夢 | ナノ
2
あか、しろ、みどり、もも、きいろ。


色とりどりの服をきた人でひしめいている。
冬の快晴のした。

喜んでいる人、悲しんでいる人、手を取り合って笑っている人、慰める人。
その中であたしは、自分の数字をさがした。





手が震えて、携帯を地面にとりおとしてしまった。
先生が買ってくれた合格祈願のおまもりが砂埃でよごれてしまう。
あわてて土をはらい、深呼吸をひとつ。
震える指で画面を操作し、『カカシ先生』の名前をさがす。
2コール目で先生は電話に出た。

「睦月?」
「……」
「もしもし」
「……せんせい」

先生の声を聞いた途端、涙腺が緩んで、一気に視界に水がはる。

「睦月……いまそっち行くから」
「え?」

そのまま通話を切られて、そっち行くってどういうこと?と呆然としていると、

「睦月!」

後ろから聞きなれた声。
うそだ、と思ってふりむけば、私服のカカシ先生が、白い息を吐きながら、校門からはいってくるところだった。

「カカシ先生、どうして」
「……どうだった?」
そう聞かれた瞬間に、耐えられず涙が零れた。
「先生、あたし……わっ!?」

言いかけた途端、信じられない事が起こった。
カカシ先生に抱きしめられてる!?

「せ、せんせい??」
「睦月ががんばってきたのをオレはずっと見てきたから」

先生の腕がきつくなる。先生の胸に顔をうずめたまま、あたしは何が何だかわからなくて、壊れそうなほど胸がどきどきした。

「お前のがんばったことは無駄じゃない。お前が一生懸命に勉強してきたことはおまえ自身が一番わかっているはずだし、オレもそばでずっと見てたから知ってるよ。だから、」
「ちょ、ちょっと待ってください。無駄になってません!」
「……え?」
「がんばったこと、無駄になってませんでした。あたし、合格してました!!」

緩んだ腕から抜け出して、カカシ先生の顔をみたら、鳩が豆鉄砲をくらったみたいに先生は呆然としていた。

そして、
「はぁっ……良かった」
心の底からほっとした様子で、そう言ってくれた。
ますます涙がこみあげてきて、あたしは目を擦った。

「ああもう。何なのオマエ。嬉しいんだから泣くとこじゃないでしょーが」
「だって・・・ぜんぜぇ・・・ほんどにありがとうございまじだ」
「ホラ鼻水ふいて。あーもう。はぁ。ほんとに良かった」

先生がダークグレーのハンカチを差し出してくれる。すこしためらっていると、「いいから拭きなさい」と鼻にあてられた。そんなにひどい顔ですか?

ふと周りをみると、ちらちらと、視線を感じて、なんとなく注目を集めてしまったような気がする。
そうだ、あたし今、だきしめられてたんだ!!

「今度は赤くなった。忙しいなお前は」
「だって、先生が。……あ、」
「何?」
「先生とか言ってたら、ヤバイですね。も、問題になっちゃう」

あわてて声をひそめたら、先生が噴出した。

「えー、なんで笑うんですか」

あたしと先生じゃ、禁断の関係に見えようが無い、ってこと?

「いや……、ま、先生しか言ってないし、家庭教師かなんかに見えるんじゃない?」
「家庭教師だったらいいんですか?」
「いいって事は無いだろうけど」

先生が急に頭に手をのせてきて、どきっとして見上げた。カカシ先生は今まで見てきた中で一番優しい顔で微笑んでいて、ますますどきどきしてしまう。

先生の大きな手に頭を撫でられて、それがとてつもなく心地よくて、ほうけていると

「おめでとう。よくがんばったな」

と先生の優しい声。これ以上のご褒美ってないよ。

「うう……」
「こら、また泣くな」

先生、先生、好きです。

カカシ先生、大好きです。



「先生いいんですか。あたしだけ、ひいきじゃないですか?」
「今更ひいきもなにもないでしょ。今年は担任しているクラスも無かったし、園芸部3年はお前だけだし、ま、いいんじゃない」
「そうなんですか」
「……プライベートの過ごし方にまで、誰も口出ししてこないよ」
「今はプライベートなんですか」

