彼女─1

 彼女はどこへともなしに歩いていた。目的があるわけでもない。ただ足が赴くまま、自身の両眼が望む方向のまま、健康そうな裸足はかさりかさりと草を揺らす。

 踏み出せばそれらは手を伸ばすが如く彼女の両足にまとわりつき、そして撫でるように肌を傷つけて去っていった。微かな痛みに、ふと足を止めてみる。

 日焼けしたふくらはぎに幾筋も赤い線が走っている。しかしそれらは傷としての意味を成さなかった。彼女が願えば消える──否、癒えてしまう程にそれらの傷は小さい。

 便利な能力であると思う。同時にひどく窮屈なものを感じざるを得ない。

 彼女は大自然の寵児であり代弁者であるはずなのに。

 なのに、その身に宿る力は自然の摂理からは明らかに逸脱している。

 彼女はまた歩き始めた。

 立ち止まり、自身の足元を見るのに飽きたからだ。

 あるいは、自然の摂理の元にありながらそれに抗おうとする人間に興味が沸いたからかもしれない。

 かさりかさりと柔らかい音をたて、こちらに近づく音がある。それは自信に満ちたものではなく、やや危なげな、それでいて目的を持った足音だ。

 強く、自然とそれを越えるものの狭間を行くようである。

 彼女は歩き、そして人間を見つけた。

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