酩酊ユーフォリア
リーマンパロディ

「んあぁっ」

体の抵抗が緩んだ隙を見てか、ぐぷんと先端を呑み込まされて下肢が跳ねる。ひっきりなしに収縮を繰り返す蕾に苦笑しつつ、再び覆い被さった火野は腰を進めた。天子はその背を掻きながら、ぱさぱさとシーツに髪を擦り付けてもがく。

「や、だ……っ、こわれ、るっ…」

痛みには強いほうだと自負しているが、内側を硬い楔で無理やり侵略される怖さは計り知れない。弱音を吐くものかと口を結んでいたのに、繋がりを拒む台詞には火野もそっと動きを止めた。
普段ならまず聞けないだろう怯えを含んだ声。暗い嗜虐心がひどく煽られそうになる。深めの息を落とし、火野はつとめて優しく囁いた。

「壊さないよ。だから怖がらないで、僕のものになって」

「っ……、んっ、ぁあ……っ」

胸にわだかまっていたものがほどける気配に、体もようやく反応を返し始めた。必要以上に締め付けていた粘膜が、潤滑剤をまとった熱を少しずつ受け入れていく。摩擦が緩衝されればその分痛みも緩和され、先端が通過した後は比較的楽に残りを埋め込まれる。

「いい子にできたね」

「あ、も……、いい…っ」

長い指でほぐされた所よりもさらに奥を暴かれそうになり、天子は荒い息の合間に止めをかける。火野も無理に押し進めることはせず、縺れた天子の髪を丁寧に梳いて尋ねる。

「痛い?」

「んなの、当たり前…」

真正面から見つめ合うのが恥ずかしいのか、やや充血した目をふいと逸らして頷く。きゅう、と心の動きに合わせて入口が狭まり、羞恥に堪え切れなくなった天子も両腕に力を込めてしがみついた。

「あんま、顔見なくていい…です」

火野のシャツにぐりぐりと頬を擦り付けて、さりげなくあれこれを拭いながら呟く。

「クッソひでえ顔してる…」

「え、どれどれ?」

楽しげな彼の声に思い切り舌を打てば、唐突にぐちゅりと腰を動かされてあらぬ声が漏れた。

「ちゃんと見てないと、変なところに入っちゃうよ?」

いつもの調子で揶揄するように囁かれた後、深く沈み込んだものをずるずると引き抜かれる。抜け出ていく異物感はなんとも言い難いものの、抽挿を繰り返されるうちに粘膜は徐々に弛緩していった。押し拡げられる圧迫感はあれど、引きつるような痛みは熱の中に溶け込んでいく。

なかが、あつい。火傷しているみたいだ。
いつでも涼しげな表情で佇んでいる彼が、こんなにも深い欲の火を灯すなんて。
どっちが上でどっちが下か、そんなつまらないことはもうどうだっていい。すべてを晒して触れ合う幸福感に勝るものなど、今の天子には到底持ち得ない。
侵食された下腹部をさすって呟く。

「ちか、ら」

「ん…?」

「力、抜いたほうがいい、んですか」

うまく回らない舌を懸命に動かして、天子は恐る恐る下肢に手を伸ばす。腹を濡らすものを通り過ぎ、繋がった場所にひたりと指先で触れれば、形容し難い愛おしさが実感を伴って込み上げる。

「ここ……、ぁっ、どうやったら、気持ちよくなんのかって……っ」

「気持ちよくって…僕が?」

きょとんと目を瞠る火野に、天子は自棄とすら思えるほど何度も首肯した。だからそう言ってんだろうが、と。

「――そんなの、考えなくていいのに」

「んぁっ」

半ばまで抜き出されたものを少々の勢いをつけて突き込まれ、体ごとシーツをずり上がる。即座に腰を引き戻され、内壁を擦り込むように往復されて、潤滑剤が粘着質な音を響かせた。

「ぁっ、あぁ!」

根元の辺りまで呑み込むように穿たれると、重い衝撃に浮かされた足指までがぴんと伸びる。

「心配しなくても、ちゃんと気持ちいいよ」

「は、ぁ……っ、も…、ゆっ、くり……っ」

体が逃げないよう後頭部を支えて抱き締められ、腰を打ち付けられる度に中心が切なげに揺れる。理性は接触と摩擦で生まれる熱に埋もれ、代わりに恐ろしいばかりの疼きが体の奥を占めていく。

「ゆっくり? てんこが煽るからでしょ」

「ん、むぅ……っ」

唇を食まれれば、反射的に舌を差し出してすがりつく。ひどく皺の寄ったワイシャツをくしゃりと握り締め、決して離してなるものかと必死に舌を絡めた。

「っふ、ぅ、んん……っ」

痛いくらいに舌先を吸われながら、内側でわななく襞をいくつも剛直で擦られる。縮こまって震えていた粘膜は今や彼のものを従順に受け止め、腰から下の感覚をトロトロと溶かしている。

