桜のみる夢 | ナノ


 竜歴石の間

ここはどこだろう

未だ白い靄が立っているような思考のなか
石造りの空間に降り立つと
冷やりとした感覚に驚く

まるで大雪が積もった時のようだ
そう思いながら冷たい感覚の先を見ると
自分に人の子のような四肢がある事に気付いた

しかも武家の子が着るような
白く美しい衣を身に着けていた
これは婚礼の儀の際に着るものではなかったか

状況についてゆけず混乱する

自分の物らしい手足を
まじまじと眺め動かしてみる
動かし方が自ずと分かる奇妙な感覚に更に混乱した

衣の裾を引きずりながら前へ歩いてみる
もしや朽ちる間際に願ったことが
叶ってしまったのだろうか……

だとしたら火を消したり
命を救うこともできるのだろうか?

そもそもこれは現実なのか

今は冬で知らぬ間に休眠に入り
夢をみているのでは
私もいよいよ大樹の諸先輩方や
老いた人の子のようにボケが始まったのでは

とりとめなく考えながら
目の前の石板に手を伸ばしてなんとなく触れてみる
"物に触れた"という感覚が身体に刻まれた

自らの意思で身体を動かすとは こんな感覚なのだな
しみじみしていると背後で扉が開け放たれた
驚き振り返ると武装した者が
瞬く間に何人も入ってきて囲まれてしまった

どうやら何者だと
どうやって入ってきたのかと訊かれているようだ

"ようだ"というのは 実は彼らの言葉が
聞き馴染みのないもので分からないのだが
私は人の子や生物の意思を
感じ取る事ができるのである

今まで不自由したことはないが
答えるにはどうすればよいのか

人の子のように口から声を発したとしても
言葉を理解してもらえぬだろう
仕方なく樹木間の意思疎通のように
思念をそのまま発してみると
前の方にいた者が数名意識を失ってしまった


強すぎたか
加減がむずかしい


これを機に敵対心があると思われてしまったのか
警戒が強まり刃物が鞘から抜かれ 向けられる
これはよろしくないな
ただちに攻撃されるという事はないようではあるが

どうすべきかと困っていると
藤の花を思わせる髪色の青年が前に進んできた


青年の目と私の目が合う
身体のなかでぐらりとなにかが揺れ
動きそうになった足を既の所で縫い止める

意志の強そうな目
その身に纏う高潔かつ柔らかな空気

存在から視線が逸らせない
惹き付けられる


これが後に私の主となる青年との出逢いだった

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