Piece22



Piece22



──青天が続いていた。
 冬の気配を忍ばせた空気は軽く、色はないが、透き通っているような感覚をおぼえる。それは氷や石に似た透明感であり、転じて冷たさの象徴でもあった。
 色素の薄い髪を持った少年が、空に向かって息を吐く。白くたなびく息を見つめる双眼も青く、空の色を落としたようだった。
 ギレイオ=パルムンテ、九歳の秋であった。
 見回せば辺りの大人は忙しなく動き回り、冬の備えに余念がない。備蓄食料の確認、燃料の備え、衣類や家屋の修繕など、どれを欠いても彼らには死活問題である。
 中でも一番大事なのが家畜の餌だった。定まった居住区を持たない移牧民である彼らにとって、家畜は食だけでなく生活を支える柱でもある。家畜そのものが食糧になる他、毛皮などは換金に最適だった。
 夏期と冬期で住む場所を変える彼らは、小さな集団だった。夏は北方のアクアポート付近に居を構え、寒さが感じられる頃合いになると南方のエデンと西方のグランドヒルの合間にある、小さな岩山の端に出来た数少ない平地へ移動する。近くにある町といったらグランドヒルぐらいで、それも馬を使って三日、車でも一日はかかる距離だった。頼れる地縁は他になく、平地と言っても名前すらない所だから、隊商も冒険者たちも彼らを認めることは滅多にない。
 故に、彼らは移牧を始めた祖先の名をとって自らをダルカシュと名乗り、移牧に使う地も自然と同じ名で呼ぶようになった。換金のために町へ出た時、出自がはっきりしないと物が売れないことがあるのだ。
 ギレイオは母親に言われて餌の備蓄を確認しに行き、その帰りだった。
 一つの家で多くの家畜を賄うこともあれば、数家族が集まってそれを行うこともある。この場合、働き手の人数が物を言い、単数で家畜を賄える家は往々にして裕福であるが、儲けた分を皆と分け与えるのがこの集団の決まりごとであった。そのため突出して裕福な家はないが、生活水準に多少の優劣が出るのは仕方のないことである。
 ギレイオの家は両親と祖母、ギレイオを含めて四人家族ではあるが、父親は機械工として外に出ていることが多い。実質、家を切り盛りしているのは母親で、家畜の世話をしているのも父親を除いた三人である。女子供のみ、しかも一人は老女であるにも関わらず、彼らは前者であることが許されていた──というより、そのようにして隔離されていた。無論、彼らが得た財の分配を望む者もなく、しかし、積極的に排除することもしない。
 移牧民にとって人手は貴重である。村八分にして追い出したところで、痛手を被るのは両者とも同じだった。だから、ある程度の権利を与えるから大人しくしていてくれ、という本音がアンバランスな優遇となって現れる。
 大人しくしろと言われても、とギレイオは溜め息をついた。
 使おうと思わなければ発動することのないものである。幼少の頃こそ危うかったものの、今は自身の意識の支配下にあった。だから大丈夫だと言ったところで、周りが恐れるのを止めなければ意味がないし、その方法に至っては全く思いつかない。

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