刹那の永遠は美しい

『えヴぁ、どこに行くの?』
『友達をルリに紹介しようと思って。きっとルリと仲よくしてくれると思うの』
『?』

片手にぬいぐるみ、もう片手にはエヴァの手。
ルリは今、アドルフから離れてエヴァと二人で歩いている。
ルリが持っているのは、毎晩アドルフと寝るベッドにルリが連れ込んでいるぬいぐるみ。一日中男物の服を抱えていては不自然だからと、アドルフが持たせたものだ。
アドルフの部屋を出る時は少し不安げな表情をしていたルリは、「迎えに行く」というアドルフの言葉と鼻先へ送られたキスに背中を押され、エヴァと共にアドルフの部屋を後にした。
そうして二人で歩くこと数分。

「あ、いた。シーラちゃーん!」
「エヴァ!…その子は?」

エヴァが手を振ると振り返してきたシーラは、手を引かれて歩くルリを見て首を傾げる。

「皆に紹介しようと思って。ルリっていうの。人見知りはするけど、年も近いし仲良くなれると思って」
「じゃあアイツらも呼んでくる」
「うん、お願い」

駆け足で去って行ったシーラを見送ったエヴァは、ルリを見て微笑んだ。
ルリは無言でエヴァを見つめ返す。

『みんなはドイツ語を話せないけど、無理はしなくていいからね。英語でうまく言えなかったら、ドイツ語で話して?私が通訳するから』

ね、と笑うエヴァにルリは黙ったまま頷く。
どこか寂しげな表情でぬいぐるみを抱き締めるルリを見て、やはりアドルフが恋しいのかもしれないとエヴァは思った。

「エヴァ、連れて来たよ!」
「シーラちゃん、ありがとう。紹介するね、この子はルリ。日本とドイツのハーフだけど、ずっとドイツにいたからドイツ語は話せるの。英語は苦手みたいだから、時々私が通訳するね」

少し緊張気味に早口で話すエヴァの言葉を聞きながら、燈たち三人の視線はずっとルリに注がれていた。…正確には、ルリの胸元に。

「(おい、この子いくつだと思う)」
「(11〜13くらい…と言いたいところだが、胸の膨らみはもっと成長してるよな…)」
「(日本人は小さいヤツ多いからな…日本人の血が入ってるのなら、幼く見えるだけで実はもっと年上ってこともありえるぞ…)」
「あんたらどーせまた変なこと考えてるんでしょ?下らないこと話してないで、さっさとルリに挨拶でもしなさい!」

…男だけの密談はシーラの鉄槌により強制終了させられる。
ルリとエヴァはシーラに怒られている三人を、首を傾げて見つめていた。
男三人は誰が最初に話しかけるか(負けた者は年齢と胸のサイズを聞く)ということで揉め、ジャンケンをし始めた。

『…えヴぁ、座りたい』
『立ってるの疲れた?あそこのベンチ行こっか』

ルリはエヴァの服の裾を引き、困ったように眉尻を下げて訴える。
依然としてぬいぐるみは抱き締められたままだ。
男たちはどうやら勝負がついたらしく、アレックス、マルコス、燈の順でルリとエヴァの座るベンチに歩み寄ってきた。

「待たせてごめんな。オレはアレックス!出身はグランメキシコって国だけど、ずっとアメリカにいたんだ」
「オレはマルコスな!ずっとアレックスと一緒にいたんだ!…ホラ、燈も言えよ!ついでに質問もな!」
「うるさいな!…オレは燈。生まれも育ちも日本だ」
「!…Are you Japanese(日本人)…?」

ぬいぐるみを抱き締めたまま、アレックスとマルコスの自己紹介をぼんやりと見つめていたルリは、燈の“日本”という言葉に反応を示す。

「お?」
「…日本…好き……かんざし…ゆかた…お人形……可愛い。食べ物、美味しい」
「おお!なら今度、空手をやってみるか?オレが教えてやるよ!」
「…本当…?」

ルリが頬を染めて嬉しそうに笑う。
燈も微笑み返して、くしゃりと小さな頭を撫でた。…しかし。

「…ん?」

燈は怪訝な顔をしてその手を止め、ゆっくりとルリの額へとずらしていく。

「…お前熱あるぞ!?怠かっただろ?何で言わなかったんだよ!」
「…?」

燈の言葉にルリは首を傾げるが、エヴァやシーラは焦り始める。

「大変!班長に知らせなきゃ…」
「医務室!ほらアンタら、ルリを背負って!」
「お、おう!」
「ルリ、来い!」

つられて慌てる、アレックスとマルコス。
ルリに背を向けて乗るように促すが…

「や!」

…ルリは拒否。
いっそう強くぬいぐるみを抱き締めるだけで、座った姿勢から動く気配すらない。

「わがまま言ってる場合じゃないだろ!」

強引にルリを抱き上げたのは燈だった。背中と膝裏に手を差し込み、ルリの小さな身体を軽々と持ち上げる。

「…あどるふ…、」

その場にいた全員が冷静な状態ではなく、ルリの小さな呟きを聞き取れた者はいなかった。



刹那の永遠は美しい

(ああ、どうかいつまでもそのままで)


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