宝石箱をぶちまけたような夜空が、木々の隙間から覗いている。単独の任務は無事に終わり、処理も完璧に済ませていた。急いで里に戻る必要は無かったが、傷ついた腕の治療は早くしたほうが良さそうだ。敵のクナイに毒でも塗ってあったらしい。時間がたつほど、痺れの範囲と熱が増している。木々の間を、飛び移るようにして進んでいたが、段々、足取りが重くなり、目も霞んできた。それでも、動けない程では無い。毒に慣らされてきたこの体は、簡単にくたばらないようにできている。悪くて、意識を失うだけで、どうせ、死ねはしないのだ。

死にたいと思っているわけではないと思う。かといって生きたいと思っているわけでもなかった。ぼんやりしはじめた意識の片隅で、死んだところで、悲しむ誰かがいるわけでもない、と考えた。それが死を選ぶ理由になるほど感傷的では無いけれど。どちらにせよ強い理由のないまま、ここまできてしまった。

こんな森の中で、意識を失うわけにはいかない。そう考える程度には、忍の精神が身に染みついている。狼の餌になるだけならいいが、木ノ葉の暗部が倒れていたら、生かすにせよ殺すにせよ、情報を得ようとする連中は星の数ほどいる。この体を調べ上げられてしまえば、里の情報を外部に漏らす事になる。

なにより、この貰いものの左眼を、誰かに奪われる事だけは、嫌だった。痛みを感じるほどに強く、そう思った。

疲労のためか熱のためか、急速に瞼が重くなってきて、足下がふらついた。ずきずきと、腕の傷が痛み、ついに毒がまわってきたか、と他人事のように思う。足を踏み外して、地面に向かって落ちていった。落葉松の枝に、腕が足がぶつかって、落下する速度が少しだけ和らいだものの、予期していたよりもはやく強かに背中を打った。痛みで呼吸が一瞬止まる。

目の前が暗黒に塗りつぶされて、さすがにやばいかもな……と思いながら、確かめるように瞼を動かす。酷く狭くなったものの、不思議なほど綺麗な星空がはるか高くに見えた。いつか見た景色に似ている。あの時は側にミナト先生がいて、起き上がると、リンが遠くで星を見上げていた。あれは、オビトを失った日だ。今はもう、先生もリンもこの世にいない。


「だいじょうぶ……?」


声がするまで、そこに人が居ることにも気がつかなかった。がさがさと音を立てながら、何者かが、こちらへ近づいてくる。体を起こすばかりか、視線をむけることさえできなかった。狭く、歪んでいく視界は、空だけをうつしている。ほうき星が流れたような気がして、急速に、意識が遠のいていく。




落下する銀色



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