完全無敗の弱虫野郎
「九郎!勝負!」
「はぁ…」
最近俺を悩ませているもの。幼なじみであり源氏の女武将であるナマエだ。彼女の実力はなかなかで、そこら辺の男よりも腕は確かなのだが…
「早く!ほら竹刀!」
「お前なぁ…」
ナマエは竹刀を俺に無理矢理渡すと、勝手に間合いを取って構える。仕方なく俺も竹刀を握ると、ナマエは満足したように笑って突っ込んでくる。
「はぁぁ!」
―――バシィ!
受けながら、ナマエの剣をしのぐ。真っ直ぐ打ち込んでくるそれは、非常にナマエらしい。
「だが…!」
――――バンッ!
「きゃっ…」
竹刀が宙を舞い、ナマエは尻餅をついた。
「…お前の剣は素直すぎて、先が読める」
「う…」
「立てるか?」
「…ありがと」
伸ばした手に乗せられた彼女の手は、俺とは違って小さくて柔らかい。軽く引くと、すぐに起き上がった。
「…私、絶対九郎から一本取るから!」
「出来るものならやってみろ」
「…一本取ったら、私の婿になりなさいよ!」
ナマエはそう言って、俺の手を振り払って走っていった。
…む、婿?!!
「な、あいつ…!!」
顔が熱くなるのが分かって、俺は片手で顔を隠した。
「…い、いきなり、何を言い出すんだ!」
しかも、む、むむ…婿になれだなんて、女が言うことじゃないだろう!
ふと、最近のナマエを思い出す。そういえば「私が勝ったら言う事を聞け」とかなんとか…いつも言っていたような…
「まさか、婿だなんてな…」
嬉しいんだか恥ずかしいんだかで、俺はどうしたら良いか分からなくなったが。
「普通…男が言うもんだろう…!」
負ける訳には行かない、俺が勝って、俺から言おう。
女から言われるなんて情けない!それに…もし負けてそんな事言われたら、俺はきっと恥ずかしさのあまり慌ててしまうから。
ナマエの必死さを思い出して微笑んだあと、持っていた竹刀で鍛錬を始めたのは、ナマエには秘密。
20081130