074.迷路(2)
「はぐれましたか?」
「そのようだ」
声は近くで聞こえる。ロープを辿って少しだけ戻り、分岐点ごとに道を覗いてみた。しかし、神さまの姿はどこにもない。
「神さまも迷子ですか」
「運び屋が迷子になったのではないのか?」
「僕にはロープがありますから。神さまが迷子だと思いますよ」
「ああ……確かに。ぼくに戻る道筋はわからないな」
「というわけで、あまり動かないで下さ……今、動いたでしょう」
「ごめんなさい!今のは私です」
「マキちゃんも近くにいるの?」
「ええと多分そうです。運び屋さん、そっちですか?なら今から行ってみま……ひゃっ!」
小さな悲鳴と共に、マキの声が聞こえなくなる。運び屋と神さまは共に耳をすませて待った。
「……マキくんはどこへ行ったんだ?」
「──…すみませーん、何だか全然別の所に出ちゃったみたいです」
ようやく聞こえたマキの声は、先刻とは全く逆方向から聞こえてきた。
「神さま、迷路にずいぶんと大きな仕掛けがあるようですが」
「うむ。迷路というものはいくらか仕掛けがある方が面白いというから、腕によりをかけて作ってみた」
今度は神さまの声まで別の方向から聞こえてくる。どうやら動いているらしい。そして数秒とも経たないうちに、更に別の方向から「おお」という驚いた声が聞こえた。
「どうしましたか?神さま」
「入り口に戻れたようだ」
「ああ、良かった。それならそこから僕たちにどう動けばいいか言ってくれますか?」
「……」
「神さま?」
更に沈黙が答える。運び屋がもう一度呼ぼうとした時、明らかに迷路の中から声がした。
「ぼくの背丈ではお前たちを見ることは出来ない。戻って一緒に捜したほうが賢明だろう」
「その姿って仮のものじゃありませんでしたっけ?」
「…………そういえばそうだったな」
「忘れていましたね?」
「もう随分長いこと、この姿でいるからな」
「そうなると、僕が捜した方が早そうですねえ。お二人とも、もう絶対に動かないで下さいよ」
マキも神さまもそれぞれの言葉で、「わかった」と答えた。
「でも、ちょっと楽しいですね。こういうの」
運び屋が歩き出すと、マキが楽しそうに言う。
- 139 -
[*前] | [次#]
[表紙へ]
1/2/3/4/5/6/7/8
0.お品書きへ
9.サイトトップへ