Piece22
幼いギレイオが思いつかない分、父親は機械工として外に出ることで金銭を獲得し、それを集団へと還元していた。そのお陰か、風当たりは弱い。
隔離の理由は自分、正確には自分の魔法にあるとギレイオは知っていた。
それは周りに比べて飛びぬけて異質なものであり、異質ゆえに避けられるのだと常日頃から祖母は言う。
言われたところでどうしようもないのが、無属性方程式魔法という代物であった。
「ただいま」
移牧民の家は簡単に持ち運び出来るようになっている。とは言え、冬期は留まる期間が長いため、着いて早々に簡単な家を建てるようにしていた。どの家も皆と協力して建てたもので、遠巻きにされているギレイオら家族の家もその恩恵の上に出来上がったものである。忌避すべきものでも、守るべき一員であることには変わりないという姿勢がありがたかった。
普通の家よりはいくらか簡素だが、雨風しのげれば充分に豪邸である。中では母親のウィリカが湯を沸かしており、祖母のホルトは奥で針仕事をしていた。
「どう?」
母親の問いにギレイオは頭を振る。
「足りないと思う」
やっぱり、といった風にウィリカは溜め息をつき、暖炉で沸かすお湯に大量の芋を入れた。このまま柔らかく煮て潰し、団子にして乾燥させれば保存食の出来上がりである。
「今年はよく産まれたものねえ……計算が狂ったわ」
「また売る?」
家畜が多産であることは好ましいが、世話をする人手がなければ負担でしかない。そういった理由で冬期の移動を始める前に何頭か売ったのだが、餌と個体数の計算に多少のずれがあったようだ。
「これ以上売ってもあれだから、餌を仕入れてくるしかないかしらね」
「町に行くんだったら、俺が行く」
「あんたねえ……」
今からでは自前で餌を用意するのにも限界がある。他の家から貰うわけにもいかず、町で仕入れなければならないが、町には機械工として働きに行っている父親がいた。夏期はタイタニアで、冬期はグランドヒルで、と河岸を変えて働いており、特にタイタニアには師と仰ぐ人がいるのだと嬉しそうに語っていた。一方のグランドヒルには魔石を掘り出す鉱夫や魔法学校で学ぶ術者などがおり、ギレイオには顔の見えない師よりもそちらの方が魅力的だった。
往復に時間がかかるため、父親は一週間に二日ほどの割合で家に帰ってくる。その他で会おうと思ったら、自ら町に出向くしかなかった。
ギレイオ自身も機械をいじるのが好きであり、息子がそうすることを父親も歓迎していた。一番身近な師である父親に会いたいと思うのは真っ当な欲求であるが、もちろん、子供一人で行ける距離ではない。
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