――想いを言葉に――




好きだ。
その一言、たった一言が、どうしても言えないでいる。それでもナマエは愛想を尽かすことなく、むしろ「好きですよ」なんて。俺が言えない分を補うかのように囁いてくれるのだから、結局いつも甘えてしまって、伝えることはしなかった。

とても可愛らしくて、絶えぬ笑顔を浮かべながらそっと隣に寄り添ってくれるナマエ。そんな彼女のことが大好きなのに、大切に想っているのに。なんで俺は、誰よりも理解しているはずの自分の気持ちを言葉に出来ないのだろう。


「直正さん、好きです」


そうして今日もまた、恥ずかしそうに、でもハッキリと紡がれる優しい愛の言葉。俺も、俺もだ。俺も同じくらい、いや、きっとそれ以上に…


「…好き、だ」


我ながら情けない程に小さく、絞り出したような声だった。けれどナマエの小さな耳が一気に紅潮していく様子に、やっと口に出せた想いはしっかり届いたのだと知る。


「…へへ。初めて、言ってもらっちゃった」


照れを隠すように笑う彼女の、なんと可愛いことか。たった一言で、こんなにも嬉しそうに顔を綻ばせてくれるだなんて。ああ、やっぱり俺は。


「…好きだ、大好きだよ」


頭の片隅で、せき止めていた感情が溢れ出していく感覚。今まで何故言えなかったのだろうかと、自分でも驚くほど簡単に。

ナマエが真っ赤な顔で俯いた。それでも止まらない俺の口に、ついにそっぽを向いてしまった小さな体。自分とは正反対の細くて柔らかい彼女を包むように抱き締めて、熱くなっている耳元に唇を寄せる。


「…ナマエ、愛してる」


今まで言えなかった想いの数々。これからたくさん、思う存分に伝えさせてくれ。




20201206


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