077.ビー玉(3)
「……前にも言ったと思うが、ぼくは基本的に何も出来ない。そして少なくとも、この庭に訪れる者はぼくを信じてもらわなければ困る。そうしなければ、ぼくは消える」
「……消える?」
「ぼく自身は知覚出来ないが、どうやら見えなくなるらしい」
「消えたことあるのか?ほんとに?」
「一度だけある。その時初めて運び屋に会い、消えていると教えてもらった。以来、それが縁でぼくが面倒を見ている」
「……」
「何か言いたいのなら、言ったほうが健康にいいぞ」
「いや、いい。……いいや。別に、もう」
「いいのか?聞きたければぼくは答えるが」
「どうせ、自分は神さまだから、で落ち着くだろ」
「おそらくは。……お前はそれが納得出来ないという顔をしていたが、今はどうやら違うようだ」
「ああ、違うかも」
タクミはビー玉を手に遊びながら、笑った。
「……あーあ、いいや。何かもう。ここはこういう場所で、あんたは神さま。そういうことだな?」
「最初からそうだと言っている」
「こんな馬鹿みたいに奇跡的に残ってる場所なんか、ふざけんなとか思ってたけどさ、残れるならいつまでも残ってろってんだ」
「お前が命令するまでもなく、ここはいつまでもこのままだ」
「だから、それでいいって言ってんだよ。残れる限り、ずっとここにあればいい」
言って、ビー玉を高く放り上げる。小さなビー玉は一瞬、太陽の中に消え、再びタクミの手に戻って来た。
「この庭に来る奴が信じねえとあんたが消えるってことは、オレもあんたのこと信じてたってこと?」
「さあ。ぼくは自分が消えたかどうか、自分ではわからない。お前が来てから、ぼくは一度でも消えただろうか?」
「とりあえず消えてねえなあ。てことは何だ、信じてたってことか」
「そういうことになるな」
「何だか気味が悪ぃなあ」
「気味が悪いと笑うものなのか?」
「さあ。知らね。……っと。あれ?」
何度目かに放り上げたビー玉が、太陽の中に消えたまま戻ってこない。タクミは辺りを見回したが、近くに落ちている様子もなかった。
「どこ行ったよ」
「せっかく用意したものを、易々となくされては困る」
「はいはい悪かったな。ただ放り投げただけなのに、どこ行くんだっての」
「そこにある」
神さまが指差した方を見ると、少し離れた木立の間に光る物があった。タクミは安堵の息を吐いてそこへ向かうが、近くに来るとあの光が見えなくなる。
「あれ?……ああ、あっちか」
辺りを見回すまでもなく、前方に離れて光る物が見えた。
「しっかり拾ってくるんだぞ、タクミくん」
「わかってるよ!」
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