午後三時、水ノ国駅前の時計台はオルゴール調のメロディを奏でた。明るい曲調なのに、オルゴールのゆったりとした響きが今は哀しく聞こえる。
とぼとぼと改札に向かって歩きながら、頭のなかはぐちゃぐちゃだった。
リンはカカシの事をいつから好きだったんだろう。
中学生の時から?それとも小学生?昔から、あの三人は仲が良かったみたいだから、……リンはずっとカカシの事が好きで、そんなリンをオビトはずっと見てきたのかな。
それに比べてあたしは、最近までオビトの事が好きだったのに。今はカカシと一緒にいると楽しかったり、どきどきしたりする。
あたしはカカシの事が好きなんだろうか。
最近何度も頭を掠めるようになったこの問いは、答えが出ないままだった。……リンやオビトの片想いに比べたら、あたしの気持ちなんて。
「晴ちゃん!待って……!」
振り向くと、走ってきたリンが息を切らして立っていた。
「晴ちゃん、多分勘違いしてる……」
「勘違い?」
「私がカカシのこと好きだって……勘違いだから」
リンはそう言ったけれど、強ばった表情が辛そうで、見ていられなかった。
「……リン、嘘つかなくていいよ」
何で嘘つくの?言外に疑問を滲ませながらリンの事を見つめる。
「嘘なんてついてない。……私はもう……三年前にカカシに告白して、ふられてるんだ」
「え……」
「だからもう終わってるんだよ」
リンは今にもなきだしそうな顔で、無理に笑っている。……そんな顔されて、終わってるっていわれても……全然終わってなんか……。
「……晴ちゃんとカカシが付き合ってるのかもって気づいた時、最初は驚いたけど嬉しかったんだよ。晴ちゃんも、カカシも、私にとって大切な人だから」
「ま、まって。あたし達、付き合ってないよ?リンのほうこそ勘違いしてる」
「そうなの?……でも、二人とも仲良しだし、……カカシは、晴ちゃんのことが好きなんだって、見てたらわかるの。晴ちゃんも、カカシのこと……」
「あたしは……」
あたしは、カカシの事が好きなんだろうか?
答える言葉に迷って口をつぐんだ。
「確かに私は昔、カカシのことが好きだった。……でも、もう諦めたの。今はカカシを大切な友達だとおもってる。だからもう……好きじゃないから」
リンが必死に作り笑顔するのが苦しかった。
今のリンは、いつかのあたしに似ている。もう好きでいちゃいけないんだって、そう思い込もうとしていた、いつかのあたしに。
あたしが口を開こうとした時、リンの後ろから声がした。
「好きな奴に好きな奴がいるからって諦めるのかよ」
「オビト……!」
リンが驚いてふりむいた先に、オビトが立っていた。
「リンは言い訳してるだけだ。ふられたから諦めたんじゃない。ふられたって、リンはずっとアイツばっかり見てきただろ」
「そんなことないよ……」
「そんなことあるよ。オレはずっとリンを見てきたからわかる。リンは……カカシに好きな奴がいるからって、諦めようとしてるだけだ」
「……」
「好きな奴がいるからって、諦められるような気持ちなのかよ」
あたしはオビトとリンを見ながら、カカシとした会話を思い出していた。カカシがあたしの背中を押してくれた時の事を。
「……なんて、強く言い過ぎたけどさ。オレも少し前までは、リンと同じだった。好きな奴に好きな奴がいるんじゃ仕方ねーって、ぶつかりもしねーで最初から諦めてた。今を壊すくらいなら、このまま言わないでいようって……そう言い訳して諦めてたんだ」
オビトの話を、リンは黙って聞いている。
「でも……オレと同じような状況でも。真っ直ぐ、気持ちを伝えることから逃げなかった奴を見て、考えが変わったんだ」
オビトはそこで、視線をあたしにうつして、屈託なく笑った。
――オビトはきっと決意したんだ。自分の片想いに決着をつける事を。
あたしの不格好な告白も、無駄じゃなかったのかもしれない。
「そろそろ、あたし行くね」
「おう、またな晴!」
「晴ちゃん……」
「リン。あたし、前に話せなかった好きな人の事……好きだった人の事、いまはもう話せるよ。また今度、話聞いてくれる?それでできれば、リンの話もいつか聞きたい」
リンの眼にじわりと涙が張った。小さくうなずいたリンの肩にオビトが手を置いて慰める。
あたしは二人に手を降って、その場を立ち去った。
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