人肌渇望症 | ナノ


 レッド・ヴェルヴェット・ケーキ

あったかい、な……


「しょ、と……?」


?、匂いが違う……?


「と、どろきさん、はぁっ、頭とか、打ってない?」
「はっ……ん、ゃぁ……」
「うえっ!?」


突然感じた、耳元へのあたたかい息と優しい声。
ゾクゾクと駆ける刺激のままに声を漏らしてしまった。
こんなのクラスメイトに聞かせて良い声じゃない……!!


我に返って現状を確認する。

一瞬、意識を飛ばしてしまっていたみたい。
私は庇うように緑谷くんの腕に抱かれていた。意外と身体、ガッチリしてる。パワータイプの個性だから当然か。

……あったかくて、すがってしまいそうになる、優しい腕だな……

…………なんてことを考えてるんだろう。

顔の火照りを感じながら身体を起こした。
睫毛や頬の霜が溶けて口元に流れる。今、もしかしたら顔真っ赤かもしれない。

「ごめん、変な声出た」
「いや僕こそごごごごめごめごめ」

緑谷くんも慌てふためきながら起き上がった。けれどすぐにピタッと動きを止めて四つ這いになったまま固まってしまった。どうしたんだろう、庇ってくれたときにどこか痛めた?

「大丈夫? 足捻った?」
「ちが、何でもないから、大丈夫、」
「肩貸そうか……あっ敵役だからダメか……?」
「あっ、今はっ、」

尚も顔を伏せる緑谷くんを覗きこんでみるといつもの10倍は真っ赤で、もはや完熟トマトなレベルに顔を染めていた。
どうしてそんな……
思案して、ひとつの仮説にたどり着く。

「あ……? もしかして私の所為……?」

ひゅっ、と息を吸い込む音が鼓膜に届く。

「声で勃っちゃった……?」
「ッ、あ、」

顔を上げた彼と目が合う。
目線がふらついて、震えてる。知ってる、これは……絶望だ。


…………堪らなく、疼く。


「ごめ、嫌わないで、ほしい……」
「き、嫌うわけないよ、私が原因なんだから」

むしろ、可愛い、愛しい、なんて思ってしまう。
誰かに欲されている嬉しさ。
どうしよう、こんな感情絶対ダメなのに。

ドキドキと速まる胸の鼓動、暴れ出しそうな熱を、拳を握って抑える。

それよりも今は……
へたりこんだ緑谷くんの手をとって、そっと包み込んだ。
ごめん焦凍、演習中だから……震える手に安心をあげなきゃ、だから。

「……大丈夫だよ、全然嫌じゃない」
「とどろき、さ」
「デリカシーなさすぎてごめん……」

できるだけ落ち着いて、なんでもない風に話しかけて謝った。不安に揺れる潤んだ瞳が、また私の脳を揺さぶったけれど、唾を呑み込んで堪えた。

「違うんだ……」
「え?」
「昨日、」
「昨日?」

《 時間切れにより敵チームの勝利!! 》

あ……演習終わっちゃった。
敵側の勝利だけど建物壊しすぎた私は評価が低そう。
その時ぱっ、と緑谷くんが手を引っ込めて、顔を覆ってしまった。

「なんでも、ない……」

言いかけた言葉をはぐらかすその声は、一段落ちて少し低かった。
なんだろう、昨日?
……まさか、

「昨日も、聞いた? 私の、そういう声……」

折角はぐらかしてくれた彼の意思に、私は踏み込む。
緑谷くんは顔を隠したまま小さく、ほんとに小さく頷いた。

今度は私がまた、真っ赤になる番だった。

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