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幼馴染と親友と私


「クロさんや」
「なんだいコウさん」
「研磨とクロの学年が違ったらよかったのにと思うことがあるのだがどうだろう」

幼馴染と並んで歩く廊下
前々からちょっと思っていたことを言ってみた
そしたら顔を引きつらせながら私を見るクロ

「なになに俺より研磨とタメが良かったの?」

ひくひくと口が引きつってる割にはっきりと言葉にしたクロに「うん」と頷く
その瞬間大げさにリアクションをとるクロ

「それさすがに傷つくんですけどー?」

俯いて口を尖らせていうクロ
いや、背やたら高いから俯いても表情丸見えですけど?

「えーだって研磨が同じクラスだったら様子見てられるし、誰かさんみたいに人のことおもちゃにして遊ばないじゃん断然研磨がいい」
「オイ、マジで泣くぞ?いいのか?」

微妙に泣きそうな顔をしているけどそんなの普段の行いが悪いと思うわけですよ、私は

「んー夜久と研磨がクラスメイトか!いい!!」

クロを無視して想像してみる
面倒見よくて話しやすい夜久と幼馴染で静かだけど人のことに良く気づいて心配してくれる優しい研磨
別にクロが冷たいってわけじゃない
クロも何かあったときとか気づいてくれるし優しい…
けどどちらかといえばからかわれたりすることのが多いから遊ばれてる感の方が強い
からかわれて遊ばれてると感じるこちらとしては面白くないわけですよ、だから研磨のが平和かなって思うわけです

「榎本?何意味の分からないこと言ってんだ?」

声をかけられて振り向くとクラスメイトの夜久
「おはよー」と声をかけると「おす」と軽く手をあげてこたえてくれた
そしてそのままクロとは反対側の隣を歩き始める

「いやね、クロと研磨の年齢が逆だったらよかったのに!って話してたの」

それを聞いてちらりとクロをみる夜久にならって私もクロをみる
クロは絶賛ガチへこみ中のようで目じりに涙が見えた
夜久は何とも言えない顔をして私に視線を戻す

「榎本はなんでそう思うわけ?」
「えー?だって教室での研磨の様子見れるし、クロと違ってヤなこと言わないし、平和かなって」

先ほどクロに伝えたのと同じように夜久に伝える
なるほどなーなんて頷いている夜久
わかってくれたか友よ!私は嬉しい!
笑顔の私とほろりと涙を一筋流すクロの対極の表情を見て苦笑いした後、少し考えるような表情をして

「でもさ、それだとお前ら3人の関係って今と違うんじゃね?」

そういった
その言葉に私とクロはお互いの顔を見る

「黒尾の性格も研磨の性格もそのままだったら小学生の頃はまだ3人でつるんでたと思うけどさ」

小学生時代…
研磨の家の隣にクロが引っ越してきた
それまで基本的に引きこもってゲームをしている研磨と一緒になって漫画を読んでいた私を外に引っ張って連れ出したのはクロだ
だから学校から帰ったらだいたい3人で一緒に過ごした
クロと研磨のバレーの練習する姿を見たり、ボール出しをしたりしてなかなかに楽しかった記憶がある

「中学で研磨がバレー部に入ったのは黒尾がいたからだろ?」

中学時代…
1年早く中学生になった私とクロ
クロはもちろんバレー部に入って毎日部活を頑張っていた
私は特に何かをするでもなく、ただ適当に過ごした
適当に過ごした中学生活が2年目になった時、研磨が入学してきてクロに勧められるままバレー部に入った
2人と一緒にいたくて部活もないのに早起きをしたり、部活の終わる時間まで図書室で待ったりして3人でまた一緒にいるようになった
1年生の時はあんなに退屈だと思っていた中学生活が2年生、3年生の時は退屈なんて1度も思ったことがないくらい楽しかった

「研磨が高校を音駒にしたのも黒尾と榎本がいたからって気がするし」

そういえば進路決めるとき私もクロが音駒って言ったからなら自分も音駒かなぁなんて考えたのを思い出す
多分クロから音駒に来いよと言われて研磨も音駒に来たんだろう
想像するのは簡単だった

夜久の言葉に脳裏に浮かぶ『当たり前』だった過去の思い出たち
そこにはいつもクロがいて私と研磨を引っ張ってくれていた
研磨はクロがいたから外に出るようになったし、バレーを始めたし、音駒高校に入学した
私もクロの影響で変わったこともあるし、音駒に入学したのもクロと一緒の学校に行くのが自分の中で『当たり前の選択』だったから

「もし1つ上に黒尾がいなかったら研磨、バレーしてないだろうし音駒に入学しなかったかもしれないじゃん?」

小学生までならクロにつきあってバレーしていたかもしれない
でも他人が苦手、体育系のノリが好きじゃない研磨が知らない人だらけの中学で部活をしていただろうか?
しかも運動部…
うん、絶対にバレー部になんて入ってない。私と同じ帰宅部だ
まぁ、それはそれで昔みたいに研磨はゲーム、私は本を読んで一緒に過ごしていたかもしれない
でも1年遅く入学してきたクロがバレー部に入ったとしてもきっと研磨は入らない
研磨がバレーをする姿を見ることは中学以降はなくなっていただろう

音駒に入学したのだってそうだ
研磨のことだから家から近いところで楽に入れるところとかにしていたかもしれない
私も音駒を選ばなかったかもしれない
それでもクロは単身音駒に通っているかもしれない
3人がバラバラに別の道を進んでいた可能性がないとは言えない

研磨が中学でバレーをしていたのも、音駒に入学したのも、今でもバレーをしているのも
私が当たり前のように音駒への進学を決めて受験勉強を頑張って今音駒の生徒でいるのも
全部、クロが先に進んで道を作っていたからくっついてきたと言える

