079.賽は投げられた(1)
「……自由にいろっつった割には働かせんのかよ」
「どうやらお前は庭に対する知識があるらしい。その知識を借りたいと思ったのだが。……そこの枝が出ている」
「あーあー今切ろうと思ったところだよ!素人が口出すんじゃねえ!」
タオが大きな植木鋏で木から飛び出した枝を切り落とすと、神さまはそれを拾ってゴミ袋に入れる。ゴミ袋と言っても、土嚢袋を代用しているだけだった。
「庭に関わる仕事をしていたのか?」
「あの災害が起こるまではな。庭師だった。……にしても、きったねえ庭だな。植木の相性も何もあったもんじゃねえ。芝生が無事なのが不思議なくれえだよ」
「芝生だけはぼくが手入れをしている。他はどう手をつけたものかわからないから、好きなようにさせている」
「そりゃ、こんだけ鬱蒼としてりゃあな」
タオは梯子から降りて、手入れをした木々の向こうに控える木たちを眺めた。好きなようにさせた結果、庭というよりもほとんど雑木林である。どこから手をつけるか悩むのも億劫になる眺めだった。
「こんだけ木があるっつうことは、相当広えな。ったく、よくもまあ残ってこれたもんだよ。どこの金持ちの道楽の跡なんだか」
「ここはぼくの庭だと……」
「へいへい、そうでした。神さまの庭でした。……随分シュールな響きだな。神さまの庭ったら、この世界だろ。そっちが壊れかけてるっつうのに、本宅をほっといて別荘の手入れを頼むとはね」
「大きな独り言だと思うんだが、ぼくはそれに答えるべきだろうか」
「いらねえよ。答えられたら恨み言しか出てこねえ」
「恨み言?」
タオは悪意を込めた目で神さまを睨みつけたが、何も言わずに梯子を担ぐ。
「何か言いたいのなら……」
「いい。てめえは神さまじゃねえんだ。狂ったガキに言うことじゃねえよ」
ぽつぽつと無駄話をしながらタオは手際よく木の剪定をしていった。鬱蒼としていた庭に光の射しこむ余地が生まれると、タオの顔にも満足感のようなものが浮かぶ。
昼過ぎになった頃、三十個目のゴミ袋の口を閉じて、タオは剪定してきた一画を振り返った。
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