大好きな幼馴染
満月が輝き、辺りは夜とは思えない程に明るい。だから、森の中に居ても人の表情が分かる、と。いつかのアイツはそう笑って言った。
「知盛様、また眉間に皺が寄っていますよ」
「クッ…月が眩しくてな」
「ふふ、本当ですね」
満月を見上げる。アイツはもう居ないのに、あの夜の事が鮮明に思い出されていく。
美しく、それでいて儚く微笑むアイツを…
「…夕……」
花
の
輪
廻
の
輪
廻
「夕!」
凛と響く声に振り向けば、そこには駆け寄って来る幼なじみ。私は汗を拭いながら微笑む。
「望美、来てくれたんだね!」
「もちろん!はい差し入れ!」
「わぁ…ありがとう!」
もらったタオルで顔を拭くと、向こうから歩いてくる二人の姿が目に入った。
「将臣君と譲君も来てくれたんだ」
そう声をかけると、将臣君は私に向かってペットボトルを投げた。なんとか両手で受け取る。
「おら、差し入れだぜ」
「兄さん、投げなくてもいいだろ」
「あははっ、二人もありがとう!」
私と望美、将臣君と譲君の4人は、小さな頃からの幼なじみ。私の家は二人の家からほんの少し離れたマンションで、小さい時から仕事で居ない親に代わって、3人はいつも一緒に居てくれた。
そして今日は、私が属する剣道部の試合を見に来てくれている。
「さっきの夕、本当にかっこ良かったな〜一瞬で決めちゃうんだもん!」
「ありゃすごかったな!相手なんか一歩も動けなかったみてーだし」
「俺も、平野先輩を見習わないと…」
「もー…みんな褒めすぎ!恥ずかしいよ」
こんな風に4人で喋る時間が、一番心地良くて楽しい。せめて高校を卒業するまでは続く、と信じていたこの時。
それがまさか、あんな形で無くなるなんて…
この時の私は、何も知らなかった。
何も、分からなかったんだ…
20081119
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