火ノ国駅は、都心から電車で一本、30分程度の場所にある。典型的なベッドタウンにある駅で、この駅を利用する人の数は、それなりに多い。

駅の周辺には朝6時から夜23時までのスーパーマーケット、本屋、レンタルショップ、美容室、薬局、個人病院なんかがあって、生活に必要なものは大体そろっている。といっても、ファッションビルのような建物は無いので、遊び場としては正直物足りない駅だと思う。

あたしの通う高校の最寄り駅ではあるものの、高校まではバスを使って15分かかる。火ノ国駅を使う生徒は、駅から自転車を使って20分くらい、坂道を登って登校している。

考えてみれば、大多数の生徒にとっては少々不便なところにある高校だ。あたしは電車通学をしておらず、徒歩通学圏内に住んでいるので、不便だと感じた事は無いのだけれど。正直、家から近くて制服が可愛いという理由で選んだ高校なのだ。

オビトとリンとカカシも、家から近いからこの高校を選んだんだろうか?ちなみに三人は、駅からすると、高校をさらに通り越した向こう側に住んでいる。



日曜日だというのに特に予定もないので、昼過ぎに駅前に出てきた。あたしの家からは自転車で10分程度だ。家でゴロゴロしていても、母やら姉やらの使いっぱしりになるだけだし、昨日リンと話せたおかげか、今日は何だか気分が良い。

レンタルショップで映画を物色したあと、本屋で雑誌を立ち読みした。漫画の新刊をチェックして、ふらふらと店内を見てまわり、平台の特集コーナーに目が止まる。

『意中の彼、仲良しの友達に、手作りチョコでキモチを贈ろう!』

ハート型のポップにまるい文字がおどっている。その下に、チョコレート色のレシピ本がずらりと並んでいた。バレンタイン、もう明後日なんだ。

ガトーショコラの写真が表紙の一冊を手にとり、開いてみる。
バレンタインぐらいしか作らないけれど、お菓子づくりは割と好きだ。
料理と違ってたっぷり時間をかけられるから、あんまり失敗しないし。

チョコレートクッキー、ブラウニー、石畳生チョコ。ぱらぱらページをめくれば、食べたくなるし、作りたくもなってくる。

でも、今年は……。

ぱたんと本を閉じ、元あった場所に戻した。
小さく溜め息が出てしまう。


「晴?」


突然、後ろから名前を呼ばれてびっくりした。

「あ、カカシ……」

振り向くと、銀髪の少年がたっていて、彼も少し驚いた様子であたしを見ていた。
今日は、いつもの白いマスクをしていない。形の良い唇と鼻筋に、思わず見とれてしまった。

「一人?……晴の私服はじめてみた」
「へ?…そういえば、そうだね」

鍋パの時も、家には自転車をとりに帰っただけですぐにカカシの家にむかったから、制服のままだったし、こうして休日にカカシに会うのは初めてだった。

今日のあたし、変な恰好してないよね……ばったり会ったクラスメイトにダサイと思われたら嫌だ。内心あわてながら自分の服をみかえしてみる。シンプルなAラインのワンピースと赤いハーフコート。適当に選んで出てきたけれど、変な恰好では無いと思う。心のなかでほっと息をついた。

「……へぇ」
「な、なに?」
「赤、似合うね」

カカシがにっこり笑った。あたしは何だか恥ずかしくなって、うまく言葉を返せなかった。
会ってすぐ、さらりと服装を褒めるなんて……カカシって、女の子慣れしているのかも。今日はマスクをしていないから余計に、カカシの柔らかい笑顔が見慣れなくて、俯いてしまう。

「買い物?」
「うん。ぶらぶら一人で買い物してた。カカシは?」
「オレも一人でぶらぶらしてた」

そういうカカシも、日曜日だから当然なんだけど私服を着ていた。黒いコートの襟元から、やはり黒いシャツが覗いている。下はカーキ色のパンツをあわせていた。

銀髪色白のカカシに、黒はよく似合う。背が高くて手足も長いから、何だかモデルの大学生みたいだ。姿勢はちょっぴり猫背だけれど。

『私服、かっこいいね』の一言が、素直に出てこない自分がちょっと情けない。カカシはさっき、あたしを褒めてくれたのに。でも、世の高校生は、みんながみんなカカシみたいにスマートではないのだ。だから、許してほしいと思う。


文庫本を三冊、会計しているカカシの背中をぼんやり見ながら待っていた。せっかくだからお茶でもしようという流れになったのだ。

男友達はオビトとカカシを除けばほぼ皆無、彼氏の一人も居たことがないあたしにとって、男の子とお茶をするというのは初めての事だった。

「お待たせ」

あ、なんかデートみたい……と思ってからぶんぶん頭をふる。カカシはただの友達なのに、あたしは何を考えているんだろう。

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