無邪気な中毒者 | ナノ

22.この世は素晴らしい。戦う価値がある。※


ごちゅっ、ごちゅっ!っと激しい水音がする。跨られて、押さえつけられて、いつもよりずっと深くまで繋がって、いけないところまで届いているのではないだろうか。カルナは依然微笑むままだが、その顔は苦痛に歪んでいるようにも見える。そもそも最奥を強引に叩きつけ続けて痛くないはずがなかった。実際カルナの身体には杭に打たれたような激痛が走っている。けれど動きを止めはしない。Aは気づいていないが、Aがいつよりもその行為で興奮しているからだ。

「っ、はあ、良さそうだな、A、ぐっ、オレも心地良いっ!はぁ、」

「うそ、つくなよ!痛そうな顔っ、しやがって……!!」

「ああ、痛いぞ。痛い、痛い"ッ。愛の、いッ、痛みだ。」

苦痛に眉を歪めながら、優しい顔をする。歯を食いしばりながら口角をあげる。涙を零しながら穏やかな目をする。アンバランスなそれはとても美しいとは評されないものだろう。Aはそれが、完璧なその人が人間らしくみえて、愛おしく思えて、身を起こし、抱きしめた。
汗にまみれた身体をぴったりとつけて、カルナが抱きしめ返す。カルナの呼吸が酷く荒い。あれだけ激しく動き続けたのだ。体力がもっているのが不思議なくらいだ。

「A、オレが傷をつけて欲しいのだ、と指摘していただろう?っ、そこまで気づいていて、か"ッ、はぁ、なぜ理解できない。」

そのようなことを言った記憶はない。
思わず口に出してしまった嗜虐癖のひとつだろう。決して拒否しないその人の嫌がる姿をみたかったのか、或いは完全に拒否されて、止められたかったのだろうか。無駄だったろうに。

「傷をつけるのに、痛みが伴うのは、はぁ、当然だろう。痛い、苦しい、それの何が悪い。仕方の無いことだ。必要なことだ。お前の傷が欲しい。ンっ、欲しい……!」

そういうとまたカルナは動き出した。
Aの肉棒が張り詰めて、もう限界だと訴える。
根元から先の方まで、搾り取るようにカルナの内壁に締められて、あつくてあつくてしかたがない。だしてしまいたくてしかたがない。

「A、我慢するな。……イけ。」

「っ!!!!!」

絶大な快楽とともに何かが抜け落ちる感覚。
自分の中に、圧倒的な虚無と空白ができる感覚。
ナカにだした。カルナが跨ったまま、びくびくと震えている。透明な液体が腹を汚している。潮を吹いたのか。視線をあげると目が合う。空の瞳と目が合った。空虚だけを映す、無機質に感じられるその目……

カルナが上体を倒して抱きついてきた。そして耳元に、囁くように

「好きだ。」

そういった。

好きだ、好きだと何度も呟く。
優しくて、甘くて、穏やかで、温かくて、愛おしい声が耳から全身に流れるようだ。

「あ、カルナ……」

「好きだよ。A、お前がどう思おうと、これだけは、絶対に譲りはしない。」

「嘘、そんな……」

「嘘であるものか。」

カルナがより近づいて、身体が密着した。
体温が混ざりあって温度を増していく。

「A、もうひとつだけ教えて欲しい。オレはAの……Aだけのカルナだ。そうだろう?」

思考を失った頭でこくりと頷いた。

カルナが微笑んで、もう一度唇をあわせる。
温かさにふわふわと微睡んで、目を閉じると、いつの間にか眠りについていた。

寝息をつくAは、とても穏やかな顔をしていた。
いつも一緒だったのに、Aのその顔をカルナははじめてみた。いつもカルナのほうが先に気を失っていたのだ。
カルナはそれを見て、満足気に目を閉じる。

Aの為だけに脈を打つこと。
ただひとりに尽すこと。
それが自分にとって最高の生き方だと、確信しながら。

「好きだ。」

もう一度呟いた。

夢の中でも、繋がれていられるように。
この首輪にいつか、鍵をかけて貰えるように。

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