074.迷路(3)


「マキちゃんは楽しそうだねえ」

「楽しいです。外ではこんな風にして遊べませんでしたから」

「鏡が恐かったって言ってたもんね。それじゃあガラスも恐かったでしょう」

「はい。だから、いつもびくびくしながら歩いていました。そんなんだから、ここの庭にお世話になることになっちゃったんですけど」

 運び屋はまず、マキの声のする方へ向かった。神さまなら放っておいても大丈夫だと思ったからである。

「でも、鏡がないから楽しいんじゃなくて、お二人とこうして話せるから私楽しいです」

「嬉しいなあ。僕もマキちゃんと話せて楽しいよ。このところ女の子が少なかったからねえ」

「そうだったんですか?」

 ふと、マキの声が遠くなった。

「うん?マキちゃんマキちゃん、ちょっと動かないでね」

「え?動いてませんよ」

「じゃあ僕の耳がおかしくなったのかなあ。……それでさっきの話だけどね、そうそう、つい最近までは元気な男の子がいたんだよ。その子は三ヶ月もこの庭にいたんだ」

「そんなに?そしたら私、どれだけここにお世話になっちゃうんでしょう」

「それは僕も知らないなあ」

「神さまにはわかるんでしょうか?」

 また、マキの声が遠くなったように感じる。

「ぼくにはわからない。マキくんと、この庭が決めることだ」

「そういうものなんですねえ……それなら、私あまりここには長居しないような気がします」

 また遠くなった。運び屋は少し、歩くスピードを速める。

「どうしてそう思うんだい?」

「だって私、もう何が恐いかわかったんです。だから逃げる必要もないのかなって、最近は思うようになって」

「偉いねえ」

「あ、でも、出て行く時はちゃんとご挨拶しますよ!庭の花壇も綺麗にしてから出て行きます」

「花壇?ぼくの庭に花壇なんてあったのか」

「あったんです。小さな菜園にすれば神さまも運び屋さんも困らないかなと思って、綺麗にしてるんですよ」

「ほう。それは楽しみだ」

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