立っているだけで全身を焼かれるような猛暑だ。

太陽は真上から照りつけて、その光を反射した白い砂浜は眩しいくらいに輝いている。
絶好の海日和。当然、隣のまなつが黙っているわけもなく、さっきから子供のようにはしゃいでいる。

「先生っ!見て見て!!空と海がとけあってるみたい!」

まなつが指差す先を見ると、どこまでも透きとおる青い空と、それを映した透明な海の境目が、白くぼんやりとしていて、あそこまで行ったら本当に溶け合っているところが見られるのでは、と思える程だった。

「あ!ここで着替えられるみたいですよ!」

海の家と呼ぶにはいささか簡素すぎる建物があり、壁に黒いペンキで「温水シャワーあり 着替えは無料」と大きく書かれている。

「そ。じゃーオレは此処で待ってるから」
「え!?カカシ先生着替えないの!?」
「……水着忘れちゃったんだよネー」

信じられないっ!と喚くまなつに、いいからお前だけでも水着に着替えて来なさいよ、と笑ってやる。まなつには悪いが、オレは十代のお子様と一緒になって海ではしゃげるような年齢ではない。最初から、浜辺でのんびりイチャパラでも読みながらまなつが遊び疲れるのを待つつもりだった。

「……そもそもせっかくの海なのにいつもの忍服だし、先生やる気無さすぎ!」
「はは、オレはいつでもこの格好なのよ。ごめーんね」
「どうせ彼女の前ではちゃんとオシャレするんでしょ……」

ほっぺを膨らますまなつに、「今は彼女いないよ」と教えてあげようか迷ったが、何も言わないでおいた。無駄に期待させるのは自分自身の首を絞めることになる。

いつもまなつは、周りに人が居ようが居まいがお構いなしにオレに飛びついてくるので、オレは周囲からロリコンなどという根も葉もないレッテルを貼られていたりする。

オレは何もしていない、こいつが一方的に懐いているだけなんだ、と必死に弁解してきたが、周りの反応は、『変態だとは思ってたけど、まさかあんな若い子に手を出すだなんて……』とか、『ナルト達と同じような年齢の子じゃないか』とか、『カカシさんもまだまだお若いんですね』だとか、とにかく好き勝手な事を言われまくるだけだった。

「じゃー、あたしも水着着ないです……」
「え……?オレの事はいいからまなつは楽しみなさいよ」

一人で泳いでもつまらないよ……としょぼくれるまなつは、さっきまでのハシャギっぷりが嘘のようだ。
あまりにもどんよりと落ち込むから、何だか可哀想になってしまった。

「あー、わかったわかった。そこで買ってくればいいんでしょ」

降参の意味をこめて両手をあげて見せれば、まなつは「ホントに!?」と顔を上げて、一瞬で笑顔を取り戻した。
やれやれ、と思いながらも、落ち込んだままで居られるよりはマシだと思ってしまうあたり、オレはこいつに弱いのかもしれない。

観光地で売ってる水着ほど、趣味が悪くて高価な物も無い。目に悪いような色の派手な水着たちをかきわけて、もっとも無難な青い無地の水着を選んだ。
まなつは先に着替えはじめている。オレも更衣室へ入り、さっさと服を脱ぎはじめた。



「カカシせんせ!お待たせ!」

先に着替えていたくせに、オレより時間がかかったようで、5分ほど待たされてまなつが出てきた。
まだ殆ど日に焼けていない肌に、黄色いビキニが眩しい。
意外と胸がある均整のとれたプロポーションに、ついつい見とれてしまうのは男の性なのでしょうがない。

いつの間にか色んなとこがおっきくなっちゃって……。

いやいや、オレは断じて、一回りも離れた小娘に不埒な感情など持たないけれど。

「ふーん、似合うじゃない」
「え……そうですか?」

たった一言で頬を染める、いつになくしおらしいまなつが新鮮で、つい、可愛いな……と思ってしまった。
もちろん口には出さないが。そんな事を言ってしまえば、こいつは絶対調子にのる。

まなつは顔を赤くしたまま、目線を所在無さげに砂浜へさまよわせていた。
照れすぎでしょうよ、こっちまで恥ずかしくなる、と思って、オレはさっさと海へ向かって歩きはじめる。


「ホラ、せっかく来たんだからさっさと泳ぐよ」
「あ、カカシ先生っ、待って!」


慌てて追いかけてくるまなつの足音を聞きながら、家族や恋人たちでひしめく青い海に足首を沈めた。





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