってずっとキミを見てたよ)



2022/0619

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