「ぅ、あ……っ!」

唇がほどけると同時に、熱の楔がぐりりと性器の真裏に突き当たる。何せ火野を押し倒そうと画策していたくらいなので、天子も体内の構造については一通り知識を得ているが、いざ己の体で実践されると快感より恐怖が先立つ。
指で触れられた時は敏感すぎるせいか痛みが上回ってしまい、火野も深追いすることはなかった。しかし熱された鏝を押し付けられたそこはじゅくりと膿んだように熱を孕み、腰の奥を痺れさせる。

「ここ?」

「んっ、あ……っ、や、め……っ…!」

咥えたものを抜き出す際に通過し、押し込まれる時にも腹側の痼を擦りつぶされればきゅうっと入口が狭まる。制止の声は繋がりを揺すられて甘く変化した。

「あ、あっ、や……っ」

彼が内部へ入り込む度に、滴るほど使われた潤滑剤が溢れて丸みのある肌を濡らす。抜かれてはより奥まで差し込まれ、しなやかな指で触れられた場所よりも深くを抉られて、苦痛を強引に塗り潰す性感にぎゅっと目をつむった。

「かわいい声、出てきたね」

ふ、と火野は満足げに微笑むと、脚を抱えて己の体をぐっと前に進めた。腰を使ってゆっくりと粘膜を掻き回され、内壁の奥にある弱点を幾度も貫かれて蠕動が激しくなる。

「や、だっ、あ、ぁあ……っ」

腿に食い込む指の感触と、初めて耳にする荒い息遣いに身震いする。こんなの知らない。どれほど穏やかで優しくても、自分を組み敷く彼は紛れもなく男なのだと思い知らされる。

「も……っやだ、うごくっ、な……っ」

きつく首筋を吸われて腰が跳ねる。己の体が彼を受け入れるに相応しい器となりつつある様相に、嬌声を押し殺して懇願すればすぐそばで苦笑が聞こえた。

「それは……ちょっと無理かな」

「んぁっ」

汗ばむ体を密着させたままずんと奥まで穿たれると、律動に揺れる昂りが彼のシャツにひどく擦れる。

「壊さないようにするから、少しだけ――強くしていい?」

「っや、ぃや……ぁあっ」

反射的に逃げた腰を掴み直すや否や、ぐいと引き寄せられて骨盤がぶつかる。二人の境界がなくなるほどの抽挿に、シャツ越しの背中に爪を立てて泣き叫んだ。

「かわいい。ここ、もう限界なの?」

「やぁっ、さわ、な……ぁっ!」

摩擦でぴんと芯を持った昂りに長い指が絡みつく。体液が滲んだ先端を意地悪な指先でくりくりと刺激され、忘れていた絶頂感が舞い戻ってくる。どちらか一方でもたまらないのに、ひくつく後孔をも容赦なく責められてじわりと視界が潤んだ。

「そ……っ、なのっ、ぅあっ」

腰を打ち付けられる強さに応じて、白濁混じりの蜜がとぷりと溢れて火野の指を湿らせる。熟れた内壁を突き上げる彼自身を無意識に締め付ければ、きつく体を掻き抱かれて胸が震えた。

「ぁっあ……っ、も……っ、やぁ……!」

「いいよ、我慢しなくて」

内側から粘膜を焼かれる衝撃に合わせて、溜まった熱が何度も弾けそうになる。襲い来る巨大な波に全て浚われそうで、僅かな力を振り絞ってしがみついた。

「あぁっ、んん―――――っ!」

腰を引かれ、ぐり、と感じる場所を勢いよく抉られた瞬間、目の前が白く明滅した。腹の中で渦巻いていた熱が放たれれば、びくびくと下腹部が痙攣を起こす。

「う、ぁ……っ…」

絶頂に達してもなお粘膜のひくつきは止まず、咥え込んだ熱を小刻みに刺激する。

「ん、んぅ………っ」

不意に唇を重ねられ、心の内からせり上がってくる充足感に知らず知らず涙がこぼれる。余韻に逸る胸のざわめきを呑み込み、彼を抱き寄せてキスに応えた。
口づけが解けると共に、体内を占めていたものがずるりと引き抜かれる。天子は何かを呟くが、掠れ気味の喉が発声を妨げてしまう。火野はそっと耳を口許に寄せた。

「す、き……っ」

上擦った声に目を瞠る。
乱れた呼吸を整えようと、頻繁に上下する胸。その心の中にどれほどの想いが満ちているか、もう、知らないふりはできない。
上気した頬を手のひらで包むと、やがて火野はゆっくりと頷いた。

「好きだよ」

天子の瞳が大きく見開かれ、すぐにきつく閉じられる。ぐすりと鼻を啜れば、彼が屈託なく笑う気配がした。

その言葉が聞けたら、もう死んでもいいと思っていたのに。
震える唇を自分から押し付けると、恍惚に陶酔をまぶしたような酷い甘露がじわりと胸に広がった。

俺は百万回でも、あなたの睦言を聞いていたい。
とろとろとした甘い酩酊に踊らされながら、幸せのかたちをいつまでも追いかけて行くのだから。



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