戦いの終焉
「人の身でこの私を倒すなど、出来る訳が無い!」
荼枳尼天は叫び、邪悪な気を勢いよく飛ばしにきた。ギリギリ刀で弾いたそれは空間を歪むようにして消えていく。
それを見た荼枳尼天は、目を細めて笑った。
「神子も舞姫も…非常に美しい魂を持っているわね…とっても美味しそう…!」
「…きゃっ!」
「望美!」
荼枳尼天の伸びる手に、一瞬の隙を見せてしまった望美は捕まり、荼枳尼天の体に吸い込まれてしまった。
「まぁ…綺麗な魂…!」
「イ…イヤアアッ!」
辺りを見渡すと、そこには望美の使っていた刀が転がっていた。それは神々しく輝いている。
無我夢中の私はそれを掴み、荼枳尼天に向かって斬り上げた。
「やぁああ!!」
瞬間、刀からは荼枳尼天を打ち消すような神聖な気が溢れ出た。
「ギャァアアア!」
荼枳尼天は断末魔を上げ、望美を放り出す。
「望美!」
「…ぅう…っ」
頭を抑える望美は、辛そうに私を見て笑った。
「ありが、と…夕」
「望美…」
「私は…大丈夫だよ!」
ゆっくり立ち上がる望美に手を貸ながら、未だ苦しむ荼枳尼天を睨んで私は言う。
「…望美、この刀は特別な刀だよね?私にを貸してほしい。これで荼枳尼天を弱らせる」
「夕…」
「だから望美は、絶対にアイツを封印して!」
「…分かった!」
刀を構える。
その時、ふと周りに気配を感じて振り返ると…
「…夕」
「助太刀致します、夕様」
「知盛さん、重衝さん…!」
二人は武器を構えて笑った。
「俺も居るぜ?」
「協力させて頂こう、源氏ではなく…一人の武士として」
「将臣君、九郎さん…」
還内府の将臣君と義経の九郎さんは、共に背中を合わせて。
「世界の為、私も力を貸そう」
「先輩、援護は任せて下さい!」
「先生さん、譲君…」
優しく笑う二人。
そして…
「…夕、」
「敦盛君……」
敦盛君は、私の目をじっと見つめた。
「私にも…記憶がある…」
「敦盛君も記憶が…?」
「夕、私を許してくれとは言わない…だけどせめて、貴方の力になりたい」
泣きそうに言う敦盛君に、私は首を横に振る。
「…敦盛君、前に私、言ったでしょう?」
「…?」
「敦盛君も、守るって」
「…っ!」
敦盛君は今度こそ涙を流したが、けれど綺麗に笑って頷いてくれた。
他にも周りには、譲君や八葉と呼ばれる人が、後ろは任せろと強く頷いてくれた。
それを心強く思いながら、前を見据える。
「グゥウウ…ッ、人間無勢が…よくも!よくもォォオオ!」
怒り狂った荼枳尼天は空に向かって叫び、周りの空間が歪んでいく。
「法王様も民も兵も、みんな避難させたわ!」
「朔!」
望美が朔と呼ぶ人は…私達と同じ年くらいだろうか、とても綺麗な女の子だ。
彼女は清盛さんが落として行った黒い石を拾い上げる。
「黒龍、私に力を貸して!」
その石は輝き出し、望美の側にいる龍神も呼応するように輝く。
「駄目だ神子…荼枳尼天の力がまだ強すぎる…!」
「白龍…!」
それを聞いて、私はみんなを見渡した。
「…全員で一気に攻め込もう!一瞬でも荼枳尼天が隙を見せたら…」
「私と朔で封印する!」
望美の返事に、私は笑って頷く。
「小賢しいィアアア!!」
荼枳尼天は私に向かって全身で襲いかかってきた。
私は望美の刀を構え、後ろに飛び退く。近付いてきた荼枳尼天に向かって、みんなが一斉に攻撃をした。
「グギャアア!!」
そして、荼枳尼天が悲鳴を上げた瞬間、
「はぁああ!!」
荼枳尼天の胴体を真っ二つに斬るように、私は刀を降り下ろした。
「アアァアアアアアア!!」
邪悪な気が、荼枳尼天から溢れる。
「「響け地の声!響け天の声!かのものを封ぜよ!」」
望美と朔の声が響き、荼枳尼天が真っ白な光に包まれていく。
邪悪な気が消えていき…それを見た私は安心して刀の構えを解いた。
その時。
「お前も…道連れだァァアア!!」
「っ?!」
ものすごい力で消えかけの荼枳尼天に引き込まれた。反動で刀を落としてしまい、私の体は荼枳尼天に飲まれていく。
「ハハッ、アヒャアハハハ!!お前も共に地獄へ落ちるがいい!!」
「くっ…!」
逃げられない…もう駄目だ…!
覚悟を決めて目を閉じた時、私を縛りつけていた力がフッ緩んだ。
驚いて目を開けると…
「…夕、」
「…あ、敦盛君…?」
敦盛君が、荼枳尼天を後ろから攻撃していて。
「なんとか、間に合いましたね…」
「貴方はまだ、こちらに来てはなりません」
敦盛君と同じく、荼枳尼天を攻撃している…
「経正さん、惟盛さん…っ」
三人に攻撃された荼枳尼天は、薄れていく身体でもまだ叫び、私に手を伸ばしてくる。
それを制するように、敦盛君は荼枳尼天を槍で薙ぎ払った。
「…もう、私達は存在しては成らない。荼枳尼天、共にあるべき龍脈に還ろう」
完全に消えた荼枳尼天。
その後を追うように消えていく三人の姿に、私は泣きながら叫ぶ。
「早く逃げて!ここにいたら、みんな…!」
怨霊のみんなは、荼枳尼天と一緒に封印されてしまう。
だけど三人とも、笑顔で首を横に振った。
「やっと、この身を捨て去ることが出来るのです」
「この世界に存在する怨霊は、あとは私達のみ…みんなはもう浄化されました」
経正さんと惟盛さんは笑って、消えていく。
「…夕、こんな怨霊の身の私達に、存在する意義をくれた貴方が…何よりも愛しい」
「敦盛君、」
「最期に貴方を守れて、良かった…」
輝きが増した光の中に吸い込まれていく…
「敦盛君…!」
「また、いつか会える日まで…ありがとう。どうか幸せに…夕…」
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20110102