一斉に走り出して、10周も行かないうちに息が荒くなってきた。
あたしは走るのが嫌いだ。というか、体育全般、あんまり好きじゃない。一緒にスタートしたはずのリンの背中が、もうあんなに遠くに見える。しかも多分、あたしより2周回分くらい先を走っているに違いない。リンは運動神経がいいのだ。
あんなに足が細いのに、華奢なのに、運動も出来て、勉強も出来て、世の中不公平だよなあ。そんな事を考えてしまうのが、悔しくて情けなくて、嫌になる。だけど、リンの背中を見ているとつい、醜い嫉妬がうずまいてしまうのだ。
優しくて、可愛くて、とっても良い子で……そんなリンに比べて、あたしは何のとりえも無い。
どうしてこんな風に、リンと自分を比べてしまうようになっちゃったんだろう。
リンはあたしの親友なのに……。
あたしが心の中では、「リンに負けたくない」って思ってることを、リンが知ってしまったら……きっと、良い気持ちはしないだろう。
段々呼吸が整わなくなってきて、ちょっと歩いてしまおうか、なんて考えて、いや、歩いたら余計に疲れるから駄目だ、って思って、……気づいたら少し、減速していたらしい。
リンとの距離が、また遠くなった気がした。
不意に背中を叩かれて、「うわっ」と声をあげて振り返る。
「何とろとろ走ってるんだよ」
「オビトっ……!」
いきなり背中叩かないでよ!と怒るあたしに、オビトは、「お前追い越すのこれで3回目―っ!」なんて憎まれ口を言いながら笑って、先へ走っていってしまった。
叩かれた背中が熱い。
遠ざかっていくオビトの背中を見つめながら、あたしは少しだけ、スピードを上げた。だけど全然、差は縮まらなくて……コーナーを曲がりきった直線で、遠くに見えるオビトの前に、走っているリンの後ろ姿が見えた。
……あーあ。
なんだかもう、よくわかんないけど、涙が滲んできて、唇を噛む。
どうしてあたしはリンみたいに……そんな事を考えそうになって、途中でやめた。だめだ、こんなの。惨めだし、無意味だし、悲しいだけだ。
ぶんぶん頭を振って、何も考えないで、ただ、前へ前へ走るしかないのだ。
4限が始まるチャイムが鳴った。
あたしはジャージのまま、屋上に来ていた。
今日は天気が良い。緑色の床に、冬の日差しが反射している。
とことことフェンスまで歩いていって、金網に指をかけてゆらしてみた。
金網の向こう側に、沢山の屋根が見える。あそこの公園、この前通った。オビトと一緒に。……リンの誕生日プレゼントを、買いに行った帰り道。
ぶぶぶ、って、サイレントバイブが、ポッケの中で振動する。
携帯を取り出して画面を確認した。差出人はリンだ。
今は開く気になれなくて、溜息をつきながらポッケにしまった。
「サボり?」
「うわ、びっくりした……」
突然声をかけられて、斜め後ろを振り向くと、屋上の入り口からは死角になる場所にある、木製ベンチの上で、銀色頭の同級生が横になっていた。
……はたけカカシだ。
冷たい風がぶわりと吹いて、ぱらぱらと、本の捲くれる音がした。
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