保護しました
その幼い男の子は暗がりの中で蹲っていた。
そっと近づき周囲に散乱したガラスと少し前まで″人だったもの″を避けて目線を合わせられる様に膝をつく。
「こんばんは」
静かに話しかけると狭い路地でも声がよく通った。
ゆっくりと上げられた顔には真新しい傷があり、血のような色の瞳に映っていたのは空虚と警戒。孤独を物語るそれがとても澄んだ色彩をしていて宝石の様だと思った。
「さっきの見てたよ」
そう言うとビクリと肩を震わせてまた俯いてしまった。
「怖かったでしょう。助けに入れなくて、ごめんね」
言葉が予想外だったのかその綺麗な絶望色が再び私を映す。
小さな口が開かれぽつりと幼い少年の声が空気に消える。
掠れた、小さな小さな声だ。
「……怖くないの」
「怖くないよ。……傷、手当てしようか。
騙されたと思ってついておいで。
怖くなったら、いつでもさっきみたいにして
身を守っていいから」
ぽろりぽろりと流れ落ちる涙。
なんだ、まだまだ感情は生きているらしい。
了承の意はまだ聞いていないけれど、男の子をそっと抱きしめてそのまま立ち上がった。
軽い、異様に軽い身体だ。
骨ばった身体を抱えたまま瓦礫をパキリ、ジャリ、と踏みながら立ち去る。
少年の蹲っていた暗がりは再び静まり返った。
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