酩酊ユーフォリア
リーマンパロディ

ベッドサイドのランプに照らされながら、服を雑に脱ぎ落とそうとした手が優しく留められる。これからこの身に受けるだろう愛撫の数々を思うと、気恥ずかしさでつい手が伸びてしまったのだ。
中途半端に身にまとっていたものを恭しく落とされ、四肢を広げてもなお余るシーツにシャツ一枚で転がされる。未だジャケットを脱いだだけの彼は、覆い被さるなり唇を塞いできた。

「んむ……っ」

休む暇もなく頻脈を刻んできた心が、体が、今にもばらばらになりそうだ。いったんは落ち着いた熱も口づけに煽られ、奥底からじわじわと吹き上がってくる。

「んっ」

しかし陶酔する間もなく、待ち望んだキスはあっさりと解かれてしまう。残された舌の甘さに、張り詰めた下肢がずきずきと痛んだ。

「そんな顔しないで」

困ったように微笑む恋人に、自分がどれだけ物欲しそうな表情をしているか思い知らされる。たまらず視線を外すと、体をくるりとひっくり返されて目を瞠った。

「ちょっ……、ぁっ」

シーツとの間に滑り込んできた手がさわさわと上半身を探る。シャツをまくり、耳を甘噛みされながら乳首をキュッと摘まれて甘い声がこぼれ落ちた。

(あ……、これ……)

覚えがある、と直感した。
シーツの残り香も、吐息の熱さも、肌を這う手のひらも、全部。
間違いない。ここで自分はあの夜、彼に――

「んぅ……っ」

尚も指の腹でくりくりと胸の尖りを捏ねられ、腰を伝う刺激に身を震わせる。背骨に沿って舌を這わせつつ、火野がぐいとウエストを抱え込んできた。

「ちょっと腰浮かせて」

「え……、あっ」

シーツに膝をついて誂えた隙間に、ふかふかの大きな枕が押し込まれた。腹部の下にそんなものがあっては否が応でも尻が持ち上がってしまう。隠された場所が外気に触れる心細さに、カッと耳が熱くなった。

「い、やだっ、なんでこんな……っ」

なんでも何も、閉じている場所を開かせるために決まっている。いくら頭でわかっていようとも、もはや体は晒される全てを羞恥に変換する始末だ。濡れそぼったものがさらさらと枕に擦れるだけで堪らない気持ちになる。

「そのままいい子にしててね」

褒めるように髪を撫でた火野は、いつの間にか手にしていたボトルのフタを押し開ける。傾ければとろとろと粘性の高い液体が彼の指先を濡らし、天子はぱっと顔を背けた。――中身はたっぷりと満ちていたのでおそらく未開封だろう。些末なことにすら安堵する己の器量の狭さといったらない。

「や………っ」

お膳立てされた狭間をぐいと割り開かれ、濡れた指先がぬるぬると粘液を塗り込める。先程作った浅い綻びをたどって、指先がぷちゅりと内部に潜り込んできた。

「ん、くっ……」

体勢のせいか滑りのせいか、先程よりも少ない抵抗で指を呑み込んでいく。異物感は拭えないものの、直接の摩擦が緩衝されたことで生理的な感覚は薄れている。内臓を押し上げられるような不快感も込み上げてこない。苦しい?と背中に降りかかった声にかぶりを振れば、くぷりと関節ひとつ分を進められて吐息が漏れる。

「んぅ…っ…」

清潔すぎるほど真っ白なシーツに罪悪感を抱きつつ、きつく握って刺激に耐える。吐き気に近い感覚が軽減されたとはいえ、異物を咥える違和感自体は根本的に残っている。現時点ではこれが快楽に結びつくなんてとても思えない行為だ。そんな不安を汲んだのか、耳元にごく近い場所で優しい低音が流し込まれる。

「すぐには慣れないだろうけど、気持ちよくしてあげるから」

「んっ……!」

埋まった指がまたひとつ深みへ届く。びくりと腰が揺れたのは、甘くどろどろに煮詰めた快感を思い出したからに他ならない。
震える場所に何度となく落ちる口づけも、羽で撫でるように触れる指先も、体温を宿したやわい舌の感触も。ソファで高められた熱が燻りを訴えるように、枕をじっとりと濡らしていく。繊維の摩擦にもどかしさを感じれば、脚の間から不意に潜り込んできた手に中心を捕らわれた。