先生としてじゃなく、カカシ先生個人として、あたしに会いにきてくれたってこと?カカシ先生はそれには答えず、静かに微笑んだ。

近くのコインパーキングに車を停めてあるそうで、「送るよ」と言ってくれて、先に歩き出してしまった。

先生の車に乗せてもらうのは初めてだ。

銀色の艶やかな車体が、カカシ先生に似合っている。助手席に座ると、「シートベルト閉めた?」と確認された。

こんなふうに助手席に座ったことのある女の人が他にもいたんだろうか。今は、いるのかな?考え出すと気分が沈みそうで、ぶんぶん頭をふる。

「え、閉めなさいよ」
「あ!シートベルトは閉めてます!」

慌てて言えば、変な奴、とカカシ先生が笑う。カカシ先生に変とか言われたくない。

車が緩やかに発進して、あたしは初めてみる先生の運転姿をまじまじみつめた。

「見られてると気になる」
「あっ、すみません」
「見てたっていいけど」

車内に沈黙がおちる。
先生、運転中は音楽かけない人なのかな。
先生の運転ってたぶんうまい。
あたしは免許をもっていないので、上手い下手はわからないのだけど、うちのお父さんの運転はもっと、信号が赤になって停止するときはがくんってするし、発進するときもがくってする。先生の運転はそういうことが全然ない。すっごく快適だ。

先生が好きだっていつ言おう。



「木の葉駅の近くだったよな?」
「あ、はい。北口から10分しないくらいです」

悩んでいるうちに家についてしまいそうだ。

「ご両親にはもう電話した?」
「あ、さっき父母にメールしました」
「オレには電話くれたのに」
「だって、先生に一番に電話したら、先生がきてくれたから」
「そうか。親御さんに悪いことしたな」

木の葉駅の踏み切りを通過して、見慣れた大通りに出た。

「ここから道案内してくれる?」
「はい。もうすこしいって、二つ目の信号を右です」

先生に好きっていわなきゃ、好きっていわなきゃ

「次も右?」
「好きです!」
「……ぶはっ」

思わず口をついて出た言葉。
自分でも突拍子もないとおもうけど、笑うなんてひどい。
先生を睨みつけたら、「いきなりすぎて」とまた笑う。

もう、ムードも何もありゃしない。だけど、口から出てしまったものはしょうがない。

「だって、す、好きです。カカシ先生」
「うん」
「大好きです。初めて先生とお話した時からずっと、好きです!あ、そこは右です!」
「くくっ。ハイ、右ね」

先生は笑っているし、あたしはてんぱっているし、なんだかもう、あー!!って感じだけど。
先生がほんとに楽しそうに笑っているから、いっか。いや、よくないか。

そして、家の前に着いてしまった。先生は車を停めると、キーを回してエンジンも切った。

「送ってくれてありがとうございました」
「うん。本当に合格おめでとう。睦月」
「……あの」
「ん?」
「さっきの返事は、いただけないんでしょうか」
「……3月、卒業するまで待って。……っていうのは流石にかわいそうか」

カカシ先生があたしをじっと見る。
優しい目の奥に答えをさがす。心臓の音がうるさいくらいになって、全身があつくなる。

「俺も晴が好きだよ。はじめて話した時からずっと」

膝からくずれてしまいそうなほど驚きながら、思い出すのは花壇の前に座る白衣の後ろ姿。
通いなれた高校の、三度目の桜の季節。

「何やってるんですか」
「苺狩りだよ」
「苺狩り!?」

白衣の不思議な先生との、不思議な出会いが、あたしの高校生活をいっぺんにカラフルにした。

カカシ先生に出会って、先生を好きになって、学校がもっと好きになって、いつまでも通っていたいって、そう願うようになった。

でも、もうすぐ卒業。

それがすこし寂しくもあり、
今は、おおいに楽しみでもある。


春からはまた別の場所で桜を見て、また別の場所で沢山の色をみつけていくんだろう。あかやしろやみどりやももやきいろを、カカシ先生の隣で。

ポケットの中の飴玉がちょうどふたつ残ってて、先生にあげたら
「まだ残ってたの?」
って、優しく笑ってくれた。

春はもうすぐ。
end.


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