流れ星を見に行ったら、空から人が落ちてきた。

嘘みたいな本当の話だ。だっていま、私の目の前で起きたのだから。落葉松の森をぬけていると、いきなりがさがさと頭上で音がした。見上げるよりもはやく、何かが、木の枝を巻き込みながら落下してきた。それが人だと気づいた時には叫びだしそうなほど驚いた。結局、声も出せずに、その人が目の前で背中を打ちつけるのを見ているしかできなかった。

苦しげな声が聞こえる。生きている事にまずはほっとしながら、ゆっくりと近づいた。夜空に瞬く星みたいに綺麗な、銀色の髪が血で濡れている。白い狐面がずれて、鼻の上まで覆面をした顔が見えた。みたところ少年と言うよりは青年といって差し支えない年齢で、たぶん、私とそう変わりない年のように見える。うっすら瞼をあけて空を見ていた。声をかけるけれど、聞こえているのかいないのか返事をしない。跪いて、顔をのぞきこもうとしたら、彼の瞼はもう閉じられていた。左目を古い傷跡が縦にはしっている。

職業柄、肌身離さず持ちあるいている鞄から、道具をとりだして、てきぱきと応急処置をした。落下した時に守ったのか、頭に傷は無かった。髪についている血は、彼の血では無いのかも知れない。たった今打ち付けた背中も、骨が折れていないか心配だが、一般人と忍では体の鍛え方も受け身の取り方も違うから、きっと、そう酷くはないだろう。腕にも怪我をしていたが、こちらは既に止血されていた。

それよりも心配なのは、全身を覆う酷い熱だった。目を閉じて苦しそうに呼吸をしている。彼が身につけているのが、木ノ葉隠れの暗部の服装だという事は、忍ではない私にもわかった。背中と腕の他に、大きな怪我は見あたらないが、ただの怪我でこうはならない。症状を見るかぎり、毒物によるものだとぴんときた。

ここから木ノ葉の里までは、少し距離がある。病院まで引きずって運ぶのは厳しいけれど、幸い、この近くには私の父が残した小屋があった。今夜、私が泊まる予定だったので、昼間の内に片付けておいたのだ。

小屋に戻れば、薬の材料もそろえてある。ぐったりした銀髪の彼の体を抱き起こし、肩に手をまわして、よろけながら立ち上がった。細身だけれど、私より背が高いし、意識の無い体は重たかった。足を引き摺ってしまうけれど仕方がない。熱で汗ばむ体温を感じながら、ずるずると小屋を目指した。流星群をのんびり眺めるつもりだったのに、とんでもないものを拾ってしまった……。空を見上げている余裕なんてなかったけれど、時おり視界の隅を星が流れた。あんなにはやく流れるんじゃ、願い事を言おうとしても、口を開けたところで終わりそうだ。

小屋にたどり着く頃には、私もぐっしょり汗をかいていた。星明りを頼りに、銀髪の彼を簡素なベッドに寝かせて、ホッと一息をつく。すぐにでも着替えたかったが、悠長にもしていられない。上から二番目と、四番目にそれぞれあるはずの、粉薬の名前を思い浮かべながら、棚へ向かった。

ふと、声が聞こえて、後ろを振り向いた。
きらきらと不思議なほど綺麗な髪をもつ彼が、眠っているだけだった。気のせい、だったのだろうか。縋るような、小さな声がしたような気がした。


彼の名前を知ったのは、その翌朝の事だった。




彗星のようにきらめいて



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