「は!? ぁ、ちょ……っ」

膨らんだ自身をゆっくりと揉まれ、お預けを食っていたそこがぴくぴくと手の中で勢いを増していく。

「や……っ、よご、す……っ」

「枕が? もう今更だと思うけど」

火野があっさり笑い飛ばすと同時に、ぱちりと聞き覚えのある音が再度耳に入る。思わず肘をついて上体を捻れば、ボトルの中身がとろりと彼の手に滴り落ちた。

「でもそんなに気になるなら、気にならないくらいぐちゃぐちゃにしようか。その方が気も紛れるでしょ?」

「ぃや、だっ…、んぁっ」

再び枕と股の隙間に入り込んだ手が、中心を揉みくちゃにするようにぬるぬると扱き立てる。枕はあっという間に濡れそぼるが、彼の言葉通り、もはや布などに気を配っている場合ではない。滑りを借りながら敏感な先端を撫で回され、小刻みに腰が跳ねる。

「や、ぁ……っ、こんな、っ」

「ほらほら、暴れちゃダメだよ」

「ぁあっ」

逃れるように身じろぐと、より潤された後孔へ指がくぷぷと埋め込まれる。快感の海に時折混じる大波がプラスかマイナスかを判断する余裕もなく、刺激として絶対値を享受するしかない。絶頂には決して届かない、緩いながらも的確な愛撫を施され、じわりと涙が浮かぶ。

「こ、んなん、いや、だ……っ」

彼の手に自ら下肢を擦り付けてしまいそうで、理性を手放してなるものかと腰に力を入れるが、そうすると拡げられた内部がぎちぎちと悲鳴を上げる。抵抗のしようもなく為されるがまま、体を開かれる羞恥に溺れながら甘い声をこぼす羽目になった。

「痛いだけよりはいいでしょ? ああほら、脚閉じないで。てんこのかわいいところ、ちゃんと見せて」

「やっ………」

無意識にじりじりと狭めていた腿の間隔をぐいと戻され、頬から首筋までが熱せられたように赤みを広げる。さらに両手の親指が丸みを左右に押し開けば、潤沢に咲き綻んだ蕾がきゅっと外気にひくついた。

「んなの、見んなっ……ぁ、は……っ」

痛いほどに感じる視線を遮るべく手を伸ばせば、その手ごと腿の裏を抱え上げて腰を浮かされてしまう。つーっと後孔から中心へたどり下りた指先に膝が震えると、どこまでも優しい声と共に入口をつつかれ、ぷちゅりと水音が踊る。

「増やすよ」

「んぅ、ぁあ………っ」

倍の質量に縁がぴりりと痛む。目一杯に突っ張った皮膚と刺激に揺れる中心とを潤滑剤でほぐしながら、ゆっくりと、しかし確実に彼の指を咥え込まされた。

ーーー

「ぁ、あ……っ…」

呑み込んでいた指をまとめて抜き出され、しなやかな背がビクンと撓む。粘液でややふやけた三本の指も使って、火野はそっと己のベルトを緩めた。包装を破る僅かな音の後、力の抜けきった肢体を優しく仰向けられる。濡れそぼった枕が腰に触れる冷たさにはっとした。

「ずいぶん泣かせちゃったね」

腫れぼったい瞼に小さなキスが落ちる。体の奥の奥まで溶かされて、戯れに中心を弄ばれて、それでも達することは許されなくて。理性の剥がれきった表情はどれほどひどいものかと、居たたまれなさに目をつむる。
嫌だの無理だの、数え切れないほど口にしたと思う。されど心はずっと傾いたまま、彼だけを求めて華奢な体躯にすがりつく。汗で貼りついた前髪を優しく掻き上げられるだけで、すべてを許せてしまうほど胸が打ち震えた。

「っや、ん……っ…」

濡れてとろけた場所に男の熱を押し付けられ、潤滑剤を馴染ませるようにぬるりと綻びを擦られる。思わず腰が揺れてしまいそうになると、火野はくすりと笑って頬を撫でた。

「ゆっくりでいいから、僕を受け入れてね」

「ぅ、あ……っ」

張り出した先端が圧を伴って押し入る。ふわふわと浮くような心地の中で突然の激痛に見舞われ、深く考える間もなくワイシャツの背にきつく爪を立てた。幾度も絶頂をはぐらかされた天子の中心は、不意に訪れた負の衝撃に恐れおののくばかりだ。

「びっくりしちゃった? 大丈夫だよ、力抜いて」

どれだけ優しく促されようと、体が一番に忌避するのは痛みだ。反射でとにかく異物を押し出そうとする動きをなだめ、火野はじわじわと二人の境界を溶かしていく。

「ち、から…、ぬけねぇ、って……!」

もどかしいのは天子も同じだ。ここまで来れば一蓮托生、男に二言はないのだからどのようなものでも受け止める覚悟でいる。が、いったん萎縮した体は持ち主でも容易には制御できない。すると火野が僅かに上体を起こし、ゆるゆると中心をあやし始める。

「ぁっ、や……っ!」

既に潤っていたものがくちゅくちゅと軽い水音を立て、その奥で重く卑猥な音を奏でながら質量が沈み込む。鈍い裂痛と鋭い悦楽を交互に与えられ、欲の色に染まった瞳からぼろぼろと涙がこぼれた。



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