それからしばらくナルトくんをかまって、カカシが膝の上にのせたり、あたしがナルトくんをだっこしたり、最後は取り合いみたいになったあと、ミナトさんとクシナさんに挨拶をしてから『Ama・gri・ama』を出た。

「カカシって子どもの相手するの上手いね」

小さな子の相手が得意だというのは、少し意外だった。ナルトくんと遊ぶカカシが、ごく自然に見えて、知らなかった一面を見れたことが、なんだか新鮮だった。

「そうかな、ナルトくらいしか小さな子の知り合いはいないけど」

駐輪所までの道をあるきながら、日暮れの近づく薄青色の空を見上げた。

左手の線路を各停電車がゆっくり通過していく。坂の下の駐輪所に自転車を停めたのだけど、カカシもそこに停めたらしい。

「ケーキも美味しいし、ミナトさんたちも素敵な方達だし、また行きたいな。リンもオビトも来たりするのかな?」
「三人で来たことは無いけど、ま、来たことはあるんじゃないかな」

リンやオビトの名前を出しても、フラットな自分でいられる事に安堵した。明日からまた学校だ。

「本屋で見てた本、買わないの?」

急に言われて、一瞬なんのことだろうと考えてしまった。

「あー、チョコレートの本?……今年はファミリーサイズの市販チョコでいいかなぁ」

カカシにもあげるよ?と笑ったら、なんとも言えない表情で見つめ返された。

「オビトにあげないの?」

案の定、あまり聞かれたくない事を聞かれてしまった。

「オビトにもあげるよ。もちろんリンにもあげるし」
「……義理じゃなくてさ」
「……」

返事をせずにあたしは黙った。カカシは、それ以上聞かないでいてくれた。

2月の冷たい空気に鼻の先が凍りそうだ。空には三日月が細く浮かんでいる。白銀の光に、隣の友達が重なった。

そういえば今日、カカシがクシナさんに、あたしの事を友達だと紹介してくれた事が、なんだか、こそばゆくて嬉しかった。

友達。

ほんの三ヶ月前までは、ほとんどカカシと話したこともなかったのに、今ではこんなに自然に隣にいる。

考えてみれば、カカシにはこの三ヶ月、いつも何でも話してきた。誰にもいえなかったオビトへの想いを、カカシはいつも、静かに聞いてくれた。

坂は終わりに差し掛かり、細い道路をはさんだ前の土地に、自転車がたくさん並んでいる。

「あたし……オビトに告白はしないよ。これから先も。」
「……」

立ち止まり、あたしは言った。

「今までも、これからも、あたしはオビトの味方でいたいんだ。……今あたしが告白なんてしたら、オビトを困らせちゃう。オビトの事もリンの事も大切だから……二人の邪魔なんてしたくない」

半分は本心だった。

もう半分は、見込みがない事への諦めだった。

率直に言えば、あたしは振られるのが怖かったんだ。

――隠してもそんな弱さは、カカシから見たらバレバレだったのだろう。

「……オビトがリンを好きでも、リンがオビトを好きだとは限らないのに、どうして二人を邪魔する事になるの」
「……」
「これから先もずっと、お前は二人のことを見守っているの?自分の気持ちを伝えることから逃げ続けて」

カカシは突き放すように言った。

「……だって、伝えても、意味がないよ……。オビトが好きなのはあたしじゃないのに」

オビトは、悲しいぐらいにまっすぐに、リンだけを想っているんだもん。

「……すぐには無理でも、忘れようと思ってる。」

口に出すと、想像以上に情けなく響いた。あたしはぎゅっと拳を握った。

忘れようと思ってる。忘れなくちゃいけないと思っている。……忘れたいと思っている。

「晴は、好きな奴に好きな奴がいたら諦めるの?」

カカシの言葉に、一瞬呼吸が止まった。
その言葉は臆病なあたしの胸に、ぐさりと突き刺さった。

「オレだったら諦めないよ」

そう言ったカカシは、真剣な顔をしていた。

「……」
「それぐらいで諦めるならそれまでって事でしょ」

カカシは冷たく言い放ち、立ち尽くすあたしを置いて、先へ歩いていってしまった。




今降りてきた坂道を引き返しながら、あたしは、カカシが今まで言った事を思い出していた。


『……それなら、得意分野だよ』
『好きな人の好きな人って……目で追ってるから、すぐにわかるんだよね』

カカシもきっと誰かを真剣に思っているんだろう。

『晴は、好きな奴に好きな奴がいたら諦めるの?』
『オレだったら諦めないよ』

真剣だから、カカシは諦めたりなんかしない。
諦めることなんて、できないのだと思う。


あたしも、同じだ。

忘れられるはずなんて無い。諦められるはずなんて、無い。

伝えてもいないのに、思いを消化することなんて、きっと出来やしない。

『それぐらいで諦めるならそれまでって事でしょ』

カカシが最後に言った言葉に、ぴしゃりと頬を叩かれた気分だった。

あたしだって……好きな人に好きな人がいるくらいで、諦められるような、半端な気持ちで片思いをしてきたわけじゃないはずだ。

カカシの言葉に突き動かされて、背中を押されているみたいに、あたしは坂を駆け上がった。
本屋の明かりが見えると、一直線に走った。

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