「そうなると黒尾も研磨も榎本も今とは違ってたんじゃないか?」
「!」
「コウ?どした?」

もしかしたら3人バラバラだったかもしれないと考えるだけで嫌だ
想像してしまって悲しくなった私は顔を下に向ける
クロはもちろん夜久よりも身長の低い私の表情は2人には見えていない

「で、ついでに言っとくと黒尾じゃなくて榎本が1つ下の学年だったとして」

顔をあげない私をちらりと見て話し続ける夜久

「榎本が研磨とそろって音駒に入学したとしても海もそうだけど俺と同じクラスってことは絶対になれないし同じ時間共有できないからな」

クロや夜久に比べたら自己主張はあんまりないけどいつも優しくて困ってたら助けてくれる海
それにある意味奇跡的に3年間ずっと同じクラスでクロと研磨を抜いたら高校で1番仲がいいと思ってる夜久
そんな2人とも同じ時間を過ごすことはなかった?
この学年にクロがいなくても私がいなくても今の楽しい高校生活は過ごせない
そう考えたところで歩いていた足がぴたりと止まる

だって今の高校生活すごく楽しくて
一緒にバカやってくれるクロとそれをみて笑ったりつっこみを入れる夜久がいて、優しく見守ってくれる海がいて
毎日面白おかしく笑いながら過ごしてる時間がなにか1つ違うだけでなくなるの?
そんな高校生活なんて…

「ヤダ!!」

バッと顔をあげてクロと夜久をみる

「コウ、お前さぁ…散々俺と研磨と学年入れ替えたいって話したくせに…」
「榎本…」

眉を下げてしょうがねぇなって顔をするクロと驚いたような顔をした後苦笑いをした夜久

「想像だけでそんな泣くな」

私の両目からはポロポロと涙があふれて頬を伝いそのまま床に落ちて廊下に水滴が数か所できる
クロは私の頭に手を置いてぽんぽんとあやしてくれる
意地悪なことも多いけどこういう時のクロは困ったような表情をすることもあるけど言葉やあやしてくれる手はいつだって優しい

「クロ…」
「なんだいコウさん」

その優しい手と自分の発言の無神経さに余計に涙があふれてぽろぽろどころかボロボロと次から次へと涙があふれてくる

「酷いこと言ってごめんなさい」

でもそんなの気にしてる場合じゃない
だってこんなに悲しい思いをクロにさせたのだから
謝ってすむ話じゃないけれどあまりにも無神経な話をした事をちゃんと謝らなければとクロの目を見て謝罪する

「ごめん、ごめんね。クロ」
「泣くなよ。お前が今の高校生活楽しんでるのは見ててわかってるしな。後、すこーしからかいすぎた俺も悪い」

親指と人差し指を少しだけ開くちょっと悪戯っぽい仕草をしながらおどけた口調でクロが言う
私が気にしすぎないようにあえてそういう行動をとるクロ
ほんとになんて無神経なことを言ってしまったんだろう

「…それと夜久!」

自分の言動に後悔しつつクロから視線を外して私たちの様子を黙ってみていた夜久の方をみる
それに反応して夜久がビクッと肩を震わせる
自分が呼ばれるとは思っていなかったみたいだけど私は伝えたいことがある

「気づかせてくれて、ありがとう!」

夜久の目を見て自分がどれだけ馬鹿なことを言ったのか気づかせてくれたことへのお礼を言う
夜久がいなかったら私は軽く言った言葉でクロを酷く傷つけてしまっていたことにも
今の『当たり前』の自分の生活が全然違うものになっていた可能性にも気づけなかった
キョトンとした顔をした後「おう!」とニッと歯を見せて笑ってくれた
2人を見上げていた首を下げ自分の目線に戻してまっすぐ前を向いて目元を制服の裾でごしごしとこすり涙を拭く

「今のままがいい。クロと同い年で、教室には夜久がいて、海の教室に行けば優しく迎えてくれる。そんな今の学校生活が好き」

そういうと2人とも笑ってくれた
でも「そんな拭き方したら目元痛いでしょうが。ハンカチ使いなさいよ」とクロ
その反対側から「榎本ってこういうとこ男っぽいよな」と笑う夜久

「女の子よりクロや研磨とずっと長い時間一緒にいたし、高校では夜久とずっと一緒だったんだから今更女子っぽさ求めないでくださーい」

また2人を見上げてニシシと笑う

「まぁ、確かに女子って感じがあんまりしないのがコウっぽいよな」
「これぞ榎本って感じだし今更だよな」

2人もそう言って笑う

「おいこら、一応女子だぞ」

そういうと「自分でも一応っていってんじゃねぇか」ってケラケラと笑う声が廊下に響く
「夜久は一応男子だなーって思う時あるけどクロは身長だけだからね?」と言い返すと
「一応ってなんだよ!」と「身長だけってどういう意味だこら!」と同時に聞こえてきておかしくて笑う
やっぱり今の高校生活が好きだな
「2人ともありがとね」と小さくつぶやくと2人して「何か言ったか?」って聞いてきたから
「なんでもなーい」と止まっていた足を動かして1人先に教室に向かって走り出した


幼馴染と親友と私


(コウ!廊下走ったら危ないだろうが!)
(黒尾は榎本の保護者か?)
(あいつは昔からすぐ転ぶし、他にもいろいろ危なっかしくて目が離せないんだよ)
(榎本に彼氏とかできたらお前泣きそうだな)
(…別に泣かねぇし!?)
(いや、お前も想像で泣きそうになってんじゃねぇか)



2022/6/3

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