道端の幸福
青々と晴れ渡る雲ひとつない空の下。隣には大好きなナマエ。緩く繋いだ手のひらからはナマエの体温が流れてきて心地良い。何処に行くでもなく、ただ二人でのんびりと散歩でもと思いコンビニで買った飲み物を片手に歩いた。
「ねぇ隼人」
「あ?」
自分を呼ぶ声の方を向き、何だと問う。ナマエはにっこりと笑って繋いでいる手をギュっと握った。
「あの花、綺麗だね」
ナマエが見つめる先には、道端に咲く一輪の小さな花。周りはコンクリートなのに勇敢に咲き誇る真っ白な花は、確かに美しく見えた。
「…そうだな」
俺の返答にナマエは花から視線を俺に向ける。
「隼人みたい、あの花」
「…は?」
何を言い出すんだ、こいつは。俺が理由を聞こうとする前にナマエは口を開く。
「…だって、例え敵に囲まれちゃっても隼人は負けないもん。隼人強くて、かっこいいから」
だから、あの花みたい。と、はにかむナマエ。
「…うっせ」
赤くなった顔を見られたくなくて、ナマエの髪をくしゃくしゃと撫でる。自分とは正反対の柔らかい黒髪が指の間を通り抜け、甘いシャンプーの匂いが微かに香った。
「あはは、照れてる」
ナマエはまたギュッと手を握って、俺に笑いかける。俺は気恥ずかしくて目を反らそうとしたけど、やられっぱなしも悔しいので小さな手を引っ張り、ナマエの後頭部に手を添わせて額に触れるだけのキスをする。
ちゅ、リップ音。そして幸福感。
「…ふふ」
「…何笑ってんだよ」
「んー?私、隼人のこと大好きだなって思ったの」
「!」
へらっと笑いながら言うナマエに、俺は今度こそ顔を背けた。けれど、繋いだ手だけは離さずに。
…結局、今日も翻弄されっぱなしだな。まあナマエが笑ってくれるなら、いいんだけど。
こんな、平和で愛しい日常が、どうか続きますように。これからもずっと。
20170515