桜のみる夢 | ナノ


 騎士の友人

登城すると 明るい声が主を呼び止めた
彼は主と気さくに挨拶を交わし 私にもお声掛けくださった
そして今は大きく可憐な目で
あらゆる角度から私を眺めている

「フェリスは昨日、クルシュ様の政務に同行していたのだったね」
「そうなのー。昨日の夜に情報は入ってきたんだけどね。
 今日この子を見れるかなって楽しみにしてたんだ」

青を基調とした可愛らしい衣に身を包んだ 少女のような彼の
薄茶の髪を分けて時々動く猫のような耳がとても気になる
本音を言えば ────愛でたくてうずうずとする

「ここまで真っ黒い髪って珍しいね。
 目なんか魔石みたい……綺麗……
 そういえば、ずっと実体化してるの?それって大丈夫?」

フェリス様に見つめられて問われ 我に返る

この躯体は 人とは成り立ちが異なるだろうが
完全に物質の体を成しており解き方が分からないのだ
身を保障してもらっていて
さらに重荷になるのは流石に心苦しい

「やはり負担でしょうか?私は特に障りないのですが……」

「いや、私もむしろ普段より身体が軽く感じられるぐらいだ。セレを通して、穏やかにマナが充填されているような感覚さえある」

不思議そうに答える主にほっと気を休める
どうやら枷にはなっていないらしい

「へぇ、この子の性質かな?」
「その可能性が高いと思っているよ」

なるほど渇きを感じないのはそのお陰かもしれない
思わぬ自分の力の一片を知ることができた

また 主が仰るには 媒体となる魔石を新たに用意すれば
問題なく実体化を解けるだろうとのこと

適した魔石を調べるため
空き時間に私の属性を確認することになった
時間が合えばフェリス様も来られるらしい

どのような力を扱えるか
幼子がはしゃぐ様な期待が身体を満たした





本日は日が真上にのぼるまで
主は近衛騎士の訓練に指導として当たる
騎士の上衣を預かり 控えて見ているだけだが
全く飽きない

お手本の型が流麗さで磨かれたような
美しい捌きの剣技

その軌跡は 水流が日の光を照り返す様だ
煌めいて風を裂き 高い硬質な音を響かせて
相手方の剣と迫り合う

心地よい日差しだが
動き回る騎士達はほんのり汗ばんでいる
主もそれは同様で 加えて指導の際の厳しい面立ちが とても

────?
今私は何を思った

ざわついた魔力の乱れに主が気付いたようで
琥珀色の瞳が此方に向けられる
心のうちを探るような気配がした

まずい 余計な心配をかけてはならない
正直なところ よりざわつきそうになった心を
意識して平らに保つ

凪いだ魔力に 再び訓練へ集中する主
私も意識諸々の自制の訓練が必要だな

"最優"に仕えるに相応しい器にならなければ

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